わいせつ物頒布等罪とは? その定義と逮捕後に心がけるべきこと
- 性・風俗事件
- わいせつ物頒布罪
- 岡山
「わいせつ物頒布等罪(わいせつぶつはんぷざい)」という罪名をご存じでしょうか。わいせつ物頒布等罪とは、文字通りわいせつ物を頒布することを罰するものですが、どのようなものが「わいせつ物」にあたるのかを理解しておかないと、自覚のないままに罪を犯してしまうこともあるかもしれません。
たとえば、自分の性器の画像をインターネットにアップロードしたり、誰かに販売したりすることによって逮捕された事例が挙げられます。この記事では、わいせつ物頒布等罪について、そしてわいせつ物頒布等罪により逮捕されてしまった際の対応について、岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、わいせつ物頒布等罪とは
インターネットやスマートフォンの普及によって、画像や動画を気軽にアップロードできるようになりました。非常に便利になった半面、SNSを通じてわいせつ物に該当する可能性があるデータも、見ず知らずの人にも安易に共有できてしまいます。
だからこそ、何がわいせつ物に該当し、どのようなケースがわいせつ物頒布等罪に該当するのかをしっかりと把握しておく必要があるのではないでしょうか。
まずは、わいせつ物頒布等罪の概要と、「わいせつ」の定義を確認していきましょう。
-
(1)わいせつ物頒布等罪の概要
わいせつ物頒布等罪は、刑法第175条において「わいせつ物頒布等」として規定されているものです。「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者」が、罪に問われることになります。
この条文の設定によって保護しようとするものは「社会の健全な性風俗」とされています。したがって、個人の性的自由を保護する「強制わいせつ罪」(刑法第176条)とは異なり、個人としての被害者が存在しないケースもありえるでしょう。
なお、「公然と陳列」にあたる状態とは、店舗や画廊の展示、公道など公共の場での掲示だけではなく、インターネット上で簡単に閲覧できる状態にあることも含まれます。
わいせつ物頒布等罪で有罪になれば、「2年以下の懲役」もしくは「250万円以下の罰金」もしくは科料(かりょう:1000円以上1万円未満の財産刑)が処されることになります。 -
(2)賛否両論ある「わいせつ」という言葉の定義
何をもって「わいせつ」とするのかに関しては、主観的な感じ方や時代の価値観にも左右されるものであり、常に論争の的となってきました。このようなケースでは、法曹界は過去の判例を重視します。
法律の世界における「わいせつ」の定義は、昭和26年に最高裁で下された「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」(最高裁判例 昭和26年5月10日)という判断が引き合いに出されます。
それでも、芸術表現と、「善良な性的道義観念に反するわいせつ物」を切り分けることは難しいものです。一般的に裸や性器の露出はわいせつに該当するケースが多いのですが、それが芸術性を帯びていればわいせつではないと解釈されることもありえます。その図画やデータがどういった目的で作られたのか、というところまでを考慮して判断されます。
近年では、漫画家のろくでなし子さんが自身の女性器を型取りした作品を展示し、またその3Dデータを配布したとして2014年7月に「わいせつ物陳列罪」と「わいせつ物頒布等罪」で逮捕・起訴された件が話題となりました。
ろくでなし子さんは、女性のジェンダー問題として、女性器がなぜわいせつ物とされるのか、ということに疑問をもって作品を制作してきたという経緯があったため、裁判で争うことを決意したと報道されています。
2017年に東京高等裁判所にて「わいせつ物陳列罪」については無罪が確定、「わいせつ物頒布等罪」については40万円の罰金が言い渡されましたが、有罪判決が出た女性器の3Dデータを頒布した件については双方ともに最高裁に上告中となっています。
2、万が一、わいせつ物頒布等罪で逮捕されてしまったら?
万が一、わいせつ物頒布等罪の容疑で逮捕されてしまった場合、一体どのような対応を行ったらよいのでしょうか。以下、逮捕後に取るべき行動について解説します。
-
(1)早期釈放を目指すために弁護士に相談
早期釈放されるためには、いち早く弁護士に相談することが大切です。
逮捕ののち48時間以内は警察の取り調べを受けます。できれば、この段階で弁護士と相談しながら取り調べを受けるべきでしょう。基本的に家族や友人との面会は許されません。しかし、あなた自身やあなたの家族が選任した弁護士であれば、いつでも、何回でも、警察の立ち合いなしに自由に接見することができます。
弁護士は接見を通じて、法律や刑事事件の取り調べ手法について詳しくアドバイスを行います。あなた自身、どのような行為が違法とみなされ逮捕されているのかを理解したうえで、自らはどのような立場で応じていくのかを改めて考えることができるでしょう。可能な限り弁護士と相談し、今後の方針を決めましょう。方針が決まれば、それに沿った弁護活動を実行します。
逮捕から48時間以内に警察から検察に事件やあなたの身柄が送致されます。身柄を受けた検察が裁判所に対し「勾留(こうりゅう)請求」を行うと、引き続き10日間から20日間ものあいだ、取り調べのために留置場や拘置所で過ごすことになるかもしれません。
しかし、勾留が認められるのは「逃亡や証拠隠滅のおそれ」がある場合に限られます。そのため、弁護士を選任していれば、捜査機関に働きかけたり、裁判所に対し不服を申し立てる「準抗告」を行ったりすることで、勾留を早期に解くことを目指します。
弁護士に弁護を依頼している場合と、そうでない場合とでは、早期釈放の可能性は大きく異なってくるでしょう。 -
(2)わいせつ物頒布等罪は示談交渉できる?
事件を早期に解決するためには、「示談」は非常に有効な手段です。
警察や検察は被害者の処罰感情を非常に重視するため、被害者が許すと明言しているケースでは、長期にわたる身柄拘束や起訴を回避できる可能性が高まります。そこで、被害者が存在する刑事事件における示談では、加害者が謝罪と補償を約束する代わりに、被害者は罪を許し処罰を望まないという約束を当事者間で取り交わすことを目指します。
わいせつ物頒布等罪でも、特定の被害者が存在する場合、示談交渉を行うことは可能です。たとえば、わいせつ画像の被写体になった方と示談交渉を行い、被害届の提出を取り下げてもらうことや、不起訴を獲得することができるかもしれません。
しかし、自分のわいせつ画像を頒布していたのであれば被害者に該当する者は存在しないといえます。その場合でも、当該わいせつ物を目にして不快な気持ちを抱いた方がいれば、示談交渉の相手になりえる可能性があります。その相手を特定できればいいのですが、そうでない場合は、示談交渉は諦め、他の方法で解決を図ることになるでしょう。
もし示談を行う場合は、交渉を自分で行うよりも弁護士に依頼したほうが、スムーズに解決できるケースが圧倒的多数です。特に、早期釈放を目指すのであれば、逮捕後、身柄を拘束されているあいだ、自分に代わって交渉を行ってもらう必要があります。また、捜査機関から被害者の連絡先を提示してもらうには、弁護士という立場が必要不可欠といえるでしょう。
3、わいせつ物頒布等罪で逮捕され、罪を認める場合の弁護活動とは
自分の不注意や認識の甘さで、わいせつ物にあたるものを公開して逮捕されてしまった場合は、罪を認める形で対応を進めることとなるでしょう。
その場合は、弁護士はどのような弁護活動を行うのでしょうか。
-
(1)初犯の場合は「微罪処分」「不起訴処分」を目指す
罪を認める場合でも、前科がつかないケースはあります。
犯した罪による被害が軽微で、深く反省を示しているなどの場合は、警察は「微罪処分」と呼ばれる、検察に送致せず、厳重注意を行う形で釈放する手続きを取ることもあります。この場合は逮捕歴である「前歴」のみが残り、前科はつきません。
逮捕直後など、送致や勾留が決定する前に依頼を受けた弁護士は、当人が深く反省していることや、再犯しないための対策などを効果的に警察に訴えることによって、微罪処分を目指します。
たとえ、送致をされてしまっていても、起訴されなければ前科がつくことはありません。ただし、起訴されれば99%有罪となるというデータもあります。したがって、送致後であれば、弁護士は不起訴を目指した弁護活動を行うことになります。 -
(2)加害者が再犯しないよう環境を整える
弁護士は、犯罪が行われるにいたった背景を調査します。
もしも加害者の家庭環境や居住環境に問題がある場合は、それを整えるために家族や行政に協力をあおぐこともあります。わいせつ物頒布等罪の場合、金銭を得る目的以外にも、たとえば「目立ちたい」「人気者になりたい」といった自己顕示欲や、自分ではコントロールできない「欲」が潜んでいるケースもあります。
それらの問題を根本的に解決するために、適切なケアを行う医療機関や専門機関で矯正プログラムを受講することを約束するなど、さまざまな対策を講じます。これらの実績を通じ、刑罰をあたえなくとも更生できると訴える根拠とし、「不起訴処分」または「起訴猶予」「執行猶予」を目指します。 -
(3)不当に得た利益がある場合、贖罪寄付をする
たとえば、わいせつデータ販売などにより不当に得た利益があった場合や、被害者が示談に応じない場合は、贖罪(しょくざい)寄付という形で拠出することにより、加害者の反省を示すことができます。 贖罪寄付は、犯罪被害者支援の公益法人などに対して行います。これも、捜査機関や裁判所が処分を判断するときの情状酌量の材料となるでしょう。
4、まとめ
インターネットの世界は自由なことが大きな魅力ですが、もはや公共空間として認識されている以上、「社会通念」や「一般人としての感覚」は忘れてはいけません。それらを無視したふるまいは、インターネット上であっても避けるべきです。
近年はSNS上で犯罪につながりうる投稿を警察がチェックする「サイバーパトロール」も実施されています。節度を守り、正しいインターネットの利用を心がけましょう。
また、わいせつ物頒布等罪の可能性が少しでも疑われるような行為をしてしまった場合は、まずはベリーベスト法律事務所 岡山オフィスへご相談ください。弁護士が、状況に応じた適切なアドバイスを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています