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能率手当とは? 残業代の計算で気を付けたいポイントと判例解説

2021年09月21日
  • 残業代請求
  • 能率手当
能率手当とは? 残業代の計算で気を付けたいポイントと判例解説

最高裁判所第一小法廷において令和2年3月30日、タクシー会社の運転手に対して歩合給計算にあたって残業手当相当額を控除する賃金規定の有効性が争われた事件(国際自動車事件)について判決が下され、タクシー運転手側が勝訴しました。

タクシー会社では、歩合給以外にも能率手当という名目で同様の賃金体系が採用されていることがあります。このような能率手当に関して残業手当相当額を控除することは認められるのでしょうか。

今回は、能率手当と残業代の計算に関して気を付けておきたいポイントをベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。

1、能率手当とは

基本給のほかに支給される手当として能率手当というものがあります。能率手当とはどのような内容の手当のことをいうのでしょうか。以下では、能率手当の基本的知識を説明します。

  1. (1)能率手当とはどのような手当てか

    能率手当とは、労働者が一定以上の能率を達成したときに支払われる手当のことをいいます。労働の対象として、労働者の職務、職能に応じて支給される手当であることから職務給とも呼ばれることがあります。

    職務給には、能率手当以外にも、役職手当、資格手当、営業手当、精皆勤手当などが含まれます。

  2. (2)手当も労働基準法上の賃金に該当する

    労働基準法では、賃金を「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と定義しています(労働基準法11条)。したがって、手当という名称で支給されるものであっても労働の対償として支払われるものであれば、すべて労働基準法の賃金に該当することになります

    労働基準法では、“時間外手当”、“休日手当”、“深夜手当”といった手当を規定しており、法律上の支給要件を満たす場合には、会社は、労働者等に手当てを支給する義務が生じます。

    能率手当は、労働基準法など法律によって支給要件が定められた手当ではありませんが、会社が就業規則や賃金規定などによって具体的な支給要件を定めている場合には、会社に支給義務が生じることになります

2、能率手当はどのようなときに問題となる?

能率手当の支給は、どのような場面で問題となるのでしょうか。以下では、能率手当が問題となる場面について説明します。

  1. (1)割増賃金計算と能率手当の関係

    会社は、労働者に時間外労働、休日労働、深夜労働を行わせた場合には、割増賃金を支払わなければなりません。そして、割増賃金を計算する場合には、「残業時間×1時間あたりの基礎賃金×割増率」という計算式によって計算します。

    1時間あたりの基礎賃金の計算にあたっては、各種手当も含めた月給を1か月の所定労働時間で割って計算をします。

  2. (2)割増賃金の計算で除外することができる手当

    労働と直接的な関係が薄く、個人的に事情に基づいて支給される手当については、割増賃金の基礎となる1時間あたりの基礎賃金から除外して計算をすることになります(労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条)。

    具体的に除外対象となる手当には、以下のものがあります。

    1. ① 家族手当
    2. ② 通勤手当
    3. ③ 別居手当
    4. ④ 子女教育手当
    5. ⑤ 住宅手当
    6. ⑥ 臨時に支払われた賃金
    7. ⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    これらは、限定列挙ですので、これ以外の手当についてはすべて1時間あたりの基礎賃金に含めて計算しなければなりません。また、これらの手当については、その名称ではなく実質によって判断することになります。

    そのため、“生活手当”という名称であったとしてもその実質が家族手当であるような場合には、1時間あたりの基礎賃金から除外されることになります。

  3. (3)能率手当は割増賃金計算で除外できる手当てか

    能率手当の名称および実質は、上記の制限列挙のうち①から⑥には該当しません。能率手当が該当するものとしては、“1か月を超える期間ごとに支払われる賃金”が考えられます。

    1か月を超える期間ごとに支払われる賃金としては、賞与が代表的なものですが、能率手当もそれと同様の実質を持つものであれば、1時間あたりの基礎賃金から除外することが可能な手当にあたり得ることになります

3、国際自動車事件は何が問題となったのか

冒頭で触れたように、タクシー会社の運転手に対して歩合給計算にあたって残業手当相当額を控除する賃金規定の有効性が争われた事件として国際自動車事件と呼ばれる裁判がありました。

以下では、国際自動車事件についてわかりやすく説明します。

  1. (1)事案の概要

    本件は、一般旅客自動車運送事業などを目的とする国際自動車(以下「被告」「被上告人」と表記します)に対して、同社にタクシー乗務員として雇用されていた従業員ら(以下「原告ら」「上告人ら」と表記します。)が、以下の主張のもと被告に対し、未払賃金などの支払いを求めた事案です。

    • 歩合給の計算にあたって、残業手当などに相当する金額を控除するという賃金規則の定めは無効である
    • 被告は、控除された残業手当相当額の賃金支払義務を負う
  2. (2)本件賃金規則の内容

    本件では、歩合給計算にあたって残業手当相当額を控除する賃金規定の有効性が争点になりました。具体的には、まず本件において被告の就業規則の一部である賃金規則では、基本給のほかに歩合給(1)、歩合給(2)という項目があります。そのうちの「歩合給(1)」の算定にあたり、売上高(揚高)を基に算出される「対象額A」から割増賃金に相当する金額を控除するという定めの有効性が争われたものです。

    つまり、対象額Aから割増賃金などを控除した残りが歩合給となっていました。なお、具体的な賃金規則の内容は、以下のようなものです。

    ① 対象額A

    ● 割増金および歩合給を求めるための対象額
    (所定内税抜揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出税抜揚高-公出基礎控除額)×0.62

    ● 所定内基礎控除額
    所定就労日の1乗務の控除額(平日は原則として2万9000円、土曜日は1万6300円、日曜祝日は1万3200円)に、平日、土曜日および日曜祝日の各乗務日数を乗じた額

    ● 公出基礎控除額
    公出(所定乗務日数を超える出勤)の1乗務の控除額(平日は原則として2万4100円、土曜日は1万1300円、日曜祝日は8200円)を用いて、所定内基礎控除額と同様に算出した額とする


    ② 賃金

    ● 歩合給(1)
    対象額A-{割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当の合計)+交通費}

    ● 歩合給(2)
    (所定内税抜揚高-34万1000円)×0.05

    ● 基本給
    1乗務(15時間30分)あたり1万2500円

    ● 服務手当
    • タクシーに乗務しないことにつき従業員に責任がない場合 1時間につき1200円
    • タクシーに乗務しないことにつき従業員に責任がある場合 1時間につき1000円

    ● 交通費
    交通機関を利用して通勤する者に対し、非課税限度額の範囲内で実費支給する

    ● 深夜手当
    {(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.25×深夜労働時間+(対象額A÷総労働時間)×0.25×深夜労働時間
    ● 残業手当
    {(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×1.25×残業時間+(対象額A÷総労働時間)×0.25×残業時間

    ● 公出手当
    • 法定外休日労働分
      {(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.25×休日労働時間+(対象額A÷総労働時間)×0.25×休日労働時間
    • 法定休日労働分
      {(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.35×休日労働時間+(対象額A÷総労働時間)×0.35×休日労働時間
  3. (3)裁判所の判断

    最高裁判所は、賃金規定の有効性の判断基準として、以下のように示しました。

    1. ① 労働基準法37条が定める割増賃金の支払い義務は、使用者に割増賃金を支払わせることで、時間外労働等を抑制し、ひいては、労働時間に関する規定を遵守させ、また、労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される。
    2. ② 割増賃金の支払い義務が履行されているか判断するためには、割増賃金に該当する金額とその内容が、労働基準法37条に定められた算出方法に則っているか、契約書等の記載内容や諸般の事情を考慮して検討しなければならない。
    3. ③ 算出方法の検討に当たっては、通常の労働時間の賃金に当たる部分と、割増賃金に当たる部分とを、判別できる必要がある。
    4. ④ 検討にあたっては、手当の名称や算定方法だけでなく、当該労働契約の定める賃金体系全体において、当該手当がどのような位置付け等にあるのか、労働基準法37条の趣旨を踏まえて留意しなければならない。


    そして、本件賃金規則の有効性については、以下のように示し、明確区分性を欠くため本件賃金規則は無効であると判断しました。

    1. ① 割増金として支払われる賃金のうち、どの部分が時間外労働等への対価なのかが明らかではない。
    2. ② そのため、通常の労働時間の賃金と、労働基準法37条の定める割増賃金とを判別できない。

4、残業代の支払いについて、疑問があれば弁護士へ

国際自動車事件によって、歩合給や能率手当などの支給にあたって同様の賃金体系を採用している会社で働く労働者の方は、これまで支払われてこなかった割増賃金を請求することができる可能性があります

しかし、国際自動車事件の事案を見てもわかるように、割増賃金の未払いが問題となる企業の多くは、非常に複雑な賃金体系を採用していますので、労働問題に詳しくない方では、どの部分が違法なのかを正確に判断することはできないでしょう。そのような場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談をすることをおすすめします。

弁護士であれば、複雑な法律の解釈から残業代の計算、会社との交渉まで労働者の方に代わって対応することが可能です。割増賃金の請求は、労働者の正当な権利ですので、あきらめることなく請求していくようにしましょう。

5、まとめ

国際自動車事件の最高裁判決を受けて、同種の賃金体系を採用している会社の労働者の方は、割増賃金を請求することが可能な場合があります。

ベリーベスト法律事務所では、労働問題専門チームを設けて、幅広い労働問題に対応できるよう体制を整えています。割増賃金の請求を検討されている方は、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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