遺言書を勝手に破棄されてしまった場合の対処法

2021年03月22日
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遺言書を勝手に破棄されてしまった場合の対処法

遺言書を作成するときには、主に自筆証書遺言か公正証書遺言の方式が利用されています。公正証書遺言を作成するときには、公証役場で作成しなくてはなりません。岡山市内にも「岡山公証センター」と「岡山公証人合同役場」の2か所が存在しています。

このような遺言書を作成していたとしても、遺言者が亡くなった後に、遺言の破棄や偽造が行われてしまうことがあります。

そのようなことになると、遺言の内容を実現することができなくなってしまいます。遺言書を勝手に破棄されたり、偽造されてしまったときには、どのように対処すればよいのでしょうか。

今回は、遺言書を勝手に破棄されたり、偽造されてしまったりしたときの対処法から、破棄や偽造を防ぐ方法についてベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。

1、遺言書の破棄・偽造とは?

遺言書の破棄・偽造とはどのようなことをいうのでしょうか。また、どのような方式の遺言が破棄や偽造をされやすいのでしょうか。

  1. (1)遺言書の破棄・偽造について

    遺言書の破棄とは、遺言書の効用を害する一切の行為をいいます。

    たとえば、遺言書を破り捨てる、遺言書を燃やす、遺言書を隠すなどが遺言書の破棄にあたる行為です

    また、遺言書の偽造とは、遺言書の作成権限がないにもかかわらず、遺言書を作成する行為をいいます。

    たとえば、遺言書に文字を書き加えたり、遺言書の内容を書き換えたりして変更するといった行為が遺言書の偽造にあたります

  2. (2)破棄や偽造は自筆証書遺言に多い

    遺言の方式については、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの方式があります。

    自筆証書遺言については、遺言者が自ら作成する遺言のことをいい、公正証書遺言と秘密証書遺言は公証役場において公証人が作成するものをいいます。

    公正証書遺言と秘密証書遺言については、公証人が作成し、公証役場において保管することになりますので、遺言書の破棄や偽造はほとんど問題になりません

    これに対して、自筆証書遺言は、遺言者が作成し、遺言者が自宅などで保管していることがほとんどです。

    そのため、何かのきっかけで遺言書を発見した相続人が、自己に有利な相続となるよう、遺言書自体を隠す、内容を書き換える、という事態が生じてしまうことがあるのです。

    このように、遺言書の破棄や偽造が問題となるのは、自筆証書遺言が圧倒的に多いといえます

2、遺言書が破棄・偽造された場合の影響

遺言書が破棄・偽造されてしまった場合には、遺言書の効力はどうなってしまうのでしょうか。

以下では、遺言書が自筆証書遺言として作成されたことを前提に説明します。

  1. (1)遺言書が破棄されたとき

    遺言書が燃やされたり、破り捨てられたりしたときには、この世に遺言者が作成した遺言書は存在しなくなります。

    そのため、遺言の内容を知る余地はありませんので、遺言は存在しないものとして、相続人の話し合いによる遺産分割(遺産分割協議)を行わなければなりません

    なお、遺言書が隠匿されており、後日遺言書が発見されたという場合には、遺言書自体が法律の要件を満たした有効なものであれば、隠匿された遺言書であっても有効な遺言書として扱われることになります。

  2. (2)遺言書が偽造されたとき

    自筆証書遺言については、「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」(民法968条1項)とされています。

    遺言書の内容や文字に不自然なところが見つかったときには、一般的には筆跡鑑定という方法によって、偽造の有無が判断されることになります。筆跡鑑定の結果、偽造の疑いが出てきたということであれば、遺言の無効を確認するために、遺言無効確認の訴えを裁判所に提起しなければなりません

    なお、自筆証書遺言については、検認という手続きがとられることになりますが、検認はその時点の遺言の状態を確認するという効果しかなく、検認によって遺言の有効無効を判断するわけではありません。

3、相続人へのペナルティ

遺言書を破棄・偽造した人はそれに対して何か責任を負うのでしょうか。

以下では、遺言書を破棄・偽造した人が負う、民事上と刑事上の責任について説明します。

  1. (1)民事上の責任

    民法891条5号において、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」については、相続人となることができないと規定しています。これが相続欠格事由です。

    被相続人が亡くなったときには、相続人には被相続人の財産を相続する権利があります。しかし、遺言書を破棄・偽造するような重大な違法行為をした相続人も他の相続人と同様に遺産を相続することができるとするのは明らかに不合理です。

    そこで、相続欠格事由に該当する行為をした相続人については、相続人となる資格を失うことになるのです。相続欠格事由のある相続人は、遺産分割協議に参加することはできませんので、相続欠格事由のある相続人を除いて遺産分割協議を進めることになります

    相続欠格事由のある相続欠格者は、「法律上当然に」相続人となる資格を失うため、原則として裁判などの手続きをする必要はありません。

    相続欠格者が、相続欠格事由があることを自ら認めているのであれば、相続欠格者であることの証明書を作成して、相続欠格者の署名押印をもらっておけば、その後の相続登記などの手続きにおいて、利用することができます。

    他方、相続欠格者が相続欠格事由に該当することを認めていないときには、相続欠格事由に該当することを確定させるために、相続人の地位の存否を確認する訴訟を提起しなくてはなりません

    なお、遺言書の破棄または隠匿に関しては、相続に関して不当な利益を得ることを目的としてなされたものでない限りは、相続欠格事由には該当しないとする判例もありますので注意が必要です。

  2. (2)刑事上の責任

    遺言書を偽造した場合には、有印私文書偽造罪に問われる可能性があります(刑法159条1項)。また、遺言書を破棄したときには、私用文書毀棄罪に問われる可能性があります(刑法259条)。

    なお、有印私文書偽造罪の法定刑は、3月以上5年以下の懲役、私用文書毀棄罪の法定刑は、5年以下の懲役と規定されています。

4、遺言書の破棄・書き換えを防ぐには

遺言書が破棄・偽造されてしまうと、相続欠格者との間で相続欠格事由をめぐる争いに巻き込まれてしまいます。

自分の死後に家族がこのような大変な思いをすることがないように、遺言書を作成するときには、遺言書の破棄や偽造を防ぐための手段を講じておく必要があります。

  1. (1)公正証書遺言の作成

    前述のとおり、遺言書の破棄や偽造がされるケースとして圧倒的に多いのが、遺言書を自筆証書遺言によって作成されているケースです。

    遺言書の破棄や偽造を防ぐためには、遺言書を自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言によって作成することがおすすめです

    公正証書遺言については、遺言者の意思に基づいて公証人が作成しますので、作成段階で他者の意思が介入する危険がありません。また、完成した公正証書の原本については、公証役場において保管されることになりますので、相続人などによる破棄や偽造のリスクは極めて低くなります。

    公正証書を作成する際には、公正証書の原案を作成したうえで、公証役場に赴くとスムーズに公正証書遺言の作成が進みます。

    このような公正証書原案を作成するにあたっては、弁護士などの専門家に相談しながら作成するのもよい方法です。

    特に、法定相続分とは異なる分け方を希望する場合、遺留分の侵害に注意しなくてはなりません

    一定の範囲の相続人には、最低限の遺産の取り分として遺留分が法律上保障されています。遺留分を侵害するような内容の遺言書を作成すると後々遺留分の争いに相続人が巻き込まれるリスクがあるのです。

    希望する遺言の内容とそれを実現したときのリスクについて、適切に判断するためにも弁護士のサポートを受けながら進めていくとよいでしょう。

  2. (2)自筆証書遺言の保管制度の利用

    これまで、自筆証書遺言については、基本的に自宅で保管しなければならないため、紛失や破棄・偽造のリスクが存在していました。

    しかし、令和2年7月10日から自筆証書遺言書の保管制度がスタートし、自筆証書遺言書を法務局で保管してもらえることになりました。

    自筆証書遺言の保管制度を利用することによって、遺言書の破棄や偽造のリスクを軽減することができるだけでなく、裁判所での検認手続きも不要になりますので、残された家族の負担も減ることになります

    ただし、法務局は、遺言の内容を確認してくれるわけではありません。自筆証書遺言の要件を満たしていないときには、せっかく残した遺言が無効になってしまうこともあるのです。

    そのため、自筆証書遺言を作成する際には、専門家である弁護士に作成を頼むか、内容のチェックをしてもらうようにしましょう。

5、まとめ

遺言書を作成する際には、相続人などによって破棄や偽造をされないように対策をとることが重要です。

また、遺言書が破棄や偽造された疑いがあるときには、遺言の無効確認の訴えや、相続人の地位の存否の確認の訴えを起こさなければならず、複雑な相続手続きが予想されます。

遺言書に少しでもおかしいところがあると感じたときには、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。

遺産相続や遺言書に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています