交通事故後における第三者行為とは? 書類が求められる理由を解説
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岡山市が公表している交通事故の統計資料によると、令和3年中に発生した岡山市内の人身事故件数は、1977件でした。同年中に岡山県内で発生した人身事故件数が4683件でしたので、岡山県内の交通事故のうち4割以上が岡山市内で発生していることがわかります。
交通事故で通院をしていると「第三者行為による傷病届を提出してください」と言われることがあります。これは、交通事故の怪我の治療の際に、健康保険を利用する場合に必要となる書類です。
第三者行為による傷病届を提出して、治療を受けることによって、さまざまなメリットがありますので、提出が求められる理由などをしっかりと理解しておくことが大切です。今回は、交通事故における第三者行為について、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、交通事故における第三者行為とは
自分以外の第三者の行為によって病気や怪我を負うことを「第三者行為」または「第三者行為による傷病」といいます。
第三者行為にあたる代表的な例としては、以下のものが挙げられます。
- 交通事故の被害にあって負った怪我
- 他人の飼い犬に噛まれたことによる怪我
- スキーやスノーボード中の衝突による怪我
- 他人の料理を食べたことによる食中毒
交通事故では、自損事故を除く人身事故については、基本的には第三者行為にあたることになります。
2、第三者行為による傷病届等などの書類が求められる理由
第三者行為による怪我の治療をする場合には、「第三者行為による傷病届」の提出が求められます。第三者行為による傷病届とはどのような書類で、なぜ提出が求められるのでしょうか。
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(1)第三者行為による傷病届とは
第三者行為による傷病届とは、第三者の行為によって病気や怪我を負った場合の治療に健康保険を利用する際に必要となる届です。第三者行為による傷病届を提出することによって、健康保険を利用することができますので、交通事故の被害者が支払う治療費の自己負担額を抑えることが可能になります。
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(2)第三者行為による傷病届の提出が求められる理由
交通事故のように第三者の行為によって怪我をした場合には、被害者の治療費は、本来加害者が全額負担すべきものといえます。
しかし、健康保険を利用して病院で治療を受けると、本来加害者が負担すべき治療費を健康保険が立て替えて支払うことになります。健康保険では、立て替えて支払った治療費を本来の負担者である加害者に対して請求することになりますが、その際に必要となるのが「第三者行為による傷病届」です。
すなわち、健康保険が加害者の情報を把握して、後日、立て替えて支払った治療費などを加害者に対して請求しやすくするために「第三者行為による傷病届」の提出が求められると理解しておくとよいでしょう。 -
(3)第三者行為による傷病届の提出が求められるケース
交通事故の被害に遭って治療を受ける場合、常に第三者行為による傷病届の提出が求められるわけではありません。第三者行為による傷病届の提出が必要となるのは、怪我の治療のために健康保険を利用する場合に限られます。
交通事故の被害者が病院で治療を受けた場合には、一般的に加害者側の保険会社が直接病院に治療費の支払いを行ってくれますので、被害者が健康保険を利用して治療費の支払いをすることはありません。このような保険会社の対応を「一括対応」といいます。
しかし、以下のようなケースについては、一括対応をしてもらうことができませんので、健康保険を利用して治療をするために第三者行為による傷病届の提出が必要となります。① 加害者が任意保険に加入していない場合
加害者が任意保険に加入していない場合には、任意保険会社による一括対応を受けることができません。このような場合には、被害者が支払った治療費を後日加害者に対して請求するという扱いになりますので、被害者が一旦治療費を立て替えて支払う必要があります。
健康保険を利用せずに利用をすることもできますが、被害者が支払う金額が大きくなってしまいますので、通常は自己負担額を抑えるために健康保険が利用されます。
② 保険会社から治療費の打ち切りをされた場合
交通事故の怪我の治療について保険会社による一括対応をしてもらっていたとしても、通院期間がある程度に達した場合には、保険会社から治療費の打ち切りを求められることがあります。その時点で怪我が完治しているのであれば治療を終了すればよいですが、まだ痛みや痺れが残っているという場合には、治療を継続する必要があります。
治療費を打ち切られたとしても、治療を止めなければならないわけではありませんが、治療を継続する場合には、被害者が治療費を負担して、治療を行っていかなければなりません。
その際、被害者の経済的負担を軽減するために、健康保険が利用されます。
なお、この場合の治療費については、事故と因果関係があり、必要かつ相当な範囲であれば、後日交通事故の賠償金に含めて加害者に請求することができます。
③ 被害者側の過失が大きい場合
交通事故の態様によっては、被害者にも落ち度があり、一定の過失が生じることがあります。交通事故では、事故態様などを踏まえて加害者と被害者の過失割合を決めることになりますが、被害者側の過失割合が4割を超えるようなケースでは、加害者の保険会社から一括対応を拒否される可能性があります。
このような場合には、健康保険を利用して通院を行い、後日、被害者が立て替えて支払った治療費を交通事故の賠償金に含めて加害者に請求していくことになります。
3、書類を提出しないとどうなる?
第三者行為による傷病届を提出しないとどうなるのでしょうか。以下では、第三者行為による傷病届を提出しないことによるデメリットについて説明します。
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(1)治療費を全額負担しなければならない
第三者行為による傷病届を提出しなければ健康保険を利用して治療を受けることはできません。そのため、病院の窓口では、治療費の10割を被害者が支払わなければなりませんので、治療内容および治療期間によっては、高額な治療費を負担しなければならない可能性があります。
もちろん、被害者が負担した治療費については、後日、加害者(保険会社)に対して、交通事故の賠償金に含めて請求することができますが、一時的でも高額な負担をしなければならないという点がデメリットといえるでしょう。 -
(2)受け取ることができる賠償金が少なくなる可能性がある
交通事故の加害者が任意保険に未加入で、自賠責保険しか加入していない場合には、加害者の資力によっては、自賠責保険からの賠償しか受けられない可能性があります。
自賠責保険では、傷害に対する損害賠償金の上限が120万円に設定されていますので、健康保険を利用せずに自由診療によって治療を受けていると、治療費だけで上限の120万円を超えてしまい、慰謝料や休業損害といった補償を受けることができないおそれがあります。
4、第三者行為による傷病届の提出の流れと注意点
第三者行為による傷病届を利用する場合の流れと注意点は以下のとおりです。
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(1)第三者行為による傷病届の提出の流れ
健康保険を利用して交通事故の治療を受ける場合には、健康保険運営者に対して、第三者行為による傷病届を提出しなければなりません。その際には、以下の書類の提出も必要となります。
- 事故発生状況報告書
- 同意書(念書)
- 誓約書
- 交通事故証明書
- 健康保険証
上記の書類については、健康保険組合(国民健康保険の場合には市役所)に連絡をして、交通事故の治療のために健康保険を利用したいと伝えれば、必要書類一式を送ってもらうことができます。
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(2)第三者行為による傷病届を利用する場合の注意点
第三者行為による傷病届を提出して健康保険による治療を受ける場合には、以下の点に注意が必要です。
① 示談が成立する前に連絡をする
加害者または保険会社との間で示談が成立して、賠償額の支払いを受けた場合には、健康保険は賠償額の限度内で保険給付をしなくてもよくなってしまいます。
たとえば、健康保険に連絡や届出をすることなく、示談を成立させてしまったとしましょう。この場合、健康保険が請求すべき医療費などを加害者に対して請求することができなくなり、その結果、被害者が負担することになる可能性もあります。
そのため、示談をする際には、健康保険に事前に連絡するようにしましょう。
② 健康保険が使えない場合もある
通勤中や業務中の病気や怪我については、労災保険による補償の対象となりますので、健康保険を利用して治療を受けることができません。また、被害者が飲酒運転や無免許運転などの法令違反によって事故を起こしたような場合にも健康保険を利用することができません。
5、まとめ
交通事故による怪我の治療をする際には、加害者の保険会社によって一括対応が行われますので、被害者の方が健康保険を利用して治療をすることはありません。しかし、治療費の打ち切り後の治療や加害者が無保険であった場合には、健康保険を利用して治療を受ける必要がありますので、その際には「第三者行為による傷病届」の提出をしなければなりません。
交通事故の賠償額(慰謝料)については、弁護士が交渉をすることによって増額できる可能性がありますので、交通事故の被害に遭われた方は、まずはベリーベスト法律事務所 岡山オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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