監護権や面会交流を祖父母に取られる? 離婚した配偶者の親族と判例
- その他
- 監護権
- 面会交流
- 祖父母
岡山市が公表している人口動態の統計によると、令和元年の岡山市内での離婚件数は、1188件でした。平成27年からの統計を見ると、年々減少傾向にあるようですが、それでも一定数の夫婦が離婚を決断しているようです。
子どもがいる夫婦が離婚をした場合には、どちらが子どもの監護者(親権者)になるのか、離婚後の子どもとの面会をどうするのかなど、子どもをめぐって争いが生じることが多くあります。夫婦間の話し合いによって解決することができなければ、家庭裁判所の調停や審判によって決めることになります。
その際に、子どもの両親以外の第三者(元配偶者の両親など)が子どもの監護権や面会交流を主張することはできるのでしょうか。最近、最高裁判所の決定によって、このような疑問についての考え方が示されたことで注目されています。
今回は、祖父母から監護権や面会交流を主張された場合の対応や離婚時に取り決めておいた方がよい事項について、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、離婚した配偶者の親が監護権・面会交流を要求してきたら?
離婚した配偶者の親が監護権または面会交流を要求してきた場合にはどのように対応すればよいのでしょうか。令和3年3月29日の最高裁決定において、このような場合についての具体的な判断が出されましたので、以下で紹介します。
-
(1)離婚した配偶者の親が監護権を要求してきた判例
祖父母が親代わりになって、孫を育てているという家庭もあるでしょう。両親が共働きで平日は面倒をみることができないという場合には、祖父母の家で孫が生活しているということもあるかもしれません。このように、孫と一緒に生活をしてきた祖父母は、孫の親に代わって自身を孫の監護者に指定するように要求する権利があるのでしょうか。
このような問題について、最高裁判所は、父母以外の人は監護者指定の申立てをすることはできないとの判断を示しました。以下で詳しく説明します。登場人物
母親:A
子ども:B
子どもの祖母(母親の母):C
母親の再婚相手の男性:D
① 事案の概要
母親Aは、離婚時に子どもBの親権を獲得しましたが、多忙であったことから、自分の実家に戻りAの母親である祖母Cが主に子どもBの面倒をみるようになりました。その後、母親Aは交際相手の男性Dと同居を始め、婚姻をして、男性Dと子どもBが養子縁組をしました。しかし、祖母Cは、母親Aと男性Dとの婚姻に反対したため、母親Aと祖母Cとの関係は徐々に悪くなっていきました。
子どもBも男性Dのことを快く思わず、母親Aと男性Dの婚姻後も引き続き祖母Cのもとで生活をすることを望んだことから、祖母Cは家庭裁判所に対して、子どもBの監護者を祖母Cに指定することを求める調停を申し立てました。調停での話し合いでは解決はせずに、事件は審判に移行することになりました。
② 原審の判断
原審は、民法766条1項を根拠として、子どもBを事実上監護している祖母Cには、監護者指定の申し立てをする権利があることを認めました。そのうえで、子どもBが母親Aおよび男性Dに対して拒否反応を示していること、子どもBが祖母Cと一緒に生活をすることを望んでいること、母親Aと男性Dが子どもBの心情に対する配慮を欠く行動を繰り返していることなどの事情を考慮して、母親Aと男性Dは親権者であるものの、未成年者の福祉のためには、祖母Cを監護者として指定して、安定した監護養育を継続させるのが相当であると判断しました。
③ 最高裁判所の判断
最高裁判所は、以下のような理由から、祖母Cには、監護者指定の申し立てをする権利はないと判示しました。- 民法その他の法令において、子どもを監護してきた第三者が、監護権指定について家庭裁判所に申し立てることができる旨を定めた規定はない。
- 上記の申立てについて、監護をしてきたという事実をもって第三者を父母と同視することもできない。
- 子どもの利益は、子どもの監護に関する事項を定めるに当たって、もっとも優先考慮するべきものだが(民法766条1項)、このことは、第三者による上記の申立てを許容する根拠とはならない。
原審では、子どもの福祉の観点から祖母Cに対して監護者指定の申立権を認めていましたが、最高裁判所は、条文の文言から形式的に判断をして、祖母Cの監護者指定の申立権を否定している点がポイントです。
-
(2)離婚した配偶者の親が面会交流を要求してきた判例
孫と会うことが唯一の楽しみといっても過言ではない、というほど、孫のことを可愛がっている祖父母も多いでしょう。里帰りの際に、孫を連れてきてくれれば孫と会うことができますが、自身の子ども(孫の親)が亡くなった場合には、簡単には孫に会うことができなくなります。
どうしても孫に会いたい場合には、祖父母が孫の親に対して面会交流を求めることができるのでしょうか。登場人物
父親:A
母親:B
子ども:C
子どもの祖父(母親の父):D
子どもの祖母(母親の母):E
① 事案の概要
父親Aと母親Bとの間には、子どもCがおり、母親Bの両親である祖父母DEとともに祖父Dの自宅で同居をしていました。しかし、その後、父親Aは祖父Dの自宅を出て、母親B・子どもCと別居をするようになりました。
別居後、父親Aと母親Bは、1週間または2週間ごとに交代で子どもCを監護することとなり、その際に、祖父母DEは、母親Bによる子どもCの監護を補助していました。その後、母親Bは死亡して、以後、父親Aが子どもCを引き取り監護していました。
母親Bの死後、子どもCとの面会が叶わなくなった祖父母DEは、子どもCとの面会を求めて、家庭裁判所に対して面会交流の審判を申し立てました。
② 原審の判断
原審は、事実上、子どもを監護してきた第三者が、その子どもとの間に父母と同視できるような親密な関係があり、さらに、第三者(祖父母)と子どもとの面会交流を認めることが子どもの利益にかなうと考えられる場合には、面会交流を認める余地があるとしました。(民法766条1項及び2項の類推適用)
このことから、子どもCを事実上監護していた祖父母DEに対して子どもの監護に関する処分として面会交流の申し立てをする権利があることを認めました。
③ 最高裁判所の判断
最高裁判所は、(1)で解説した監護者指定の申し立てと同様に、条文の文言から、祖父母には、面会交流を申し立てる権利はないと判断しています。
2、元配偶者の親族との関係を終了させたいとき
たとえば、結婚時から、配偶者の親族に過度に干渉されていたり、嫌がらせをされていたりするようなケースでは、離婚後も元配偶者の親族からさまざまな要求をされることが煩わしいと感じ、元配偶者の親族との関係を終了させたいと考える方もいるでしょう。
以下では、離婚後の元配偶者の親族との関係などについて説明します。
-
(1)離婚後の元配偶者の親族との関係
夫婦は、婚姻をすることによって、配偶者の親族との間に姻族関係が生じることになります。民法では、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を親族と定めていますので(民法725条)、配偶者の両親はもちろんのこと、配偶者の兄弟姉妹、甥姪、祖父母、叔父叔母も親族に含まれることになります。
これに対して、離婚をすることによって、婚姻で形成された姻族関係は解消されることになります。そのため、配偶者だけでなく、配偶者の親族との親族関係も終了することになります。
ただし、夫婦に子どもがいる場合には、離婚をしたとしても子どもが両親との関係を解消することはできません。子どもは親権を取得しなかった親との関係でも、親族であることに変わりありません。 -
(2)配偶者と死別した場合には、姻族関係終了届の提出
配偶者と離婚をした場合には、上記のとおり、配偶者だけでなくその親族との関係も解消されることになります。しかし、配偶者と死別した場合には注意が必要です。
配偶者と死別した場合には、婚姻関係は終了しますが、配偶者の親族との姻族関係は継続することになります。
配偶者の親族との姻族関係が継続した状態だと、特別な事情がある場合には、家庭裁判所によって義理の両親などの扶養義務を負わされる可能性もあります。このような関係が煩わしいという場合には、姻族関係終了届を市区町村役場に提出することによって、元配偶者の親族との姻族関係を解消することが可能です。
3、離婚するときに決めておきたいこと
離婚をするときには、離婚をするか否かということ以外にも以下の内容を取り決めておく必要があります。
離婚後に配偶者、またはその両親との間でトラブルが生じないようにするためにも、親権や面会交流の内容だけでなく、さまざまな要素について十分に話し合いをすることが重要です。
-
(1)親権
夫婦の間に未成年の子どもがいる場合には、父母のどちらか一方を親権者として指定しなければなりません。親権者と監護権者を別々に定めることもできますが、一般的には、親権者に指定された人が監護者として子どもと一緒に生活することになります。
親権者を指定した後に、変更を必要とする事情が生じた場合には、家庭裁判所に親権者変更の申し立てをすることができます。 -
(2)養育費
養育費とは、子どもが経済的・社会的に自立するまでに必要となる費用のことをいい、衣食住に必要な経費、医療費、教育費などが含まれます。離婚によって非監護者となった親は、子どもの監護者となった親に対して、子どもの養育費を支払う必要があります。
養育費の金額については、基本的には、夫婦の話し合いによって定めることになりますが、話し合いで決まらない場合には、家庭裁判所の調停または審判によって決めることになります。 -
(3)慰謝料
離婚にあたって有責性のある配偶者に対しては、慰謝料を請求することができます。慰謝料を請求することができる代表的な例としては、不貞やDVなどが挙げられます。単純な性格の不一致による離婚では、夫婦のどちらかに明確な有責性があるというわけではありませんので、慰謝料の請求は難しいでしょう。
-
(4)財産分与
離婚にあたっては、婚姻生活中に夫婦が協力して築いた財産の分与を求めることができます。財産分与の対象財産は、あくまでも夫婦の協力によって築いた財産ですので、独身時代に貯めた預貯金、相続によって取得した遺産などについては、財産分与の対象外となります。
財産分与の割合については、一般的に2分の1とされており、専業主婦であっても2分の1の割合で財産の分与を求めることができます。 -
(5)面会交流
夫婦に子どもがいる場合には、非監護者と子どもとの面会交流について決める必要があります。面会交流の取り決めでは、面会交流の頻度、日時、場所などを決めていきますが、大枠だけを決定して、詳細はその都度、父母で連絡を取り合って決めるということも可能です。
しかし、面会交流で争いが生じることが予想できるケースでは、曖昧な取り決めをすると将来の紛争の火種となりますので、できる限り具体的に決めておくようにしましょう。
4、まとめ
今回紹介した2件の最高裁決定によって、祖父母からの監護者指定の申し立ておよび面会交流の申し立てについては、いずれも不適法であるとの判断が下されました。離婚後は、元配偶者だけでなく、その親族との関係でも子どもをめぐって争いが生じることがあります。そのような紛争が生じた場合には、弁護士が代理人となって交渉し、対応することが可能です。
子どもをめぐる紛争に巻き込まれてしまったという方は、早めにべリーベスト法律事務所 岡山オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています