公務執行妨害は役所の職員相手でも成立? 警察以外の対象者とライン
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令和5年9月、岡山県美作市で市の職員に包丁を突き付けた男が、公務執行妨害罪で逮捕されたという報道がありました。役所職員への暴力は行政対象暴力と呼ばれ、公務執行妨害として逮捕される可能性があります。
もし、事例のように自身の家族が役所職員ともめた際に、つい手を挙げてしまったり、「殺す」などの暴言を吐いてしまったりしていたら……。冒頭のように逮捕されてしまうかもしれない……と、不安になるでしょう。本コラムでは、警察以外が相手でも成立しうる公務執行妨害罪の概要と暴言によって逮捕されてしまう可能性について、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、公務執行妨害罪とは
公務執行妨害罪は、刑法95条1項に示されている「公務員が職務を執行するにあたり、これに対して暴行又は脅迫を加える者」に該当する犯罪です。
逮捕されたのち有罪になれば、同条文に示されているとおり「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」に処されます。
この法律は、公務員を特別に保護する目的で作られているわけではありません。公務員は、個人にとっては不都合なことでも、公務として行わなければならないことがあります。その公務を妨害することは国家運営の妨げになるため、その罪が問われることになります。
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(1)公務員とは誰のことか
公務員の定義についても、刑法第7条で定められています。刑法95条で示す「公務員」とは、「国や地方公共団体の職員、その他の法令によって公務に従事する議員、委員、その他の職員」のことです。
公務員が働く場所は、都道府県庁、警察署、消防署、市役所、保健福祉局、労働局、税務署などさまざまな場所があり、職種もさまざまです。一般的に警察官の職務を妨害すると、「公務執行妨害罪」として逮捕されるイメージがありますが、警察官以外の役所職員も公務員ですので、職務を妨害すれば「公務執行妨害罪」にあたります。
また、役所には臨時や非常勤など「みなし公務員」と呼ばれる人たちも働いています。民間の業者が自治体からの委託により公務のサポートを行うこともあるでしょう。これらの人の職務を妨害した場合でも同じ罪に問われることがあります。 -
(2)「公務」は勤務中すべてを含む?
休暇中の役所職員に対して暴行や脅迫を加えたとしても、公務執行妨害には該当しないと考えられています。しかし、だからといって暴行や脅迫を加えていいわけではありません。この場合、公務員個人への暴行罪や脅迫罪が成立する可能性があるでしょう。ところで、これら刑法で示される「公務」は、すべての勤務時間帯が該当するかどうかの議論がなされているところです。
なお、たとえば引き継ぎのための移動中など、職務性が否定されることもありえます。反対に、休憩中であっても、連絡待ちを兼ねていたなど、職務が休憩と時間的に接着しており一体的関係にあると認められれば、「職務中のできごとである」と判断されることもあるでしょう。
最終的には、個別のケースごとに、職務と休憩・移動中との継続性、一体性が確認されることになります。 -
(3)役所で起こる公務執行妨害の例
簡単にまとめてしまうと、暴力や脅迫によって公務員の仕事を妨害しようとすると、公務執行妨害罪に問われるということになります。
具体的には次のような行為が、公務執行妨害に該当する可能性があるでしょう。- 生活保護課の窓口で職員を殴った
- 税務署員が差し押さえに来た際、玄関で強く押し返した
- 市役所で椅子を蹴りつけるなど物にあたった
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(4)暴言でも公務執行妨害罪になるのか
公務執行妨害罪の暴行や脅迫は、「職務を妨害するに足りる程度」の必要があります。ただし、公務員に対して威圧的な態度で対応したり、不快感を与える目的の言葉を口にしたりというケースだけで、公務執行妨害罪に該当するわけではありません。
具体的には、「殺すぞ」など、公務員に対して害悪を加えることを告知する内容が含まれた暴言を吐けば、脅迫にあたるおそれがあります。多数回にわたり法的根拠のないクレームを言い続けたことで役所職員が対応に追われることになれば、別の罪に問われる可能性もあるでしょう。
2、後日逮捕される可能性は?
逮捕とは、捜査などのために、一定期間、拘置所や留置場で身柄を拘束する特別な措置です。基本は、逮捕状にもとづいた通常逮捕が行われます。
しかし、逮捕状がない状態でも、暴れている最中など、犯行が明らかであれば、警官でなくてもその場で身柄を拘束して、警察に引き渡すことができます。これは「現行犯逮捕」と呼ばれています。つまり、役所職員や、役所に訪れている方々に取り押さえられた末、逮捕される可能性があるということです。
公務執行妨害罪は現行犯逮捕が多い犯罪です。しかし、被害届や証拠の提出によって、犯行日ではなく後日逮捕されることもあるでしょう。特に、行為者が他の日も含め複数回にわたり何度も暴言や暴行を繰り返し、公務を妨害していたケースなどでは、最終的には警察に通報され、捜査の対象となる可能性は否定できません。
3、家族が逮捕されたあとの対処法
どのような犯罪でも、成人が逮捕されたあとは刑事訴訟法で定められた刑事事件の手続きに従い、捜査されます。なお、逮捕されてしまえば、起訴・不起訴の決定までだけで最長23日もの間身柄を拘束される可能性もあるでしょう。もちろんその間、仕事をすることも学校へ行くこともできなくなります。
少しでも早く家族の身柄を解放してもらうためには、父母や兄弟姉妹などほかの家族とも協力し、本人に反省を促すことが大切です。
最終的に起訴されるか否かは、前科の有無や妨害の目的、役所職員がケガをしていないかなど、事件の内容によって変わります。一般的な脅迫罪や暴行罪などでは、被害者との「示談成立」の有無が、加害者が科せられる刑罰の重さを大きく左右します。しかし、公務執行妨害罪においては、示談ではなく「本人が反省しているか」が重要なポイントとなるのです。
なぜなら、公務執行妨害罪では被害者との示談ができないためです。公務執行妨害において被害を受けたとみなされるのは、公務員個人ではなく公務そのものと考えられています。「公務」は人ではありませんので、話し合いができないことはご理解いただけるでしょう。よって、示談による事件解決は見込めません。なによりも、本人が反省の態度を示すことがより重要になるのです。
家族が反省を促すことは重要ですが、それでも、逮捕されてしまうと、勾留が決まるまでの72時間は、家族であっても本人と面会する「接見」が許されていません。電話で連絡を取ることも禁じられます。つまり、家族が直接話をして、反省を促すことができないということです。
この期間中、面会できる唯一の専門家が弁護士です。刑事事件に経験が豊富な弁護士であれば、家族からの言葉を伝えるだけでなく、反省文を書かせて提出するなど、より具体的に早期の身柄解放に向けた弁護活動が行えます。
4、公務執行妨害に関連するその他の犯罪
家族が役所などで行った言動が、たとえ「公務執行妨害罪」にあたらなかったとしても、他の犯罪が成立している可能性があります。
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(1)威力業務妨害罪、偽計業務妨害罪
再三にわたるクレームや、法的根拠のない要求については、悪質だと判断されれば「威力業務妨害罪」が成立するおそれがあります。たとえば、役所に犯罪予告をする、役所の電話窓口に1日に何十回ものクレーム電話をかけるといったケースが該当すると考えられるでしょう。
また、役所に対して行ったクレームが虚偽の内容だった場合、偽計業務妨害罪となる可能性も生じます。
いずれの罪も、罰則は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
クレームの回数や内容など、罪に問われる境界線については明確な基準がありません。警察に通報するかどうかの線引きも、現場の役所次第ともいえるでしょう。しかし、こうした別の犯罪にあたる可能性も知っておきたいところです。 -
(2)職務強要罪
公務執行妨害と同じ刑法第95条の2項に示されているのが、職務強要罪です。「公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者」が罪に問われることになります。
職務強要罪は、職務を「妨害する」のではなく、一定の処分をさせる、またはさせないように強要する、その職を辞させる目的をもって暴行や脅迫をする犯罪です。たとえば、生活保護の支給を求めて福祉センターの職員を脅す、脱税していた事実を調査し明らかにした職員に辞職を要求する、などのケースです。
結果として、加害者の目的が達成されている必要はありません。目的を達成するために暴行や脅迫を行った時点で犯罪になります。
職務強要罪の罰則は、公務執行妨害罪と同様に「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」です。
5、まとめ
今回は、公務執行妨害罪の概要や暴言によって逮捕される可能性、関連犯罪について解説しました。
役所職員への暴言は、悪質なケースや、その他の言動との関係によっては逮捕にいたる可能性もあります。冒頭の事例のようなケースで家族が逮捕されてしまう可能性は、あまり考えたくないでしょうが、状況によっては全くないとは言い切れないのではないでしょうか。
あらかじめ法的知識を備えておき、家族と協力して諭す、反省を促すといったことも必要になるでしょう。もし、家族が公務執行妨害などで逮捕されたら……などの不安があれば、早めに弁護士に相談することもひとつの方法です。ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスでは、刑事事件の対応についての知見が豊富な弁護士が、適切な弁護活動を行います。一人で悩まず、まずはできるだけ早くご相談ください。
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