遺言執行者と相続人が同一なのは問題? 相続トラブルの対処法
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広島国税局が公表している「令和元年分相続税の申告事績の概要」によると、令和元年度における岡山県内の被相続人数(死亡者数)は2万1944人でした。そのうち、相続税の申告書の提出に係る被相続人数は、1596人でした。
遺言書を作成するにあたって、遺言執行者を指定する場合に、誰を指定したらよいか悩むところです。身近で遺言執行者という面倒な仕事を頼むことができる人といったら、信頼できる家族であることが多いでしょう。しかし、遺言執行者を頼んだ家族が、自分の相続人であるときには、何か問題が生じないか心配になる方もいるかもしれません。
今回は、遺言執行者と相続人が同一であることは問題かどうかについて、トラブルの対処法とともにベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、遺言執行者の基礎知識
まずは、遺言執行者がどのような人なのかを理解することが必要になります。以下では、遺言執行者に関する基礎知識について説明します。
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(1)遺言執行者とはどのような人か
遺言執行者とは、遺言者の残した遺言の内容を実現するために、遺言者の死後に必要な手続きを行う権限を有する人のことをいいます。
遺言執行者は、遺言者が遺言書で指定することもできますし、被相続人の死後に、利害関係人が家庭裁判所に申し立てをすることによって選任することもできます。 -
(2)遺言執行者の役割
遺言書に、以下のような事項が含まれている場合には、必ず遺言執行者を指定または選任する必要があります。
- 遺言認知……遺言書で婚外子を認知すること
- 推定相続人の廃除……推定相続人に相続資格を与えないようにすること
このような事項が含まれている場合には、遺言執行者は、遺言者に代わって、遺言者の死後、市区町村役場に認知届を提出したり、家庭裁判所に推定相続人の廃除の申し立てを行うことになります。これらの事項は、相続人では行うことができないため、遺言執行者の指定または選任が必要になるのです。
上記の遺言事項以外は、必ず遺言執行者を指定または選任しなければならないというわけではありません。そのため、遺言書で遺言執行者を指定するかどうかは、遺言者の自由です。しかし、遺言執行者を指定しておくことで、以下のようなメリットがありますので、できる限り指定しておくことをおすすめします。
①不動産の遺贈がスムーズにできる
遺言書で第三者に不動産を遺贈する場合には、相続人が遺贈義務者として、受遺者に対して移転登記手続きを行わなければなりません。相続人全員が協力して行うことができればよいのですが、相続人の中に遺贈の内容に不満を抱く人がいた場合には、相続登記手続きの協力を得られない可能性があります。
遺言執行者が指定されている場合には、遺贈義務者は遺言執行者だけになりますので、遺言執行者と遺贈を受ける方だけで移転登記手続きを行うことが可能になります。相続人が複数いて、遺言内容に反対する人がいるようなケースでは、遺言執行者の指定をしておくことが有効な手段となるでしょう。
②相続手続きが簡略化できる
金融機関で預貯金口座の解約や払い戻しの手続きをする際には、相続人全員の印鑑証明書や実印を要求されることがあります。相続人の人数が多かったり、遠方に住んでいる方がいるような場合には、書類の準備だけでも相当な手間がかかります。
遺言執行者が指定されていれば、相続人に代わって、遺言執行者が預貯金口座の解約や払い戻し手続きを行うことができます。相続人の負担を減らすという意味でも、遺言執行者の指定は有効な手段です。
2、遺言執行者と相続人が同一人物であることは問題?
遺言執行者になれる人には何か決まりがあるのでしょうか。また、相続人を遺言執行者に指定した場合に何か問題になることはあるのでしょうか。
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(1)遺言執行者になれる人
遺言執行者については、法律上、未成年者と破産者以外の方であれば、誰でもなることができます。そのため、遺言執行者には、相続人や受遺者であっても法律上問題なく就任することが可能です。一般的には、遺言者の身近にいる相続人や、遺言書作成時に関与した弁護士などの専門家が遺言執行者になることが多いといえます。
なお、遺言執行者には、自然人だけでなく法人もなることができますので、信託銀行やNPO法人、弁護士法人などが遺言執行者となることもあります。 -
(2)遺言執行者と相続人が同一である場合のデメリット
上記のとおり、遺言執行者と相続人が同一の方であったとしても法律上は、何ら問題はありません。しかし、遺言執行者と相続人が同一の方であると、遺言執行者と他の相続人との間でトラブルが生じる可能性がありますので、できれば避けた方がよいといえるでしょう。
遺言の内容によっては、遺産を多くもらうことができる相続人がいる反面、法定相続分を下回る遺産しかもらえない相続人も出てくることがあります。
遺言の執行では、相続人同士の財産上の利害関係が絡むため、より複雑です。遺言執行者に指定された相続人は、遺産を多く受け取ることになるケースが多いため、その他の相続人から不満が出てきて、遺言の執行がスムーズに進まないおそれがあります。
そのため、遺言執行者は、相続人とは別の公正中立な立場にある方を指定したほうがよいといえます。
3、遺言執行者は辞任・解任できる
遺言執行者に選任をされたとしても、一定の事由があるときには、遺言執行者を辞任したり、解任したりすることが可能です。
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(1)遺言執行者の辞任
遺言執行者は、いったん遺言執行者への就任を承諾した以上は、自由に辞任することはできないとされています。遺言執行者の辞任が認められるのは、辞任にあたって「正当な事由」がある場合に限られているのです。
正当な事由としては、長期の病気、長期の出張、多忙な職務など遺言を執行することが困難になった場合が挙げられます。単に、面倒だからという理由では、辞任は認められません。
また、遺言執行者を辞任するときには、相続人に辞任する旨を告げるだけでは足りず、家庭裁判所に申し立てを行い、辞任の許可を得る必要があります。 -
(2)遺言執行者の解任
遺言執行者が任務を怠った場合や、その他正当な事由があるときには、相続人や受遺者などの利害関係人が家庭裁判所に申し立てることによって、遺言執行者を解任することができます。
遺言執行者を解任することができる場合としては、以下のような場合です。- 遺言に記載された権利承継事務に着手しなかった
- 財産目録の作成を行わない
- 相続人、受遺者に対して報告を行わない
- 保管、管理物の引渡義務を履行しない
- 遺言執行者が病気で職務を行えない
- 遺言執行者が行方不明または長期の不在になった
- 相続人の一人を有利に扱っており、公正な遺言執行を期待できない
- 相続財産を不正に使い込んでいる
利害関係人から解任請求をされただけでは、遺言執行者はその地位を失いませんので、解任の審判が確定するまでの間に遺言執行者の職務を停止させたいと考えるときには、解任の申し立てと併せて、遺言執行者の職務執行停止の審判の申し立てを行うようにしましょう。
4、相続のトラブルは弁護士に相談を
相続に関してトラブルが発生したときには、まずは弁護士に相談をしましょう。
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(1)弁護士が交渉の窓口となって解決
相続人同士の話し合いでは、どうしても感情的になってしまい、冷静な話し合いをすることが難しい場合がほとんどです。相続人や受遺者が遺言執行者に指定されているときには、相続人としての地位と遺言執行者としての地位の板挟みによって、どうしてよいのかわからない状況に追い込まれることもあります。
そのような場合には、弁護士を代理人として立て、相続人との交渉を進めることがおすすめです。弁護士が窓口となることで、感情論ではなく法的根拠に基づいて説得的に話し合いを進めることもできます。 -
(2)遺言執行の業務も依頼可能
よくわからず遺言執行者となってしまった場合でも、遺言執行者には復任権がありますので、弁護士に遺言執行の業務を行ってもらうことが可能です。
遺言執行には、当事者だけでできるような単純な事項だけでなく、法律の知識が必要となる複雑な業務も含まれています。そのような場合には、法律の専門家である弁護士に遺言執行業務を依頼することによって煩雑な手続きを回避することが可能になります。
5、まとめ
遺言書を作成するときには、遺言執行者を指定しておくことによって、遺言者の死後の争いを回避することが可能になる場合があります。しかし、適切な方を遺言執行者に指定しておかなければ、逆に争いが生じてしまうこともありますので注意が必要です。
遺言執行者を指定する場合には、相続手続きの専門家である弁護士に遺言執行者を依頼することをおすすめします。また、相続人や受遺者を遺言執行者に指定したことでトラブルが生じたときにも早期に弁護士に相談をすることで、スムーズな解決を図ることが可能です。
まずは、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスまでお気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています