成年後見人が横領した場合に問われる罪とは? 親族でも逮捕される?
- 財産事件
- 成年後見人
- 横領
岡山県では、財産管理などのトラブルを防ぐため、岡山県出身の法務省や法務局OB・OGが一般社団法人「晴ればれ岡山サポートテラス」を立ち上げるなど、成年後見制度の普及に力を入れています。
しかし、成年後見人が被後見人から預かった現金を横領した結果、実刑判決が下るというニュースがたびたび報じられるなど、成年後見制度によるトラブルは全国的に後を絶ちません。
もし、成年後見人として預かっていたお金を使い込んでしまったら、逮捕されてしまうのでしょうか? また、逮捕後はどのような罪になり、どのような流れになるのでしょうか。
そこで、今回は、成年後見人が横領した場合の罪や逮捕された場合の流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、成年後見人が横領するとどのような罪に問われるのか?
まずは、成年後見制度とはどのようなものか、改めて確認したうえで、成年後見人が横領したときに問われる罪を見ていきましょう。
-
(1)成年後見制度とは?
成年後見制度とは、判断能力が十分ではない方が不利益を被らないよう保護するための制度で、主に、適切な財産管理や契約行為の支援等を目的としています。
成年後見制度には、「任意後見制度」と「法定後見制度」の2種類があります。- 任意後見制度
任意後見制度は、後見を受ける本人が判断を行えているときに自分で後見人を選んでおき、実際に判断能力を喪失した場合に、家庭裁判所へ本人や配偶者等が申し立てることで手続きが開始される制度です。なお、あらかじめ任意後見人を選んでおくときには、公正証書によって契約を結ぶ必要があります。 - 法定後見制度
他方、法定後見制度は、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官などの申し立てによって家庭裁判所が「後見開始の審判」により成年後見人を選任するものです。
法定後見制度は、本人の判断能力によって、以下の3種類のいずれかの制度が当てられます。
- ① 物事の判断能力が不十分のため、重要な手続き・契約上ひとりで決めることが心配な方には「補助」
- ② 判断能力が著しく不十分な場合には「保佐」
- ③ 判断能力が常に欠けている方には「後見」
成年後見人には、弁護士や司法書士のような専門職のほか、親族もなることができます。ただし、以下に該当する方は成年後見人にはなれません。- 未成年者
- 成年後見人などを解任された方
- 破産者で復権していない方
- 本人に対して訴訟をしたことがある方、その配偶者または親子
- 行方不明である方
- 任意後見制度
-
(2)成年後見人が横領した場合の罰則
成年後見人が被成年後見人(利用者)の財産を着服した場合には、業務上横領罪が成立します。成年後見人は被成年後見人の財産を管理するという業務を行っているので、「業務上」といえるからです。
業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役です(刑法253条)。罰金刑の規定がないため、有罪となれば懲役刑が科せられます。
2、横領した成年後見人が親族だった場合も罪に問われるのか?
成年後見人には、被成年後見人の配偶者や子どもなどの親族も就任することができます。
その中で、親族である成年後見人が被成年後見人(利用者)の財産を使い込んでしまったような場合はどうなるのでしょうか。
刑法244条では、「親族間の犯罪に関する特例」が定められており、配偶者、直系血族、同居の親族の間で行われた横領罪を含む一定の犯罪については、その刑が免除されます。また、それ以外の親族の場合であっても、被害者などからの告訴がなければ公訴提起できないと定められています。これには「法は家庭に入らず」という考えがあり、家族間の問題は刑罰を課すようなことはせず、家庭内の判断にゆだねたほうが望ましいとされているためです。
そして、業務上横領について規定した刑法253条は、親族間の犯罪に関する特例を準用すると定められています(刑法255条)。
それでは、成年後見人に親族が選任され、その親族が被成年後見人(利用者)の財産を着服したような場合、刑法244条により、刑が免除されることになるのでしょうか。
この点について最高裁は、成年後見人は公的性格を有するもののため、刑法244条1項所定親族という身分でも、特例の適用は認めず、刑は免除されないとしています(平成24(あ)878 最判第二小 平成24年10月9日決定)。
3、必ず逮捕されてしまうのか?
それでは、成年後見人が被後見人の財産を横領した場合、直ちに逮捕されてしまうのでしょうか。
-
(1)加害者全員が必ず逮捕されるわけではない
逮捕とは、逃亡または証拠隠滅のおそれがある場合に行われる身体拘束をいいます。つまり、これらを行うおそれがない、と判断されれば、逮捕されることはないといえます。
業務上横領罪の場合、横領額が多額などのケースでは、逮捕される可能性が高まるでしょう。
また、逮捕されなかったとしても、罪に問われないということではありません。逮捕・勾留による身柄拘束がなくとも、在宅事件として捜査が進められ、起訴されれば刑事裁判にかけられることになります。 -
(2)逮捕・起訴を避けることはできるのか
業務上横領罪は「非親告罪」であり、検察官が起訴するために被害者の告訴を必要とする「親告罪」ではありません。そのため、警察が被害を認識すれば、捜査が行われ、逮捕・起訴されることになります。
ただ、成年後見人による横領の場合は、被後見人の親族などが警察に被害届や告訴状を出すことで、警察に被害を知らせることがほとんどでしょう。そのため、事件化を避けたいときは、被害届や告訴状が提出される前に示談成立を目指すことになります。
刑事事件での示談とは、被害者へ謝罪のうえ、加害者が被害額の弁済や慰謝料の支払い等を行い、被害者と和解することをいいます。示談成立の際には、加害者は示談金を支払い、被害者は示談書において宥恕(ゆうじょ)意思(被害者が加害者を許す意思)を示すことになります。
被害届の提出前に示談が成立すれば、警察に事件を知られる前に解決しますし、被害届等の提出後であっても、示談の中でそれらの取り下げを約束してもらうことで、事件化を防ぐことができると期待できます。すでに逮捕・勾留されている場合であれば、不起訴になる可能性も高まるでしょう。
なお、成年後見人による横領の場合は、被害者が被後見人となりますので、示談する相手は新たに選任された成年後見人となります。
4、逮捕後の流れと弁護士のサポートを受けるべき理由
万が一、逮捕されてしまった場合、どうなるのでしょうか。弁護士ができることについても一緒に見ていきましょう。
-
(1)逮捕後の流れ
逮捕されると、警察からの取り調べが行われ、48時間以内に検察庁に送致されます。その後、検察官は24時間以内に勾留請求もしくは釈放かの判断を行います。裁判所に勾留請求された場合、勾留期間は通常10日ですが、必要な場合にはさらに10日間の勾留延長が認められます。勾留期間中は、検察官による取り調べが始まり、起訴されるかどうかの判断が行われます。
検察官により起訴された場合は、原則として起訴後勾留が始まります。ただし、保釈請求が裁判所に認められれば、決められた保釈金を支払うことで釈放してもらうことが可能です。一般的に容疑を認めている場合には保釈が認められ、容疑を否認している場合には保釈が認められないことが多くなっています。
その後は、刑事裁判が始まります。刑事裁判では、検察官による主張・立証がなされ、審理が尽くされると論告・求刑という流れです。判決が言い渡されると、その翌日から14日以内に控訴しなければ、刑は確定してしまいますので注意しましょう。 -
(2)依頼を受けた弁護士が行えるサポート
刑事弁護においては、まず逮捕されないことを目指します。それでも逮捕されてしまった場合には不起訴を、起訴されてしまった場合には、刑の減軽を求めることになります。
事件化を防いだり、不起訴処分や刑の減軽を目指したりするためには、早期に被害者(新たに選任された成年後見人)と示談を成立させることが大切です。弁護士が被害者側との間に入ることで、示談交渉もスムーズに進みやすくなるでしょう。
また、逮捕されてしまった場合、被疑者は、非常に不安になるものです。そういったとき、弁護士による接見を受ければ、逮捕後の流れや取り調べの受け方などについてアドバイスがもらえるので、不安が和らぐと期待できます。
また刑事裁判において弁護士は、被害弁償の状況を説明する、家族や勤務先の方などに情状証人として出廷するよう要請を出す等を行い、刑の減軽を求めます。できるだけ刑が軽くなるよう弁護活動を行いますので、弁護士に一任しましょう。
5、まとめ
今回は、成年後見人が横領した場合にどのような罪に問われるのか、また、逮捕後はどのような流れなのかについて解説しました。成年後見制度の利用者は、高齢化が進む中でこれからも増えていくことが予想されています。
成年後見人を引き受け、横領をしてしまったというときは、迷わず弁護士を依頼してください。ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスには、刑事弁護の経験が豊富な弁護士が在籍しております。本人はもちろん、ご家族の方からでも依頼は可能ですので、ご用命の際はご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています