公職選挙法違反とはどんな罪?一般の有権者でも逮捕されることはある?
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令和5年4月、統一地方選挙の投開票がされる前に、選挙事務所の看板を壊したり、ポスターを傷つけたりしたなどとして、岡山県警などが公職選挙法違反容疑で複数人逮捕しました。
このように選挙期間中や期間後には、「公職選挙法違反で逮捕された」というニュースを耳にすることも少なくありません。
しかし「公職選挙法」という名称は知っていても、内容についても正確に理解している方は少ないものです。
本コラムでは、どういった行為が公職選挙法違反となるのか、もしも逮捕されたらどのような流れで裁判に至るのかなど、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説していきます。
目次
1、公職選挙法とは
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(1)公職選挙法とは
公職選挙法は、国会議員や地方公共団体の議会の議員・首長に関する定数や選挙方法について規定する法律です。内容は多岐にわたりますが、簡単にいえば、公職選挙法とは公正な選挙を行うための法律ともいえるでしょう。
公職選挙法ではその実効性を保つためにもさまざまな行為に対する規制が設けられており、違反した場合には逮捕され罰則が適用される可能性があります。 -
(2)一般の有権者でも逮捕される?
公職選挙法違反と聞くと、議員や議員の関係者など、候補者側に関係するイメージがあるかもしれません。
しかし一般の有権者であっても公職選挙法違反の対象となり、逮捕される可能性はあります。
次の章では、公職選挙法違反になる行為について「買収などの行為」のほかそれぞれ具体的にみていきます。
2、公職選挙法違反になる「買収などの行為」とは?
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(1)買収および利害誘導罪
公職選挙法違反の中でもっともニュースなどで耳にする機会が多いのは、「買収などの行為」によるものでしょう。
公職選挙法第221条では、買収および利害誘導罪について規定しています。
1項では、「当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき」には3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処すると規定しています。
特定の候補者に投票させるためもしくは投票させないために、「お金を渡す」「接待をする」といった典型的な買収行為は当然のことながら禁止されています。
それだけでなく、「当選したら昇格させる」といった約束も禁止されることになります。
なお第221条1項の行為を「候補者本人」「選挙運動を総括主宰した者」などが行った場合にはさらに罰則は重くなり、4年以下の懲役または禁錮または100万円以下の罰金となります。 -
(2)多数人買収および多数人利害誘導罪
公職選挙法第222条では、多数人買収および多数人利害誘導罪を規定しています。
具体的には、候補者のために多数の選挙人または選挙運動者に対して買収や利益誘導を行った場合には5年以下の懲役または禁錮に処されるというものです。
また、候補者本人がこれらを行った場合には、6年以下の懲役または禁錮とされています。
候補者本人はもちろんですが、候補者とつながりがある有権者が安易な気持ちでこうした行為をしてしまえば重い罪になってしまう可能性があるので十分な注意が必要です。
3、そのほか、こんな行為も公職選挙法違反に
「買収などの行為」のほか、次のような行為も公職選挙法違反になります。
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(1)飲食物を提供する行為
公職選挙法第139条では、選挙運動に関していかなる名義であっても飲食物を提供する行為を原則として禁止しています。
候補者が有権者に提供することはもちろんのことですが、有権者が候補者や運動員などに提供することも禁止されています。
ただし例外として、湯茶や通常用いられる程度の菓子や選挙事務所において食事するための一定の弁当については禁止されません。 -
(2)あいさつ状を出す行為
公職選挙法147条の2では、候補者が選挙区内の人に年賀状や寒中見舞いや暑中見舞いなどのあいさつ状を出すことを禁止しています。
ただし届いたあいさつ状に対して、答礼のために自筆で書いたものを出すことは禁止されません。 -
(3)戸別訪問
公職選挙法第138条では、選挙での投票依頼などを目的に戸別に家を訪問することを禁止しています。なお家に限らず、会社などに行って投票依頼などをすることも戸別訪問に該当し禁止されています。
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(4)寄付
公職選挙法第199条の2では、現職の政治家や候補者などが選挙区内の人などに寄付をすることを禁止しています。
たとえば病気のお見舞いや出産などへのお祝いや地元のお祭りなどへの寸志や差し入れなどは寄付にあたるとされます。お中元やお歳暮なども当然禁止されます。
ただし禁止されている寄付であっても、次の場合には罰則はありません。- 政治家本人が出席する結婚式におけるご祝儀
- 政治家本人が出席する葬式や通夜における香典
なおこの場合でも、通常一般の社交の程度を超えている場合には処罰の対象となります。
また政治家本人ではなく家族や秘書などが代理で出席する場合には、ご祝儀や香典を渡すことは禁止され罰則の対象となります。 -
(5)有料広告を出すこと
公職選挙法第152条では、政治家などが選挙区内の人や団体に対してあいさつを目的とする有料広告を新聞やテレビやラジオなどに出すことを禁止しています。
また有権者側から政治家などに有料広告を出すことを求めることも禁止しています。 -
(6)選挙の自由を妨害する行為
公職選挙法第225条では、選挙の自由妨害罪について規定しています。
選挙活動を妨害するために、候補者などに暴行もしくは威力を加えたり集会や演説を妨害したりポスターなどを破り捨てたりした場合には、自由妨害罪に該当する可能性があります。
4、もし公職選挙法違反で逮捕されたらどのような流れになる?
公職選挙法違反の容疑で逮捕された場合には、主に次のような流れで取り調べなどが行われます。
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(1)逮捕
公職選挙法違反で警察に逮捕された場合には、逮捕後に警察官による取り調べを受けることになります。警察では、48時間以内に検察官に事件を送致するかどうかを判断しなければなりません。
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(2)検察官送致
検察官に送致された場合には、検察官による取り調べが行われることになります。検察官は、24時間以内に被疑者の身柄を引き続き拘束するための勾留請求を裁判官に行うかどうか判断していきます。
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(3)勾留
勾留請求が認められた場合には、原則として10日間勾留され、取り調べを受けます。また勾留の延長が認められた場合にはさらに10日間延長され、勾留期間は最大20日に及ぶ可能性もあります。
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(4)起訴・不起訴の決定
検察官は、刑事裁判にかけるかどうか起訴・不起訴の判断をします。
刑事裁判にかける必要がないと判断された場合には、不起訴となり身柄は釈放されます。犯罪者として前科がつくこともありません。 -
(5)刑事裁判
検察官が起訴した場合には、刑事裁判の中で有罪か無罪かが決定することになります。
なお起訴された場合には、約99%とも言われる高い確率で有罪になっているという厳しい現状があります。
5、逮捕された場合には、ご家族は一刻も早く弁護士に相談を
もし身内の方が公職選挙法を違反して逮捕されたような場合には、ご家族としては一刻も早く弁護士に相談することが大切です。
その理由としては、早期から弁護士が弁護活動を行うことによってその後の結果が大きく変わる可能性があるためです。
弁護士ができることとしては、主に次のようなことがあります。
- 警察での取り調べの際に、本人に面会して取り調べの対応などをアドバイスできる。
- 早期釈放や勾留阻止に向けて捜査機関に働きかけを行うことができる。
- 逮捕や勾留されたとしても、有利になる証拠などを収集して主張していくなど、不起訴に向けた弁護活動を行うことができる。
- 刑事裁判になった場合でも、弁護人として減刑や無罪など有利な判決が得られるように弁護活動を行うことができる。
6、まとめ
本コラムでは、どういった行為が公職選挙法に違反するのか説明するとともに逮捕後の流れについて解説してきました。
公職選挙法違反にならないようにするためには、違反行為を正しく理解し、疑問に思う点がある場合には弁護士に相談するべきでしょう。
ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスでは、公職選挙法違反をはじめ、さまざまな刑事事件についてご相談をお受けしています。トラブルに巻き込まれてお困りの際は岡山オフィスの弁護士までお気軽にご相談ください。
また、ベリーベスト法律事務所では、議員や政治家の方における公職選挙法違反などの刑事事件についても取り扱っております。地方議員・国政での議員秘書経験のある弁護士を中心とした「議員法務専門チーム」が対応いたしますので、公職選挙法違反などの刑事事件や予防法務、メディア対応などでお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。
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