SNSアカウント乗っ取りは犯罪? 不正アクセス禁止法違反の罰則

2023年07月20日
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SNSアカウント乗っ取りは犯罪? 不正アクセス禁止法違反の罰則

岡山県警察のホームページでも「無料通話アプリのなりすまし詐欺への注意について」として、SNSの乗っ取り行為に対する対策を紹介しています。

一方で、全国の事例に目を向けると、オンラインゲームのように誰でも気軽に利用できるサービスの乗っ取り行為で警察に検挙される事例も存在しています。たまたまSNSなどのIDやパスワードを知ることができたとしても、軽率な行為をすることで逮捕・刑罰を受ける可能性があるのです。

本コラムでは、SNSなどのアカウントを乗っ取る行為に適用される罪や罰則について、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。

1、アカウント乗っ取りで逮捕された事例

他人のアカウントを乗っ取る行為は犯罪です。まずは、アカウントの乗っ取りで逮捕された実例を紹介しましょう。

  1. (1)落とし物のスマホからゲームアカウントを乗っ取って逮捕

    令和2年3月、さいたま市大宮区内のカラオケ店で他人が落としたスマホを拾った清掃作業中の男性が、スマホにインストールされていたゲームのデータを自身のスマホに移行した疑いで逮捕されました。

    ゲームに不正アクセスしたうえで、機種変更用のコードを発行し、自身のスマホへとデータを移行する行為は「不正アクセス禁止法」に違反します

  2. (2)顧客のゲームアカウントを乗っ取って逮捕

    平成30年11月、千葉県内に住むゲーム代行業者の男性が、他人のゲームアカウントに不正アクセスしてゲームデータを乗っ取った疑いで逮捕されました。

    男性は、他人からの依頼を受けてゲームキャラクターを育成し報酬を得ていましたが、以前に顧客だった男性のアカウントにアクセスしてパスワードを変更し、ゲームデータを乗っ取っていました。

    こちらの事例も、やはり「不正アクセス禁止法」違反の容疑での逮捕です。

2、不正アクセス禁止法における禁止行為と罰則

実際にアカウント乗っ取り行為で逮捕された事例として紹介した事件では、いずれも「不正アクセス禁止法」違反の容疑でした。

不正アクセス禁止法は、インターネット社会に対応できていなかった従前の法体制を改善するために創設された法律です。
金融機関のデータベースへの不正アクセスや官公庁へのサイバー攻撃などを防ぐという大きな役割をもつ法律ですが、特に強い悪意がなくても禁止行為に触れてしまうおそれがあります

不正アクセス禁止法において定められている5つの禁止行為を確認しましょう。

  1. (1)不正アクセス罪

    「不正アクセス行為」は、不正アクセス禁止法第3条に違反します。
    この法律が定める不正アクセス行為とは、次の3つの行為にあたる場合です。

    • 他人のID・パスワードといった「識別符号」を悪用する行為
    • ウェブサイトの脆弱性を狙って不正なプログラムを実行する行為
    • マルウェアやコンピューターウイルスなどによって攻撃する行為


    なりすまし行為は、ここで挙げている「識別符号の悪用」にあたります

    SNSやオンラインゲームなどでアカウントにログインするためには、IDやパスワードを入力しなければなりません。

    ID・パスワードといった識別符号は、利用権者・アクセス管理者において許可を受けた人のみが利用可能なので、何らかの方法で他人の識別符号を知り得たとしてもこれらを使用してSNSやオンラインゲームにログインすれば不正アクセス行為となります。

    不正アクセス罪の罰則は3年以下の懲役または100万円以下の罰金です

  2. (2)不正取得罪

    不正アクセスの目的で他人の識別符号を取得した場合は、不正アクセス禁止法第4条の「不正取得罪」になります。

    実際に不正アクセスをはたらいていなくても、同法第12条1号の規定で1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます

  3. (3)不正助長罪

    業務などの正当な理由による場合を除き、他人の識別符号を第三者に提供する行為は、不正アクセス禁止法第5条の「不正助長罪」にあたります

    不正助長罪にも罰則が規定されていますが、相手に不正アクセスの目的があることを知っていたかどうかで重さが異なります。

    ●相手に不正アクセス行為の目的があることを知っていた場合
    同法第12条2号の規定により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金
    ●相手に不正アクセス行為の目的があることを知らなかった場合
    同法第13条の規定により、30万円以下の罰金
  4. (4)不正保管罪

    不正アクセスの目的で、不正に取得した他人の識別符号を保管すると、不正アクセス禁止法第6条の「不正保管罪」にあたります。

    同法第12条3号の規定によって1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます

  5. (5)不正入力要求罪

    アクセス管理者になりすまして他人に識別符号を入力させる、あるいは識別符号の入力を求める電子メールを送信するといった行為は「フィッシング」と呼ばれ、不正アクセス禁止法第7条の「不正入力要求罪」にあたります

    同法第12条4号の規定で1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます

3、不正アクセス禁止法の違反例

不正アクセス禁止法違反が適用されて逮捕された事例をさらに紹介しましょう。

  1. (1)女子中学生のSNSアカウントを乗っ取って逮捕

    令和2年11月、神奈川県内に住む男性が千葉県内に住む女子中学生がもつSNSアカウントを乗っ取って逮捕されました。

    逮捕された男性と女子中学生の間に面識はなかったため、何らかの方法でID・パスワードを入手し、不正アクセスしたうえでパスワードを変更してアカウントを乗っ取ったとみられています。

    男性は、乗っ取ったアカウントから被害者の友人らに「着替えている動画や下着の写真を送って」などとメッセージを送信していました。

  2. (2)家電量販店アプリに不正アクセスして商品を購入し逮捕

    令和2年10月、中国籍の男性が家電量販店アプリに他人のID・パスワードを入力して不正アクセスし、店舗でアプリを提示して他人のポイントを消費して家庭用ゲーム機を購入した疑いで逮捕されました。

    この事件では、不正アクセス禁止法違反に加えて、ポイント所有者を装って商品をだまし取った点で詐欺罪が成立し、2つの容疑で逮捕されています。

  3. (3)他人の携帯電話のキャリア決済で商品を購入して逮捕

    令和3年1月、千葉県内に住む女性が、面識のない他人の携帯電話のキャリア決済を利用してスニーカーなどを購入した疑いで逮捕されました。

    余罪が多数で被害総額は100万円以上にのぼるとみられており、逮捕された女は、自分で使うほかにも転売してお金を得る目的があったと供述しています。

4、不正アクセス禁止法違反で逮捕された場合の流れ

不正アクセス禁止法違反の容疑で逮捕されると、次のような流れで刑事手続きを受けます。

  • 逮捕による身柄拘束
  • 勾留による身柄拘束
  • 起訴・不起訴の判断
  • 刑事裁判


まず、警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、検察官の段階で24時間以内を限度とした身柄拘束を受けます。

警察署の留置場に身柄を置かれて取り調べを受けたのち、検察官に送致されて検察官からも取り調べを受けることになるため、自宅へ帰ることも、会社や学校へと通うことも許されません。

また、この段階ではたとえ家族であっても面会が許されないため、逮捕された被疑者と接見できるのは弁護士だけです

逮捕による身柄拘束のあとは、検察官からの請求で勾留による身柄拘束を受けます。
初回は原則10日間以内、延長請求によってさらに10日間以内の、合計20日間以内を限度とした身柄拘束が続き、被疑者の身柄は再び警察へと戻されて取り調べなどの捜査が進みます。

家族などによる面会が認められるようになるのは、勾留が決定した段階からです。ただし、証拠隠滅などの危険がある場合は接見禁止の命令が下されることもあります

勾留が満期を迎える日までに、検察官が起訴・不起訴を決定します。起訴されれば被告人として刑事裁判を受ける身となり、不起訴となれば即日で釈放されます。

刑事裁判に発展した場合は、被告人としてさらに身柄拘束を受けるため、保釈が認められない限りは判決が言い渡されるまで釈放されません。また、裁判で実刑判決が下された場合は、釈放されることなく刑務所へと収監されてしまいます。

一方で、不起訴となれば刑事裁判が開かれません。

さらに勾留されることもなければ、刑罰を受けることもないので、不正アクセス禁止法違反の容疑で逮捕された場合は不起訴処分の獲得を第一に目指すのが最善策となるでしょう

5、まとめ

他人のSNSやオンラインゲームなどへの乗っ取り行為は不正アクセス禁止法違反にあたります。

たとえ乗っ取り行為がなくても、他人のSNSやオンラインゲームのアカウントにログインした、他人のIDやパスワードを入手・保管した、第三者に他人のIDやパスワードを教えたといった行為にも罰則が規定されています。

不正アクセス禁止法違反が発覚すれば、逮捕・刑罰を受ける危険があるため、心当たりがある場合は対策を講じる必要があります。

刑事事件の解決実績が豊富な弁護士のサポートは欠かせないので、直ちにベリーベスト法律事務所 岡山オフィスにご相談ください。被害者との示談交渉や早期釈放・不起訴処分の獲得に向けた弁護活動で、厳しい処分の回避を目指して全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています