遺産分割協議を無効にするにはどうしたら良い? 条件や注意点とは
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「遺産分割」は「遺言書」に従って行う場合と「遺産分割協議」を行なって決める場合があります。「遺産分割協議」を行う場合は相続人が全員参加し、その上で協議内容に全員が同意しなければ相続を開始することはできません。
それでは、たとえば自分の知らない間に「遺産分割協議」が行われて自分が納得できない内容で遺産分割が決まってしまっていた場合、その内容を無効にすることはできるのでしょうか?
「遺産分割協議」を無効にする方法ややり直す場合の注意点まで、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説していきます。
1、遺産分割協議を無効にするには? 取り消しとの違い
「遺産分割協議」とは、相続人全員が参加して遺産の分割内容を決める話し合いのことをいいます。基本的に、遺言書がない場合に行われますが、遺言書がある場合にも行われることがあります。遺言書とは異なる内容で遺産を分けたい場合、遺産分割協議で法定相続人全員が合意すれば、遺産分割協議で決定した内容で遺産を分割することができるからです。
それでは「遺産分割協議」に納得がいかない場合、無効にするにはどうすればよいのでしょうか?
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(1)「無効」と「取り消し」の違い
遺産分割協議の成立を否定できるものとして、「無効」と「取り消し」という考え方があります。それぞれ、どのような内容なのか見ていきましょう。
① 無効
遺産分割協議が成立するためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。- 相続人全員が参加すること
- 相続人全員が協議内容に合意すること
そのため、この条件をひとつでも満たしていない場合は、協議がそもそも成立していなかったことになります。これが「無効」になるということです。
「無効」は必ず成立するものではありませんが、遺産分割について利害関係を有する人であれば誰でも主張をすることが可能であり、いつまでに主張しなければいけないという期間制限もありません。
② 取り消し
一方、「取り消し」は、遺産分割協議が成立する条件は満たしていたものの、「合意したことは間違いだった」と主張することで遺産分割協議をなかったことにすることをいいます。取り消しを主張できるのは、民法120条に定められている以下の「取消権者」に限られるため、注意が必要です。- 制限行為能力者(未成年者や成年被後見人、被保佐人など)
- 錯誤、詐欺または強迫を受けて瑕疵のある意思表示をした者(勘違いをしたり、詐欺や強迫を受けたりしたことで正しい主張をできなかった人)
- 上記の代理人もしくは承継人(親権者や権利を受け継いだ人)
また、「取り消し」は「無効」とは異なり主張することができる期間に限りがあります。騙されたことや強迫されたことに気がついた時から5年、その事実に気がつかなくても遺産分割協議成立の時点から20年経つと取り消しを主張する権利が消滅してしまうのです。
騙されたと気がついて遺産分割協議を取り消したいような場合には、騙されたとわかった時点で5年が経つ前に「取り消したい」という主張をしましょう。 -
(2)遺産分割協議の無効・取り消しをする方法
遺産分割協議を無効または取り消しをする方法について、順を追ってみていきましょう。
① 無効・取り消しを主張する
遺産分割協議が無効であったことに気がついた場合、あるいは遺産分割協議に合意したことを取り消したい場合、まずは他の相続人にその旨の意思表示をしましょう。
この時、「無効」の場合は利害関係を有すれば誰が主張をしてもいいですが、「取り消し」の場合は「取消権者」が「取り消したい」と主張しなければいけません。
無効や取り消しを主張しても、一人でもそれに納得しない相続人がいた場合、話し合いの場を調停に移行します。
② 調停をする
相続人間の話し合いで「無効」あるいは「取り消し」の主張を認めてもらえなかった場合、「調停」を行いましょう。「調停」とは、家庭裁判所において話し合いで争いを解決することを目的としている制度で、調停委員や裁判官とともに行います。
遺産分割協議に「無効」事由があった、あるいは「取り消し」事由があったため遺産分割協議を無効だと主張する場合に行われるのが「遺産分割協議無効確認の調停」です。無効・取り消しを認められた場合、遺産分割協議がなかったことになります。
また、そもそも遺産分割協議が行われていなかったと主張する場合に行われるのが「遺産分割協議不存在確認の調停」です。たとえば、遺産分割協議が行われていないにもかかわらず、ある相続人が遺産分割協議書を偽造していた場合に行われます。
どちらの調停も家庭裁判所に申し立てを行い、遺産分割協議の無効や取り消し、不存在を主張しましょう。
調停で合意に至らない場合には、審判に移行します。
③ 審判に進む
「調停」で合意に至らなかった場合、自動的に「審判」の手続きが開始します。「審判」は調停と異なり、当事者間の話し合いではなく、家庭裁判所の裁判官が決定を行います。
2、遺産分割協議を無効・取り消しできる可能性があるケース
遺産分割協議を無効にできる可能性があるケースと取り消しできる可能性があるケースをそれぞれご紹介します。
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(1)無効にできる可能性があるケース
① 相続人の一部が参加していなかったケース
遺産分割協議には相続人全員が必ず、参加しなければいけません。そのため、相続人がひとりでも参加していなかった場合は、遺産分割協議を無効にできる可能性が高いでしょう。
② 相続人ではない者が参加していたケース
相続人ではない第三者が遺産分割協議に参加して遺産を分割されていたような場合、遺産分割協議を無効にできる可能性があります。
③ 民法上の法律行為の無効に該当するケース
民法上、無効になる可能性があるケースがあります。
たとえば、2歳の子どもや認知症患者のように意思表示をすることができない者がいて、代理人もいないのに遺産分割協議が行われた場合は無効になる可能性が高いでしょう。
また、協議内容に犯罪行為や人権を侵害するような内容が含まれている場合も遺産分割協議が無効になる可能性があります。 -
(2)取り消しできる可能性があるケース
① 錯誤(勘違い)していたケース
遺産分割協議の内容をひどく勘違いをしていた場合、遺産分割協議の取り消しができる可能性があります。
② 詐欺・強迫が行われたケース
騙されて遺産分割協議に合意していたり、脅されて合意していたりした場合、取り消しができる可能性があるでしょう。
③ 参加していた相続人が未成年で法定代理人がいなかったケース
未成年が遺産分割協議の内容に合意する場合は法定代理人(原則親権者)の同意を得なければいけません。
そのため、法定代理人の同意が得られず成立してしまった遺産分割は、取り消しできる可能性があります。
3、遺産分割協議をやり直すときの注意点
遺産分割協議が無効あるいは取り消しになると、遺産分割協議をやり直す必要があります。やり直す場合には注意しておきたいことについても確認していきましょう。
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(1)贈与税がかかる可能性がある
遺産分割協議をやり直すと、相続財産に贈与税がかかってしまう可能性があります。
なぜなら、遺産分割をすでに行なって相続税を納めていた場合、遺産分割協議のやり直しによって取得した遺産は「相続」ではなく「贈与」の扱いになるからです。
そのため、やり直しを行うとすでに支払った「相続税」に加えて「贈与税」の支払いを求められる可能性があります。 -
(2)不動産取得税や登録免許税がかかる
遺産分割協議のやり直しによって、不動産(家や土地など)の相続人が変わる場合、「相続」ではなく「贈与」や「売買」の扱いとなります。
そのため、「相続」の場合には必要がなかった「不動産取得税」の支払いを請求される可能性があります。また、不動産を登記するための税である「登録免許税」も請求される可能性があるでしょう。 -
(3)第三者に遺産分割の協議のやり直しを主張することができない
たとえば遺産分割で得た家が売却され、その家を買った第三者が家の登記も済ませてしまっているような場合、遺産分割協議をやり直したとしても第三者に家の返却を求めることはできません。
何も事情を知らない第三者の権利を守るためです。
4、遺産相続でトラブルになっている場合は弁護士に相談を
遺産相続はさまざまなトラブルが起きる可能性があります。遺産分割協議で揉める場合や遺言書の内容に納得がいかない場合、相続内容に借金が見つかり相続放棄したいがやり方がわからない場合などもあるでしょう。
遺産相続について困っていることやわからないことがある場合は、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士に相談をすることで遺言書の内容が適切なのか、また相続の内容が自分に不利になっていないかなどのアドバイスを受けることが可能です。
悩んでいる間に手続きの期限が過ぎてしまう場合もありますので、トラブルが起きたらすぐに弁護士に相談しましょう。
5、まとめ
遺産分割協議は無効事由や取り消し事由があった場合、無効・取り消しにできる可能性があります。
無効・取り消しのためには、まずは当事者間で話し合いを行い、決裂すれば調停、それも決裂すれば審判を行なって解決しましょう。
無効・取り消しになった遺産分割協議はやり直すことができますが、相続税に加えて贈与税を払う可能性や第三者に渡ってしまった不動産は取り返せない可能性が高いことなどに注意点が必要です。
遺産相続はトラブルが起きた場合、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。ぜひベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士へご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています