文化財を破壊した場合の罪とは?文化財の定義や逮捕後の流れを解説

2020年12月10日
  • その他
  • 文化財
  • 破壊
文化財を破壊した場合の罪とは?文化財の定義や逮捕後の流れを解説

岡山県のホームページには「岡山県内所在の国・県指定文化財」の総数が公開されており、県内の指定文化財の総数は令和2年1月の段階で741件あります。

文化財は、国民全体の財産として強い保護を受けており、故意に破壊してしまうと厳しい処罰を受けることになりますが、文化財として指定を受けていることを知らずに損壊させてしまうケースもあるようです。

実際、令和2年1月には、岡山県指定の史跡である「撫川城址」の敷地内に設置されている門の一部が何者かによって蹴り破られる被害が発生しています。

それでは、文化財を破壊した場合はどのような犯罪になるのでしょうか?

このコラムでは、文化財を破壊した場合に成立する犯罪や刑罰、逮捕される可能性などについて、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。

1、文化財を破壊した場合に成立する犯罪

文化財を破壊する行為は、ここで挙げる犯罪が成立するおそれがあります。

  1. (1)器物損壊罪

    故意に他人の所有物を損壊させると、刑法第261条の「器物損壊罪」が成立します。いたずらで他人の車に傷をつける、街頭の看板を壊すなどの行為を処罰する犯罪ですが、文化財の場合も例外ではありません。

    文化財は国・自治体のほか個人所有のものも多く存在し、いずれの場合でも「他人の所有物」であるため故意に破壊すれば器物損壊罪が成立します。

    また、ここでいう「損壊」とは、物がもつ本来の効用を害することで成立するため、物理的に破壊することだけでなく落書きや油などの液体をかける行為も損壊とみなされることがあります。

    器物損壊罪の法定刑は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料です。

  2. (2)建造物損壊罪

    破壊した対象が他人の建造物や艦船であれば、刑法第260条の「建造物損壊罪」が成立するおそれがあります。

    文化財のなかには、古い家屋や寺社仏閣なども数多く含まれていますが、これらの建造物の効用を減損させる程度の破壊であれば、器物損壊罪ではなく建造物損壊罪が適用されるでしょう。

    建造物損壊罪の法定刑は5年以下の懲役です。

  3. (3)文化財保護法違反

    文化財を破壊する行為は、文化財保護法の第195条・196条に違反します。

    第195条は重要文化財を対象としており、損壊・毀棄・隠匿すると5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科せられます。

    第196条では史跡名勝天然記念物が対象となっており、現状の変更または保存に影響をおよぼす行為によって滅失・毀損・衰亡させると5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科せられます。

    他人の所有物を破壊する行為は主に器物損壊罪に問われますが、文化財保護法が定義する文化財を破壊すると器物損壊罪よりも重い刑罰が科せられると心得ておくべきでしょう。

    また、文化財保護法は、破壊行為をはたらいたのが文化財などの所有者であっても処罰の対象としています。法定刑は、重要文化財の場合も、史跡名勝天然記念物の場合も、2年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金、もしくは科料です。

2、文化財とはなにか?

文化財を破壊した場合について、どのような罪に該当するのか見てきましたが、そもそも、「文化財」とはどのようなものを指すのでしょうか。詳しく確認しておきましょう。

  1. (1)文化財の定義

    文化財とは、わが国の長い歴史のなかで生まれて今日まで守り伝えられてきた歴史的価値の高い建物や史跡、絵画・彫刻・工芸品などのことです。手にとって触れることができるものだけでなく、演劇・音楽、衣食住・年中行事、景観なども文化財として保護されている場合があります。

    文化財には、文部科学大臣が文化審議会に諮問したうえで答申を受けて実施される「国指定」のほか、都道府県や市町村が条例を定めて指定する「県指定」「市指定」などの種類があります。

  2. (2)文化財の種類

    文化財の種類は文化財保護法第2条に定められており、次の6つを総称して「文化財」と呼びます。

    ●有形文化財
    建造物・絵画・彫刻・工芸品・書跡・典籍・古文書など。特に重要なものは「重要文化財」に、世界文化の見地から価値の高いものは「国宝」に指定される
    ●無形文化財
    演劇・音楽・工芸技術など
    ●民俗文化財
    衣食住・生業・信仰・年中行事などに関する風俗慣習、民俗芸能、民俗技術およびこれらに用いられる衣服・器具・家屋など
    ●記念物
    古墳・城跡・旧宅や庭園・橋梁・峡谷といった名勝地、植物・地質鉱物など
    ●文化的景観
    地域における人々の生活・生業・風土により形成された景観地
    ●伝統的建造物群
    周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群

    岡山市内では、国の重要文化財および国宝として指定されている吉備津神社本殿・拝殿や、国の重要無形文化財に指定されている西大寺の会陽(はだか祭り)が有名です。

3、文化財を破壊して逮捕された場合の流れ

文化財を破壊する行為は、先ほどお伝えしたとおり、刑法の器物損壊罪や文化財保護法違反といった犯罪になり、逮捕されるおそれがあります。

文化財を破壊して逮捕されると、次のような流れで刑事手続きを受けることになります。

  1. (1)逮捕から72時間以内の身柄拘束

    警察に逮捕された時点で自由な行動は制限されるので、自宅に帰ることも家族に電話をかけることもできません。

    警察の取り調べを受けたのち、逮捕から48時間以内に検察庁へと身柄が引き継がれます。この手続きを送致といい、ニュースなどでは「送検」と呼ばれています。

    送検を受けると、検察官による取り調べがおこなわれたのち、24時間以内に起訴または釈放が判断されますが、この段階では検察官が判断を下すための材料が足りません。そこで検察官は、さらに捜査を進めて起訴・釈放を慎重に判断するために身柄拘束の延長を求める場合があります。この手続きを「勾留請求」といいます。

    勾留までの合計72時間は、家族との面会さえ認められません。

  2. (2)勾留請求から最長20日間の身柄拘束

    裁判官が勾留を認めると、原則10日間、延長を含めて最長で20日間の身柄拘束が続きます。

    この期間は、身柄を警察に戻されたうえで取り調べなどの捜査を受けることになりますが、警察署の留置場や留置センターなどで過ごすことになります。もちろん、外出や外部との連絡は認められません。

    また、勾留が決定すれば家族などとの面会も可能になりますが、接見禁止命令が下されてしまうと面会さえも許されない期間が続きます。

  3. (3)起訴後の身柄拘束と刑事裁判

    勾留が満期を迎える日までに検察官は再び起訴・釈放を判断することになります。起訴すれば刑事裁判に移行し、被告人としてさらに勾留が続くので保釈が認められない限り身柄拘束が解かれることはありません。

    刑事裁判では、検察官・弁護人が提出した証拠をもとに裁判官が審理し、判決が下されます。

    一方で、検察官が不起訴処分を下した場合は、刑事裁判に移行することはなく、釈放されます。刑事裁判は開かれないので、刑罰を科せられることも、前科がつくこともありません。

4、文化財を破壊してしまったらただちに弁護士へ相談

国指定・県や市の指定にかかわらず、文化財を破壊してしまったらただちに弁護士に相談しましょう。

  1. (1)どのような犯罪になるのかを正確に判断できる

    文化財は、国の指定や県・市の指定によって保護する法律が異なります。
    また、破壊といっても対象物の種類や破壊の程度によって適用される犯罪が変わるので、個人が「どのような犯罪になるのか」を判断するのは難しいでしょう。

    弁護士に相談すれば、どのような犯罪が成立するのかを正確に判断できて、その後の対策も明確になります。

  2. (2)逮捕後のサポートが期待できる

    警察に逮捕されてしまうと、最長で23日間におよぶ長い身柄拘束を受けることになります。特に、逮捕直後の72時間は家族との面会さえも許されないため、取り調べへの対応や会社への連絡など、不安も大きくなるでしょう。

    弁護士には独自の接見交通権が認められており、逮捕直後の72時間であっても面会が可能です。さらに、面会の時間や回数の制限を受けないので、不安や不明なことがあればいつでも、何度でも面会が認められます。

  3. (3)不起訴処分や刑罰の減軽が期待できる

    文化財の所有者が個人であれば、弁護士にサポートを依頼することで被害者との示談交渉がスムーズに進む可能性があります。示談が成立して被害届や告訴が取り下げられれば、検察官が不起訴処分を下す可能性が高まり、早期の身柄釈放も期待できるでしょう。

    文化財の所有者が国・県・市などであれば、示談による解決は困難です。ただし、特に悪意があったわけではないことや、真摯に反省していることを弁護士が主張することで、執行猶予や刑罰の減軽がかなう可能性があります。

  4. (4)自首による減免が期待できる

    文化財を破壊したことが捜査機関に認知されていない、または被害届や告訴状が提出されたが誰が破壊したのかを特定されていない段階であれば「自首」も有効です。自首が成立すれば、刑法第42条1項の定めにより刑罰が減軽される可能性があります。

    弁護士に相談すれば、自首が認められる状況なのかの正確な判断や、警察署への自首の同伴も依頼可能です。

    弁護士が同伴することで、適切に自首の手続きがおこなわれるよう捜査機関に対して牽制できるので、自首を検討しているなら弁護士への相談を強くおすすめします。

5、まとめ

文化財は国民全体の財産なので、破壊などの行為は厳しく罰せられます。
破壊した文化財がどのようなものなのか、破壊の程度はどの程度なのかによって適用される犯罪が異なるので、逮捕・刑罰に不安を感じているなら弁護士に相談しましょう。

ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスでは、弁護士があなたをサポートします。文化財を破壊してしまい逮捕や刑罰に不安を感じている方のために、適切なアドバイスを提供し、全力で弁護活動を展開します。自首を検討している方も、まずはご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています