婚姻費用の取り決めは公正証書に! 作成方法やメリットとは
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厚生労働省「令和4年(2022年)度 離婚に関する統計」によると、令和2年の都道府県別離婚率(人口千対)において、岡山県は1.61となり、47都道府県の中で12番目に離婚率の高い都道府県となりました。
配偶者と離婚したいとき、別居をしようとする方も多いでしょう。しかし、別居をしたいと思っても、生活費がどうなるのか不安に思い、なかなか行動に移せないこともあるかもしれません。
しかし、別居に当たっては「婚姻費用」を支払ってもらうことができます。それでは、婚姻費用を配偶者から確実に支払ってもらうためには、どうすればよいのでしょうか?
そもそも婚姻費用とは何なのか、どのように決めればよいのか、そして婚姻費用についての取り決めをどのように書類にすればよいのか、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説していきます。
1、そもそも婚姻費用とは?
「婚姻費用」とはどういうものを指すのでしょうか?
詳しく解説していきます。
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(1)婚姻費用とは
夫婦は互いに扶助する義務が法律上定められており、収入に応じて婚姻費用を分担しなければならず、別居中もこの義務はなくなりません。「婚姻費用」とは、夫婦が生活をするために必要な費用のことです。
このことから、夫婦が別居をする場合、離婚が成立するまでの間は、収入の少ないほうが収入の多いほうに婚姻費用を請求することが可能です。 -
(2)婚姻費用の内容
婚姻費用には生活していくために必要なものが含まれています。具体的には、以下のとおりです。
- 衣食住の費用(食費や家賃、光熱費など)
- 医療費
- 子のための費用(生活費や学費、習い事の費用など)※離婚後は「養育費」と呼ばれる
- 交際費(必要と考えられる範囲内)
2、婚姻費用の決め方
婚姻費用は、どのように決めていけばよいのでしょうか? 金額を決めるための基準や実際に定める方法を確認していきましょう。
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(1)婚姻費用の金額の参考基準
婚姻費用の金額を決めるために参考にされるのが「婚姻費用算定表」です。東京・大阪の裁判官の共同研究によって作成されたもので、参考資料として家庭裁判所で使用されています。
「婚姻費用算定表」は夫婦のみの場合や子どもの人数(1~3人)と年齢(0歳~14歳と15歳以上)に応じて表が分かれていて、夫婦の年収に応じて一般的な婚姻費用を算定することが可能です。
ただし、「婚姻費用算定表」はあくまでも参考資料であり、必ずしもこの算定表で算定された金額に決める必要はありません。
たとえば「子どもに障害があり養育にかかる費用をもっと支払ってほしい」、「学費が高い大学に進学するために学費をもっと支払ってもらいたい」など、算定額よりも高く請求したいケースもあるでしょう。
そういった場合には夫婦の話し合いによって、「婚姻費用算定表」通りの金額よりも高く請求できる可能性があります。 -
(2)婚姻費用の金額を決める方法
婚姻費用の金額を決める方法は3つあります。順を追ってみていきましょう。
① 夫婦間の話し合い
婚姻費用の金額を決めるためにまず行われるのが夫婦間の話し合いです。当事者のみの話し合いによって婚姻費用について決めていきます。
② 調停
話し合いで決められなかった場合や相手がそもそも話し合いに応じてくれない場合もあるでしょう。
そのような場合は「調停」を検討します。「調停」は家庭裁判所において、調停委員と裁判官という第三者とともに話し合いで紛争を解決する制度です。
家庭裁判所に申し立てを行い、話し合いによって婚姻費用の金額を決定します。
「調停」で婚姻費用の金額に合意し、調停が成立した場合、その合意内容に裁判と同じ効力が発生します。
そのため、相手の支払いが滞ると、裁判所から履行勧告や履行命令を出してもらうことができ、それでも払われないと強制執行へと手続きを進めていくことが可能です。
ただし、あくまで話し合いによって決定するため、合意に至らなかった場合は、審判に移行することになります。
③ 審判
「調停」で合意に至らなかった場合は、自動的に「審判」の手続きが始まります。審判の場合、当事者同士の話し合いではなく、家庭裁判所の裁判官が内容を決定する(審判を下す)ことになります。
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(3)話し合いで取り決めるべき事項
婚姻費用を決める話し合いで取り決めるべき事項は「金額」だけではありません。「金額」に加えて、以下のような事項を決めておきましょう。
- 支払い時期(毎月何日までに支払うか、いつからいつまで支払うかなど)
- 支払い方法(振り込みか手渡しかなど)
- 振込先
3、婚姻費用が決まったら公正証書の作成を
当事者による話し合いで婚姻費用について決定した場合、安堵してそのまま別居に移ろうとする方もいるでしょう。しかし、書類を取り交わしておかないと、支払い額を合意内容より減らされたり、支払いを拒否されたりするおそれがあります。
そのような事態を防ぐために作成しておきたい書類が「公正証書」です。
「公正証書」とは何か、そして「公正証書」を作成するまでにはどのような流れがあるのかについて見ていきましょう。
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(1)公正証書とは?
「公正証書」とは公証人が作成する文書のことです。「公証人」と呼ばれる公証役場に執務する公務員によって、当事者間で交わした合意書や契約書を公的な文書にしてもらえます。
婚姻費用の取り決めを単なる書面ではなく「公正証書」にするメリットをみていきましょう。① 証拠力が高い
たとえば相手が「こんな内容は聞いていない」という主張をしてきたとしましょう。
当事者のみで婚姻費用についての文書を作成したものと比べて、「公正証書」の場合は、作成時に公証人が当事者の意思確認を行い、さらに身元確認も行ったうえで公証人が文書を作成するため、「話を聞いていない」という主張は通りにくく、また公正な第三者である公証人が作成しているため証拠としての力が強くなります。
② 執行力があるため強制執行が可能
相手の支払いが滞った場合や支払いを拒否した場合に、当事者間で作成した書面では、裁判を起こして判決が下されてから強制執行手続きを行う必要があります。
一方、「公正証書」は「強制執行認諾文言」と呼ばれる条項を入れておくことで、裁判を経ずに強制執行手続きを行うことができるのです。
「強制執行認諾文言」とは「この証書に記載された金銭債務を債務者が履行しない場合は、直ちに強制執行に服する」という旨の記載のことを指します。
相手の支払いが滞ったり拒否されたりする場合に備えて、「公正証書」には「強制執行認諾文言」を加えておいたほうがよいでしょう。
③ 紛失・改ざんを防止できる
当事者間で取り交わされる契約書等の書面は、当事者の手元に保管するため、紛失や改ざんの可能性があります。
「公正証書」は原本を公証役場で20年間保管してもらうことができるため、紛失しても再発行することが可能なうえ改ざんのおそれもなくなります。
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(2)公正証書の作成の流れ
「公正証書」の作成の具体的な流れをみていきましょう。
① 公正証書にする内容をまとめる
どのような内容を「公正証書」に記載してもらうのかを事前にまとめて文書にしておきましょう。
② 本人確認資料を用意する
公証役場において「公正証書」を作成する際に、本人確認資料(免許証やパスポートなど)の提示を求められるため、事前に準備しておく必要があります。
③ 公証役場に申し込み、内容を伝える
公証役場に電話や訪問をして「公正証書」の作成をしたい旨とその内容を伝えます。
この際、事前に準備しておいた契約の内容に法的な問題がないかどうか、公証人に確認してもらうことも考えられます。
④ 予約日に公証役場に出向く
時間に遅れないように公証役場に出向き、必要資料を提出します。
⑤ 公正証書を作成する
公証人が作成した「公正証書」の内容を確認して、署名捺印をして完成です。
4、婚姻費用など離婚問題を弁護士に相談するメリット
「婚姻費用」を決める話し合いや公正証書の作成準備は個人で行うことも可能です。
しかし、別居をする際に生じる「婚姻費用」の問題解決やその後の離婚成立のためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
離婚にあたっては、婚姻費用の取り決めだけでなく、その後の親権、養育費、面会交流、慰謝料、財産分与や年金分割など、決めなければならないものが多くあります。当事者だけで決めようとすると、なかなか決着がつかなかったり、時間を取られてほかのことができなくなったりもするでしょう。
弁護士は個別の事情に応じて適切な離婚条件をご提示することが可能です。また弁護士が代理人となって交渉を行うことで、よりスムーズに話し合いを進めることができると期待できます。
また公正証書は婚姻費用だけでなく、養育費や面会交流などの取り決めの際にも利用できます。これらを公正証書で定めるために事前に準備しておく書面の作成についても、弁護士は、法的に問題のない内容となるようサポートすることが可能です。
離婚、別居を考える際にはまず弁護士に相談しましょう。
5、まとめ
「婚姻費用」は夫婦である以上、離婚が成立するまでの間は別居をしている期間中にも支払ってもらうことが可能です。
婚姻費用について決めるにはまず話し合いを行いましょう。話し合いで決まらない場合や相手に話し合いに応じてもらえない場合には「調停」そして「審判」という制度の利用を考えていきます。
そして、話し合いで婚姻費用について合意した場合は「公正証書」を作成することが重要です。「婚姻費用」を決める話し合いにおいても「公正証書」の作成場面においても弁護士に相談することをおすすめします。
このような、婚姻費用や公正証書の作成などの離婚問題はベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士へご相談ください。
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