置き引きで罪に問われたら? 岡山オフィスの弁護士が逮捕後の流れを解説
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平成30年5月、岡山県内のスーパーで、電子マネーのチャージ機に置き忘れられていた現金を盗んだ容疑で男性が逮捕されるという事件が発生したことが報道されました。このように自動販売機などに釣り銭が残っていた、隣の客が立ち上がったあとに財布があったなど、不意に目の前に金品があると「誰にもバレなければいい」と魔が差してしまうことがあるかもしれません。これら以外にも、交番へ届けるのを忘れて持ち帰ってしまった場合も、思い出した時点で理論上は犯罪が成立し得ます。
そこで、ここでは「置き引き」と呼ばれる行為について、どのような犯罪にあたるのか、置き引きをしてしまった場合はどのように解決するべきなのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、「置き引き」とは?
一般的に「置き引き」は「窃盗罪」もしくは「占有離脱物横領罪」に該当する犯罪行為です。多くは、他人が置き忘れた金品を持ち去るケースが該当すると考えられます。
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(1)窃盗罪の罰則
窃盗罪は刑法第235条に規定されている犯罪で、「他人の財物を窃取した者」と明記されています。つまり、他人の金品を盗む行為が窃盗罪にあたります。窃盗罪に問われて有罪が確定した場合、10年以下の懲役または50万円以下の罰金刑に処されます。
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(2)置き引きの手口
窃盗罪に該当する行為は「手口」によって分類することができます。窃盗罪の手口は、住宅のドアや窓を破壊して侵入するなど不法な侵入を伴う侵入窃盗と、屋外や出入り自由な屋内で行われる非侵入窃盗に分けることができます。置き引きは非侵入窃盗に分類される手口です。
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(3)占有離脱物横領罪の罰則
「占有離脱物横領」は、刑法第254条に「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者」と明記されている犯罪です。したがって、法文上では「遺失物等横領」という名称で記されています。しかし、講学上は占有離脱物横領罪という名称が使われています。
1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料の刑罰を受けます。一般的に窃盗罪に問うことができない置き引き行為は、占有離脱物横領罪が成立するかどうかを検討することになります。
2、窃盗罪と占有離脱物横領罪の境界は?
その場に誰かが金品を置いたまま立ち去ってしまい、これを発見した人が持ち去って自分のものにしてしまうという置き引き行為をしたという事件が起きたとしましょう。このとき、警察や検察は、果たして当該行為が「窃盗罪」と「占有離脱物横領罪」のどちらに分類されるのかを検討します。
この判断において重要なのが「占有」という考え方です。「占有」が認められるかどうかは,金品に対する支配(占有の事実)と支配意思(占有の意思)を総合して,社会通念に従い判断されます。
窃盗罪は、他人が占有している金品について、その占有を排除して自己の占有下に置くことで成立します。手に持っているものやポケット、カバンの中に入っているものはもちろん、住宅や車の中にある金品は、持ち主が明らかなものとして占有されていると考えます。この関係を無視して、自分の占有下に置いてしまうと窃盗罪に該当します。
たとえば、駅のホームに設置された周囲に誰もいないイスの上に放置されているカバン、周囲に誰もいない路上に落ちている財布などは、すでに元の持ち主の占有から離れているものと考えられるため、占有離脱物横領罪が成立すると考えられます。
他方、電車のシートに座っていた人のポケットからこぼれ落ちた財布をその状態で置き引きした場合、持ち主が財布の場所を特定できるため、占有していると判断され窃盗罪が成立する可能性が高いでしょう。ところが、財布がこぼれ落ちていることに気づかず、持ち主がそのまま席を立って電車を降りて電車が発車した場合、所有者が財布をなくした場所を特定できなければ、持ち主の占有からは離れていると判断され,占有離脱物横領罪が成立する可能性が高いでしょう。
冒頭の事例では、電子マネーのチャージ機にお金を忘れた持ち主が「お金を取り忘れた」と気がついたため、場所を特定でき,占有が認められると考えられた可能性が高いといえるでしょう。
3、置き引きで逮捕された場合の流れは?
置き引きが窃盗罪・占有離脱物横領罪のいずれに該当したとしても、犯罪が発覚すれば逮捕されてしまうおそれがあります。
その場で誰かが目撃してすぐに警察官に通報した場合は現行犯逮捕される可能性がありますし、防犯カメラの映像や目撃者の供述など事後の捜査で犯人が判明すれば、逮捕状に基づいて通常逮捕される可能性があります。
ただし、すべての置き引き事件で逮捕されるというわけではありません。また、任意の取り調べでも十分に捜査が可能で、逃走・証拠隠滅のおそれがない場合は逮捕せず在宅のままで捜査が進められることがあります。
警察に逮捕されると、以下のとおり刑事手続きが進むことになります。
- 逮捕…警察が取り調べのため、48時間を上限として行う身柄拘束。
- 送致…逮捕から48時間以内に行われる、警察から検察庁への身柄の引き渡し。
- 勾留請求…送致から24時間以内に検察官が更なる身柄拘束を要するのかを判断し、裁判所に行う手続き。
- 勾留…裁判所が勾留請求を認めた場合に実施される、原則10日間、最長20日間の身柄拘束。
- 起訴…勾留満期までに検察官が行う公訴提起する旨の判断。
- 公判…公判請求された場合に行われる裁判。
- 判決…犯罪の成否について検察官が主張する事実に理由があるか否かの判断。
4、置き引きを解決するための対処法
つい魔が差して置き引きをしてしまったという方は、捜査が開始され,逮捕されてしまう前に、自ら解決へと動き出すことをおすすめします。
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(1)警察に拾得物として届け出る
まず考えられることは,警察に届け出ることです。警察署または交番に赴き、路上で拾った、店舗内で発見したなど事情を説明して拾得物として届け出ることで、窃盗罪や遺失物横領罪の嫌疑から解放されることがあります。
ただし、拾得物の届け出は「速やかに」と規定されており、一般的には報労金の受け取り権利が守られる7日以内が1つの目安です。この期限内であれば「届け出をしようとしたが忙しくていけなかった」と説明しても大きな矛盾はありません。
また、7日を過ぎたとしても即座に犯罪だと判断されるわけではありません。持ち主としては置き忘れた金品が戻ってくることが第一です。たとえ、置き引きしてしまった瞬間は「誰にもバレなければいい」と考えていたとしても、速やかに届け出ることを強くおすすめします。 -
(2)弁護士に相談する
もし、窃盗罪または占有離脱物横領罪の容疑で逮捕されてしまった場合は、早期に弁護士を選任しましょう。取り調べ対応や今後の手続きの流れを教えてもらいながら、早期釈放や適正な刑罰への軽減に向けたサポートが期待できます。
被害者との示談交渉では、賠償金を支払った上で,被害届の取り下げを請うことも可能です。他にも警察に事情を説明する手助けをはじめ、さまざまな弁護活動により、早期解決を目指すことができます。
5、まとめ
バス停や駅、飲食店など、目の前に持ち主不明の金品があると、つい魔が差してしまうことも考えられます。しかし、ほんの軽い気持ちで置き引きをして逮捕され、有罪判決を受けてしまったとしたら……。取り返しのつかない事態であることは間違いないでしょう。もし、置き引きをしてしまったのであれば、早急に弁護士に相談し、対処法を考える必要があります。
ベリーベスト法律事務所・岡山オフィスは、置き引きをしてしまったというお悩みにも誠実に対応しています。状況に応じて適切なサポートを行いますので、まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています