民事信託とはどのような制度? メリット・デメリットを岡山県の弁護士が解説
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平成27年における国勢調査の結果によりますと、岡山市は人口の約25%が65歳以上の方々です。少子高齢化の影響もあり、今後もこの数値はますます高くなっていくと考えられます。
ご自身が認知症になってしまった場合の資産と生活費の支払いはどうするべきか、ご自身が亡くなったあとの相続はどうするべきか……。多くの高齢者の方が頭を悩ませていることと思います。特に、資産の管理と承継は課題のひとつではないでしょうか。
認知症などになった場合に備えた有効な対策として、民事信託の活用が考えられます。本コラムでは、民事信託のあらましとメリットとデメリットについて、ベリーベスト法律事務所・岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、そもそも民事信託とは何か
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(1)信託とは?
信託とは、財産管理や処分の制度のひとつです。信託は意外と身近なものであり、投資信託や年金、土地信託など、幅広く活用されています。
現在の信託制度はイギリスで発展したもので、中世の十字軍が出征中に土地などの管理を第三者に託した「ユース」が起源であるといわれています。
日本における信託は、「信託法」という法律で規制されています。信託の基本的な仕組みについては、信託法第2条1項以下で次のように定義されています。
- 委託者は、信託契約、遺言、公正証書などのいずれかにより、信託する目的を意思表示する。
- 受託者は、委託者の信託目的に従い、委託者の財産(信託財産)を管理、処分する。
- 受益者は、受託者の信託行為によって生じる利益を受け取る。
少しわかりにくいため、それぞれの用語について簡単に解説します。
- 「委託者」……財産の管理・運用・処分を委託したい人
- 「受託者」……委託者から財産の管理・運用・処分を引き受ける人
- 「受益者」……信託行為により利益を受ける人
- 「受益権」……信託行為により利益を受ける権利のこと
委託者と受益者が同一のケースもあれば、委託者と受益者が別々であるケースもあります。
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(2)民事信託とは?
信託は、信託の目的・信託行為・信託財産・信託の成立原因・受託者の管理業務や責任範囲などによって極めて多岐に分類されます。
このうち、受託者が営業行為つまり有償で引き受ける信託を「商事信託」といいます。信託銀行や信託会社が受託者として引き受ける信託は、すべて商事信託に分類されます。これに対して、受託者が営業目的以外で引き受ける信託を「民事信託」といいます。そのうち、委託者の家族が受託者となる民事信託は、「家族信託」ともよばれます。
受託者は営業目的で信託を引き受けるわけではありません。民事信託は信託法第54条の規定により原則として無償の信託契約に基づく信託とされます。
また、民事信託は委託者と受託者との私的な契約に該当します。つまり、その法的性質は遺言や成年後見人制度と根本的に異なることを知っておきましょう。
2、民事信託のメリットと活用方法は?
民事信託は受託者の同意さえあれば、委託者の意思能力があるうちに自らの意思で自由に契約内容を決めることができます。これにより、委託者が病気で動けなくなったり意思能力がなくなったりしたとしても、受託者が義務を果たすことにより信託の目的を果たすことができます。
また、制度としての自由度の高さから、民事信託においては柔軟な資産運用と相続対策が可能になるというメリットがあります。このようなメリットを生かした民事信託の活用例を紹介します。
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(1)高齢者の生活費管理
Aさんは、加齢により日常の買い物やデイケア費用の支払いなど、通常の生活費管理が難しくなってきました。そこで、同居する息子のBさんに生活費の管理を任せたいと考えました。
ただし、Aさん名義の年金をBさん名義の口座に振り込むことはできませんし、Aさんは紛失や盗難など万が一のことを考えキャッシュカードは自分の手元に置いておきたいと考えています。また、Aさんの生活費名目とはいえ、事前にまとまったお金をBさんに渡すことは生前贈与とみなされる可能性があります。
そこで、Aさんは次のような契約内容でBさんと信託契約を結ぶことにしました。
- 委託者兼受益者……Aさん
- 受託者……Bさん
- 信託財産……金銭
- 信託目的……Aさんの生活費の管理をBさんが行う
- 信託終了事由……Aさんが死亡したとき
- 信託終了時の信託財産の取り扱い……Aさんの法定相続人が相続する
この信託契約に基づき、Aさんの生活費を管理するという信託目的を達成するためにBさんが資金を自由に出し入れできる口座を作り、Aさんはお金を信託する形で口座に入金します。これにより、もしAさんが認知症になったとしても、BさんはAさんの生活費を支払い続けることができるのです。
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(2)不動産の管理・運用
高齢者のCさんは空き地を所有しており、相続対策のためにアパートの経営を考えています。また、Cさんは高齢であることから、アパート経営を息子のDさんに任せたうえで、アパートの賃料収入をCさんの生活費や介護費などに充ててほしいと考えています。
そこで、Cさんは次のような契約内容でDさんと信託契約を結ぶことにしました。
- 委託者兼受益者……Cさん
- 受託者……Dさん
- 信託財産……土地(空き地)、およびアパート建築のための金銭
- 信託目的……Cさん所有の空き地に建築するアパートの管理維持、およびアパートからの賃料収入をCさんの生活費などに充当する
- 信託終了事由……Cさんが死亡したとき
- 信託終了時の信託財産の取り扱い……Dさんが相続する
このように、民事信託は資産を有効活用できることと併せて、特定の相続人を指定しておくことも可能なのです。
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(3)事業承継
会社のオーナーであるEさんは、息子のFさんを後継者にする予定です。ただ、まだFさんは経験が浅いため、EさんはFさんが会社のオーナーになったあとも、重要な場面では自身が会社経営の意思決定に参画したいと考えています。しかし、会社の重要な意思決定は、株主総会で行われます。そして、株主総会での発言の影響力は保有株式数に比例します。
そこで、EさんはFさんと以下のような信託契約を締結し、自身が持つ自社の株式を信託しました。
- 委託者兼受益者……Eさん
- 受託者……Fさん
- 信託財産……自社の株式
- 信託目的……あらかじめ定めた株主総会の議案のみ、Eさんに議決権行使の指図権を残しておく
- 信託終了事由……Eさんが死亡したとき
- 信託終了時の信託財産の取り扱い……Fさんが相続する
Eさんが保有する自社の株式をFさんに信託しておくことで、信託目的に定めた重要な議案については実質的にEさんが議決権行使することができます。したがってEさんは、自身の意思を経営に反映させることが可能です。一方で、信託目的に定めていない決議事項については、Fさんが自ら議決権を行使することで会社の方針を決定することが可能です。
3、民事信託のデメリットとは?
成年後見制度と異なり、民事信託には家庭裁判所の関与がありません。そのため、受益者自身に受託者の監督権限が与えられています。
しかし、受託者による信託財産の管理がおろそかになるリスクがあります。あるいは、受託者に信託財産を自己の目的に使ったり将来的には相続財産となる信託財産を独占したいという意図があったりする場合、委託者兼受益者に損害が生じるばかりか、相続が発生したときに親族間でトラブルが発生する可能性があるのです。
信託法第30条の規定により、会社であろうと家族のような個人であろうと、信託契約において受託者は信託目的にしたがって受益者のために忠実に仕事をしなければなりません。この受託者に課せられた基本的な義務を忠実義務といいます。
しかし、民事信託のメリットのひとつである自由度の高さが、受託者によるモラルハザード(倫理観の欠如)を引き起こすリスクを包含しています。それが委託者にとってデメリットにもなり得るのです。
4、民事信託を弁護士に依頼すべき理由
受託者による義務の不履行など、民事信託におけるトラブルは、信託契約書の内容に問題がある場合に生じやすくなると考えられます。
委託者のお金を管理する受託者の立場を悪用されてしまう事態を防ぐためには、民事信託を契約する前に対策する必要があります。信託目的などの内容について、弁護士などによるアドバイスを受けておくことをおすすめします。
民事信託は自由度が高いといっても、信託契約書の内容や信託行為は信託法の規定に従わなければなりません。弁護士であれば交渉から書類作成まで対応が可能です。委託者と受託者双方の意見を総合して信託契約書の文面を作成することや、公証役場における手続きのサポートも可能です。
5、まとめ
民事信託は利便性が高いメリットがありますが、自由度が高い故にさまざまなトラブルが生じる可能性があるというデメリットがあります。トラブルを少しでも未然に防ぐためには、民事信託をお考えのときは弁護士に相談してください。
民事信託や相続など幅広い業務を取り扱っている弁護士であれば、さまざまな法的知見からあなたをサポートできます。また、もしトラブルが生じてしまった場合はあなたの代理人として相手方と交渉することが可能です。ベリーベスト法律事務所・岡山オフィスでは、民事信託に関するご相談を受け付けております。ぜひお気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています