婿養子に相続権はない? 相続権が認められるケースについて解説

2021年06月07日
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婿養子に相続権はない? 相続権が認められるケースについて解説

男性が結婚して女性側の姓を名乗ったり、女性の実家の両親と生活したりすることを「婿養子」、「婿入り」などと呼ぶことがあります。婿入りした男性としては、妻の両親と同居をし、ときには妻の両親の介護にも関わることがあります。妻の両親からみれば、自分の息子と同じように感じていることでしょう。

さて、妻の両親が亡くなったときには、当然、相続が開始することになりますが、婿入りした男性には妻の両親の遺産を相続する権利があるのでしょうか。実は、結婚して妻の姓を名乗ることになっただけでは相続権が発生するわけではありません。

今回は、婿養子に相続権が認められるケースについて、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。

1、ポイントは「養子縁組」をしているか

婿養子となった男性が妻の両親の遺産を相続するためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。以下では、婿養子の相続のポイントについて説明します。

  1. (1)婿養子とは

    婿養子とは、法律用語ではなく、一般的に、男性が結婚をして女性側の姓を名乗ることや女性の実家の両親と同居をするといった意味合いで使われることが多いです。

    「養子」という言葉が付いていますが、一般の方は、養子縁組をしているか否かという点ではなく、結婚に際して男性の姓が変わったことを指して「婿養子に入ったんだな」と考えることが多いといえます。

  2. (2)相続権を取得するには養子縁組が必要

    婿養子となった男性が、妻の両親の相続権を取得するためには、妻の両親と「養子縁組」をしていることが必要になります。妻の姓を名乗っているというのは、あくまでも姓の選択という意味を持つに過ぎず、それによって妻の両親と法律上の親子関係が生じることはありません

    また、どれだけ長期間妻の両親と同居をし、世話をしてきたとしても同様にそれだけでは法律上の親子関係は生じません。したがって、婿養子の男性は、妻の両親と養子縁組をして初めて相続権を取得することになるのです

  3. (3)養子縁組の手続き

    養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類がありますが、婿養子に入るときに利用されるのは、主に普通養子縁組という手続きです

    普通養子縁組とは、実の親との間の親子関係を維持した状態で、養親との間で新たな親子関係を生じさせる手続きのことをいいます。つまり、婿養子の男性としては、自分の両親と、妻の両親の両方の親を持つことになり、自分の両親と妻の両親の両方の遺産を相続する権利を取得することになります

    普通養子縁組をするには、養親または養子の所在地または本籍地の市区町村役場に養子縁組届を提出することによって成立しますが、成立にあたっては以下のような条件があります。

    • 養子が養親よりも年下であること
    • 養親が20歳以上、もしくは婚姻していること
    • 養子が養親の叔父や叔母などの尊属でないこと
    • 養親になる人が養子になる人の養親になる意思があること
    • 養子になる人が養親になる人の養子になる意思があること
    • 後見人が被後見人を養子にするときは家庭裁判所の許可を得ていること
    • 婚姻している人が未成年者を養子にするときは夫婦一緒に養親になること
    • 養親や養子になる人が婚姻しているときは配偶者の同意を得ること
    • 養子になる人が未成年者のときは家庭裁判所の許可を得ていること

2、養子縁組をした婿養子の相続権と相続割合

法律上の養子縁組の手続きをすることによって、婿養子は妻の両親の相続権を取得することになります。では、その場合の相続割合はどのくらいになるのでしょうか。

  1. (1)婿養子の相続権

    婚姻している人が未成年者を養子とするときには、夫婦一緒に養親にならなければならないという決まりがありますが、それ以外のケースでは、妻の父のみ、または妻の母のみが養親となることが可能です。

    妻の両親と養子縁組をしたときには、婿養子の男性は、妻の両親それぞれの相続権を取得しますが、妻の両親の一方のみと養子縁組をしたときには、その養子縁組をした親についてのみ相続権を取得し、養子縁組をしなかった親との関係では相続権はありません。

  2. (2)婿養子の相続割合

    養子縁組によって、法律上の親子関係が生じますので、妻の両親と養子縁組をしているときには、妻や妻の兄弟姉妹と同様に相続人になり、相続割合も実子が相続した場合と変わりません養子だからといって、実子よりも相続割合が少ないということはありません

    たとえば、妻の母が亡くなり(妻の父はすでに他界)、妻には弟が一人いたというケースでは、婿養子、妻、弟はそれぞれ3分の1ずつの割合で相続をすることになります。弟としては、本来は2分の1の割合で遺産をもらうことができたのに、婿養子が養子縁組をしたことによって自分の取り分が減ることになるため、そのことに不満を抱き、遺産分割で揉めることもあります。

    そのようなトラブルを回避するには、養子縁組をする際に、他の家族にもきちんと事情や経緯を説明しておくとよいでしょう。

3、離婚や養子縁組を解消していた場合の相続権

養子縁組をした婿養子には実子と同様に相続権があるとしても、その後離婚をしたり、養子縁組を解消したりしたときにはどうなるのでしょうか。

  1. (1)妻と離婚をした場合

    妻と離婚をした場合には、妻との夫婦関係が解消されて、法律上は他人同士になります。しかし、離婚によって解消されるのは、あくまでも夫婦関係のみであり、妻の両親との間の養子縁組には何の影響もありません。

    したがって、妻と離婚をしたとしても、妻の両親の養子である限りは、妻の両親の遺産を相続する権利は残ったままとなります

    一般的には、離婚と同時に養子縁組も解消することが多いため、問題となることは少ないですが、養子縁組の解消を忘れていたため、離婚した元配偶者が相続手続に関与しなければならないという事態も生じますので、注意が必要です。そのようなケースでは、相続放棄をすることによって、婿養子となった男性は相続手続から離脱することが可能です。

  2. (2)養子縁組を解消した場合

    養子縁組を解消することを「離縁」といいます。離縁をすることによって、養子縁組によって生じた法律上の親子関係は解消されますので、それに伴い相続権もなくなることになります。

    離縁自体は、市区町村役場に離縁届を提出することによって成立しますが、離縁をするためには、養親と養子それぞれの同意が必要になり、どちらか一方が反対しているときには、合意によって離縁することはできません。その場合には、家庭裁判所に離縁調停を申し立てることになり、調停でも解決しないときには最終的に離縁訴訟を提起することになります。

4、養子縁組をした婿養子には相続させないと遺言書に書かれていたらどうなる?

婿養子となり、養子縁組をしたものの妻の両親との関係が悪化したなどの理由で、妻の両親が婿養子に対して遺産を相続させないという内容の遺言書を残すこともあります。このような場合には、婿養子は何も相続することができないのでしょうか。

  1. (1)婿養子にも遺留分がある

    被相続人に遺言書がないときには、婿養子を含めた相続人全員で話し合いをして、法定相続分で遺産を分割していくことになります。しかし、被相続人の遺言書があったときには、法定相続分よりも遺言の内容が優先されるため、遺言書の内容に従って相続手続を進めていくことになります。

    もっとも、相続人には、法律上保障された最低限度の取得割合である遺留分というものが保障されています。これは、実子だけでなく養子縁組をした子どもにも認められているものです。そのため、遺言書に婿養子に相続させないと書かれていたとしても、遺留分については取得することができます

    婿養子の遺留分の割合としては、法定相続分×2分の1になります。

    なお、兄弟姉妹については、遺留分は認められていませんので、妻の兄弟姉妹の相続にあたっては注意が必要です。

  2. (2)遺留分の請求方法と期限

    妻の両親が残した遺言書の内容に不満である婿養子としては、その相続人らに対して、遺留分侵害額請求権を行使して、遺留分相当額の金銭の支払いを請求していくことになります。もっとも、場合によっては、妻を相手に請求していくこともありますので、お互いの関係性を踏まえて権利を行使するかどうかは慎重に判断しましょう。

    遺留分侵害額請求権については、相続開始のときから10年または遺留分侵害の事実を知ったときから1年という期間制限があります。そのため、遺留分侵害の事実を知ったときには早めに請求をしなければなりません。いつ権利を行使したかで後日争いにならないようにするためにも、遺留分侵害額請求は、内容証明郵便によって行うようにしましょう。

5、まとめ

世間の方が考えている「婿養子」という概念と、法律上相続権のある「婿養子」とでは、ズレがあることがあります。お互いに養子縁組をする意思があるにもかかわらず、妻の姓を名乗り、一緒に生活していることで当然に相続権が発生するものと誤解して、養子縁組の手続きを怠っているケースもあります。養親の死亡後に相続でトラブルになることを回避するためにも、養子縁組の手続きは忘れずに行うようにしましょう。

婿養子の相続の事案では、妻の両親と同居をし、介護をするなど特別な貢献をしたケースでは寄与分が、妻の両親から特別の援助を受けていたときには特別受益が問題となることがあります。不利な内容の遺産分割とならないように、相続が発生したときには、弁護士に相談するようにしましょう。

養子縁組や遺産相続に関してお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています