自営業の夫が倒産したとき、離婚における注意点とは?
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帝国データバンクの統計によると、令和2年度の岡山県内における休廃業・解散した企業(個人事業主を含む)は851件でした。また、倒産件数は73件であり、新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業の経済活動に大きな影響が出ているものと考えられます。長引くコロナ禍により、経営改善が見込めない企業や事業者では、休廃業・解散または倒産を選択する可能性がありますので、今後の動向に注意が必要です。
自営業の夫との離婚を検討している妻としては、コロナ禍による経営不振によって倒産をし、または倒産を予定している状況で離婚した場合の影響について気になっていることかと思います。離婚にあたっては、養育費、慰謝料、財産分与といった金銭のやり取りがありますので、「本来もらえるべきものがもらえないのではないか」など不安を抱いている方もいるでしょう。
今回は、自営業の夫が倒産した場合の離婚の注意点について、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、配偶者の事業が倒産したことは、離婚が認められる理由になるか?
配偶者の事業が倒産したということを理由に、自営業の夫と離婚をすることはできるのでしょうか。以下では、倒産と離婚との関係について説明します。
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(1)離婚をするには法定離婚事由が必要
協議離婚によって離婚をする場合には、お互いが離婚に合意すればどのような理由であっても離婚をすることができます。しかし、どちらか一方が離婚に合意してくれないという場合には、最終的に裁判離婚で離婚をすることになりますが、裁判離婚で離婚をするためには、民法770条1項各号で定められている、以下のような法定離婚事由が存在することが必要になります。
- ① 不貞行為
- ② 悪意の遺棄
- ③ 配偶者の生死が3年以上明らかでない
- ④ 強度の精神障害にかかり回復の見込みがない
- ⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
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(2)「婚姻を継続し難い重大な事由」と判断される可能性がある
配偶者が倒産または破産したということは、上記の法定離婚事由には、直接的には該当しませんので、倒産または破産をしたとしても、それを理由に離婚をすることは原則としてできません。
もっとも、倒産または破産をしたことによって夫婦の信頼関係に影響を与え、婚姻生活を継続することが困難な状況になったという場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)として、離婚が認められる可能性があります。
「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、社会通念上、婚姻関係を修復することが困難または不可能な状態のことをいい、婚姻中の夫婦の行為や態度、婚姻継続意思の有無など、婚姻関係から生じた一切の事情を考慮して、判断することになります。
そのため、経営状態が悪化し、お互いに喧嘩が絶えない状態になり、別居をしているなどの事情がある場合には、婚姻関係を修復することが困難であると判断され、離婚が認められる可能性もあるでしょう。
2、倒産や破産した相手との離婚では、慰謝料や財産分与はどうなる?
個人事業経営者が倒産や破産をした場合には、離婚時にもらうはずの慰謝料や財産分与にはどのような影響があるのでしょうか。
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(1)倒産・破産と慰謝料との関係
配偶者が不貞行為をしていたり、配偶者から暴力を振るわれたりしていた場合には、離婚時に慰謝料を請求することができます。しかし、離婚後、慰謝料が支払われる前に、有責配偶者の夫が破産をしてしまったらどうなるのでしょうか。
破産をすると非免責債権を除いて、破産者が負うすべての債務が免責されることになります。慰謝料も金銭債務の一種ですので、自営業の夫が破産をした場合には、慰謝料も免責されてしまいますので、慰謝料を支払ってもらうことはできなくなります。
なお、破産によっても免責されない非免責債権には、以下のものがあります。- ① 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法253条1項2号)
- ② 破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法253条1項3号)
不貞行為による慰謝料については、①の「悪意で加えた不法行為」に該当するとも思えますが、この場合の悪意とは、故意を超えた積極的な害意のことを指します。そのため、平穏な婚姻生活を破綻させることを目的として、あえて配偶者以外の人と不貞行為をしたという極めて例外的な場合でなければ、非免責債権とは扱われません。
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(2)倒産・破産と財産分与との関係
離婚時には、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産の分与を求めることができます。財産分与は、離婚後に安定した生活を送るためにも重要なものとなりますが、自営業の夫が破産をした場合には、財産分与はどうなってしまうのでしょうか。
財産分与の合意をした後に離婚をした場合には、財産分与請求権も破産による免責の対象となりますので、自営業の夫が破産をした場合には、財産分与を請求することができなくなります。
ただし、すでに支払いを受けている部分については、破産によっても原則として影響はありませんが、財産分与が不相当に過大な場合には、破産管財人によって返還を求められることもあります。そのため、配偶者の経営状態が悪化した状態で、不相当な財産分与の合意をして支払いを受けることは、非常にリスクの高い行為になりますので注意が必要です。
また、財産分与の合意前に破産をしたという場合には、破産者の財産については、破産手続のなかで換価され、債権者への配当に回されることになります。そのため、夫婦の共有財産であっても、破産をした配偶者の名義の財産については、ほぼすべてが処分されてしまいますので、財産分与を求めることは困難といえます。
3、倒産した相手にも養育費や婚姻費用は請求できる?
子どもがいる夫婦では、離婚時に養育費の取り決めをします。また、離婚するまでの間に別居をした場合には、別居期間中は婚姻費用という別居中の生活費を請求することができます。このような養育費や婚姻費用は、自営業の夫が破産した場合に影響を受けることがあるのでしょうか。
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(1)離婚後に破産をする場合
離婚後に破産をする場合、すでに夫婦間で養育費の金額が決められており、合意に従って支払いが行われている状態となります。このような場合に、将来支払われる予定の養育費や現在滞納が生じている養育費について破産したことが影響を及ぼすことがあるのでしょうか。
養育費は、破産法上、非免責債権として扱われていますので、自営業の夫が破産をしたとしても、すでに発生している養育費および将来の養育費に影響を及ぼすことは原則としてありません。破産後も、当初の取り決め通りの金額を請求することができます。
もっとも、破産をすることによって、養育費の合意をしたときの経済状況とは大きく異なってきます。養育費の支払い義務者である夫の収入が大幅に減少したという場合には、養育費の減額を求められることがありますので注意が必要です。 -
(2)破産後に離婚をする場合
養育費は、離婚後に発生する権利です。そのため、破産後に離婚をする場合には、自営業の夫の破産が養育費に影響を与えることはありません。また、婚姻費用も養育費と同様に、破産法上は非免責債権として扱われていますので、破産をしたとしてもすでに発生している婚姻費用や将来の婚姻費用が免責されるということはありません。
ただし、破産によって自営業の夫の収入が減った場合には、婚姻費用の減額請求がなされる可能性があるとともに、減少後の収入を基準に養育費などを決めることになりますので、当初予定していた養育費の金額よりも少ない金額になることもあります。
4、倒産・破産した相手との離婚に悩んでいるなら弁護士に相談
倒産・破産した相手との離婚に悩んでいる方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。
配偶者の破産をきっかけに離婚を検討する方もいるかもしれませんが、破産をしたということだけでは、法定離婚事由には該当しませんので、裁判所に離婚を認めてもらうことは難しいといえます。破産したことも含めて婚姻生活中のさまざまな事情を総合考慮して、離婚が可能であるかを判断しなければなりません。法律の知識のない当事者では正確に判断することができませんので、弁護士に相談することが不可欠といえます。
また、離婚時には、養育費・婚姻費用、慰謝料、財産分与といったお金の取り決めをしなければなりません。しかし、自営業の夫が破産をした、または、これからする予定という場合には、これらの請求権に影響が生じる可能性があります。慰謝料や財産分与については、破産によって免責されてしまいますし、養育費や婚姻費用については、減額請求をされる可能性もあります。
破産によってどのような影響が生じるのかについて正確に把握していなければ、離婚後の生活を考えることもできません。不相当な条件で離婚をしてしまうと、配偶者の破産手続において不相当な離婚条件が否定されてしまう可能性もあります。配偶者の破産が問題となる離婚手続きについては、実績豊富な弁護士に相談をすることが安心でしょう。
5、まとめ
自営業の夫が倒産・破産をしたまたはする予定という場合には、本来もらうことができるはずであったものがもらえないという事態も生じます。「こんなはずじゃなかった」ということを回避するためにも、きちんと専門家に相談をしながら進めていくことが大切です。
倒産・破産する配偶者との離婚でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています