覚せい剤と知らずに所持しただけでも逮捕される? 覚醒剤事件の特徴を詳しく解説
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岡山中央署は令和3年6月、大麻取締法違反容疑で逮捕している消防士を、覚醒剤取締法違反の疑いで再逮捕しました。消防士の男性は覚醒剤(覚せい剤)使用の容疑を否認していると報道されています。
覚醒剤は使用・売買したときはもちろん、覚醒剤と知らずに所持した場合でも逮捕される可能性があることはご存じでしょうか。知人から預かってくれと頼まれたものが、実は覚せい剤だったとしたら……。
この記事では、覚醒剤取締法の罰則、覚醒剤事件の特徴や弁護の方針などについて岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、覚醒剤取締法の概要と罰則
覚醒剤は、依存性が非常に高く、身体や精神をむしばみ、その結果、凶悪な事件発生の引き金にもなりかねない薬品です。覚醒剤の濫用による保健衛生上の危害を防止する目的で、「覚醒剤取締法(昭和26年法律第252号)」などが規定され、厳しく規制されています。医療目的・研究目的での有資格者やそれに関連する業務以外による下記行為を厳しく規制し、罰則を定めているのです。
- 覚醒剤の所持
- 覚醒剤の使用
- 覚醒剤の譲渡・譲り受け
- 覚醒剤の製造・輸入・輸出
なお、営利の目的で上記の禁止行為をすると、さらに刑罰が重くなります。以下、各禁止行為と、営利の場合の量刑、非営利の場合の量刑と合わせて解説します。
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(1)所持の禁止(覚醒剤取締法第14条)
覚醒剤を取り扱う資格のない人が、覚醒剤を使用せず、売買せずにただ所持することも禁じられています。また、自宅などに置いてある場合でも所持していたと評価されることもあります。
- 純所持の法定刑:10年以下の懲役(同法第41条の2)
- 営利目的での所持の法定刑:1年以上の有期懲役と、情状によって500万円以下の罰金が併科(同法第41条の2)
なお、有期懲役は加重されなければその上限は20年となるでしょう。
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(2)使用の禁止(覚醒剤取締法第19条)
上記同様、覚醒剤を取り扱う資格のない人が、覚醒剤を使うことを禁じています。注射、吸引、経口摂取などをすると罰せられます。法定刑は所持の場合と同じです。
- 単純使用の法定刑:10年以下の懲役(同法第41条の3)
- 営利目的での使用の法定刑:1年以上20年以下の懲役と、情状によって500万円以下の罰金が併科(同法第41条の3)
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(3)覚醒剤の譲渡・譲り受け(覚醒剤取締法第17条)
覚醒剤を入手し、それを他者に渡して今は自分の所持品ではなくなったとしても、譲渡取引に関わるだけで罪に問われる可能性があります。法定刑は所持の場合と同じです。
- 非営利の譲渡・譲り受けの法定刑:10年以下の懲役(同法第41条の2)
- 営利目的での譲渡の法定刑:1年以上20年以下の懲役と、情状によって500万円以下の罰金が併科(同法第41条の2)
なお、覚醒剤の譲渡と譲り受けとの周旋をした者は、3年以下の懲役に処されます。(同法第41条の11)
実際に覚醒剤を触れたことがなくても、取引の仲立ちをするだけでも罪に問われる可能性がありますので注意が必要です。 -
(4)覚醒剤の輸出入・製造(覚醒剤取締法第13条、第15条)
覚醒剤を取り扱う資格のない人が、日本国外に覚醒剤を輸出したり、外国から輸入したり、製造することを禁じています。無期懲役を含む非常に重い量刑が設定されています。
- 非営利の製造・輸入・輸出の法定刑:1年以上20年以下の懲役(同法第41条)
- 営利の製造・輸入・輸出の法定刑:無期もしくは3年以上20年以下の懲役、情状によって1000万以下の罰金を併科(同法第41条)
2、覚醒剤取締法違反で逮捕された場合の量刑の判断基準
覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕され、有罪になったとしても、執行猶予になるケースもあります。科される処罰の判断基準は以下のとおりです。
●初犯かどうか
初犯の場合、営利目的でなく、本人の情状が悪くなければ執行猶予がつくこともあります。一方で、薬物犯罪は再犯率が高い犯罪です。前科がある場合や執行猶予中であるならば、実刑判決は、ほぼまぬがれないでしょう。
●所持量、使用量、使用期間、頻度
量や回数、期間によって、量刑は大きく左右されます。量や使用期間、使用回数が多ければ多いほど、情状が悪くなり量刑も重くなります。
●依存度・再犯の可能性
覚醒剤は極めて依存性が高い薬物ですので、逮捕後の再犯を防ぐことが大変重要です。本人だけの意思で依存性を乗り越えられないと判断されたならば、刑務所という薬を一切使えない環境下で更生をはかることが必要であるとして、実刑が下されるケースもあります。
更正の意思、家族や周囲からのサポートを受けられる環境にあるか、薬物に関わる人間関係を断てるかなどの状況も、量刑の判断材料になるでしょう。
●営利目的かどうか
覚醒剤などの違法薬物売買は、暴力団など反社会的勢力の資金源ともなります。営利目的であれば悪質と判断され、初犯であっても重い実刑となる可能性があります。罰則を定めている条文でも、営利目的であればより重い刑を科すことが明確に提示されています。
3、覚醒剤取締法違反の特徴
一般的な刑事事件と、覚醒剤事件にはどのような違いがあるのでしょうか。特徴としては、次の2点が挙げられます。
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(1)示談ができず、処分を軽減することが難しい
多くの刑事事件では、被害者との示談が成立すれば、処分が軽くなることが望めます。しかし、覚醒剤事件の場合は、被害者がいないので示談自体ができません。そのため、不起訴処分や、再犯時に執行猶予判決を得ることも非常に難しくなります。
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(2)高い確率で勾留される
覚醒剤事件は、物的証拠が出ることが多い傾向があります。被疑者やその仲間による証拠隠滅を防ぐために、逮捕後の身柄拘束が解かれにくい犯罪です。
処遇としては刑事事件一般と同じく、逮捕された場合は、警察で48時間以内の取り調べを受け、その後検察に送致されるでしょう。検察は、送致から24時間以内に、引き続き身柄を拘束する必要があるかどうか判断します。身柄拘束が必要な場合は、裁判所に対し「勾留(こうりゅう)請求」を行います。勾留が認められると10日間、延長請求によって最長20日間勾留され、取り調べを受けます。検察は勾留期間内に、起訴か不起訴かを判断します。
覚醒剤事件は、組織的な薬物の流通経路や資金源をたどるために捜査には一定の時間がかかります。また、それらの証拠隠滅や逃亡を防ぐために、被疑者の勾留を求めることが非常に多いのです。
ひとたび嫌疑がかかれば、長期間の身柄拘束につながりうる犯罪です。早期の身柄釈放を望むのであれば、弁護士の知見に基づいた対応が必要となるでしょう。
4、覚醒剤取締法違反の弁護活動
では、実際に覚醒剤に関する事件に関わってしまったとしたら、逮捕はもちろん、嫌疑がかけられた段階ですぐに弁護士に相談することが重要です。状況により、非常に重い量刑が科せられうる犯罪のため、弁護士による弁護活動は必須と考えてください。
具体的にはどのように弁護がすすむのでしょうか。
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(1)罪を認める場合
情状酌量を求めるため、反省の態度や今後の再犯防止のための具体的な施策を立案する必要があります。更生のための、周囲のサポートが万全であることを主張すれば、量刑が軽くなることも望めます。
また、起訴後、早い段階で弁護士を通じて保釈請求を行い、身柄の解放を求める交渉を行うことも可能です。 -
(2)無実を主張する場合
他人の所持する覚醒剤が、何らかの形で自宅や自分の所持品に紛れ込んでいたケースなどもありえます。しかし、身柄拘束で外部との連絡も取れず、厳しい取り調べが続くと、やっていないのに罪を認めてしまうことも考えられます。誤った自白で、供述調書に署名押印してしまうと、裁判において非常に不利になってしまうでしょう。
弁護士を依頼すれば、逮捕後も自由に接見が可能です。取り調べにどのように対応すべきか具体的なアドバイスが得られます。また弁護士が、自分に代わって、覚醒剤が自分のものではないと示す証拠を集めるために行動します。
起訴前に無実が立証されれば「嫌疑なし」などとして身柄が解放されます。また起訴にいたった場合も、引き続き身の潔白を示すための弁護活動を行います。なるべく早く弁護士に相談し、供述調書で不利な内容を記載されないよう、対策をたてる必要があるでしょう。
5、まとめ
覚醒剤をはじめとする薬物犯罪は、自身の健康のみならず社会の安全を脅かす重大な犯罪です。再犯を防ぎ、被告人の社会復帰を目指すためには、周囲の協力が不可欠です。
自分、もしくは大切なご家族が覚醒剤事件に関わってしまったならば、まずは弁護士に相談することをおすすめします。また万が一、無実の罪で逮捕されたならば、早急に潔白を示すための弁護活動が必要となるでしょう。
ひとりで抱え込まず、ベリーベスト法律事務所岡山オフィスで相談してください。覚醒剤取締法違反事件に対応した実績が豊富な弁護士が、あなたやあなたの家族の将来に及ぼす影響をできるだけ抑えられるよう、力を尽くします。
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