死因贈与と遺贈との違いは? 適切な遺産の残し方を考える
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遺産を残すときの方法として、死因贈与というものがあります。死因贈与は、財産を継がせたい人を指名し、自分が死んだあとに指定した財産を継がせる方法です。うまく人と財産を選んで分配すれば、残された親族同士で争いが起きる可能性を下げられるでしょう。
こうしてみると、死因贈与は遺言書を作成して相続財産の分配を指示する遺贈ととてもよく似ています。どちらを選ぶのがいいのでしょうか。
この記事では、死因贈与の特徴をご紹介した上で、遺贈との違いについて、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が詳しく解説します。どんな方法で遺産を残すべきなのか、最善の一手を打つための参考としてください。
1、死因贈与とは
死因贈与とは、財産を保有している人が亡くなることによって効力を生じる贈与のことをいいます。財産を贈与する人(贈与者)と財産を受け取る人(受贈者)の間で、事前に約束(合意)しているのが特徴です。
死因贈与によって財産が贈与されると、当該の財産の評価額に応じて相続税が発生します。贈与者は、相続税申告を行わなければいけません。
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(1)死因贈与のメリット
死因贈与の主なメリットは、次の3つです。
●負担付死因贈与ができる
死因贈与では、贈与を行う代わりに、受贈者に何らかの負担をかける契約を結ぶことが可能です。これを負担付死因贈与といいます。たとえば、家の土地をあげる代わりに介護を依頼する、不動産を渡す代わりに同居をお願いする、などのケースがよくみられます。
負担付死因贈与のメリットは、負担の希望が通りやすくなることです。
贈与の方法を負担付死因贈与とした場合、受贈者が決められた負担を履行した段階で、基本的に贈与を取りやめることはできません。受贈者からみれば、負担したことが損にはならず、むしろ財産取得の権利が守られるわけです。そのため、受贈者が贈与者の希望を受けてくれる可能性が高くなります。
●不動産の所有権移転仮登記ができる
死因贈与は不動産の所有権移転仮登記ができ、受贈者を安心させられるのがメリットです。
不動産の所有権が売り主から買い主に移った際に、法務局にその内容を知らせなければいけません。これを所有権移転登記といい、所有権移転仮登記は、所有権が移る前に仮の登記を行うことを指します。
贈与者が亡くなる前に、登記ができるので、「本当にもらえるのか」という受贈者の不安を払拭できます。
●法定相続人以外にも財産を渡すことができる
死因贈与は、法定相続人以外にも財産を贈与できます。
法定相続人とは、民法によって定められた相続人のことです。亡くなる方の配偶者や、民法が規定する血縁者(子どもや孫など)がそれに該当します。
そのため、死因贈与の場合は、たとえば内縁の妻やいとこなどと贈与契約を結ぶことが可能です。 -
(2)死因贈与のデメリット
一方、死因贈与には、主に次のようなデメリットがあります。
●税負担が大きい
死因贈与によって不動産を贈与する際、登録免許税が2.0%、不動産取得税が3.0~4.0%かかります。詳細は後述しますが、遺贈よりも税率が大きいため、相続財産の大半が不動産の場合は注意が必要でしょう。
●口約束にするとトラブルが起きやすくなる
死因贈与は、当事者間で納得していれば成立するので、口約束でも実行は可能です。しかしその場合、あとになってトラブルになることがしばしばあります。法律上は必要ないとしても、契約書を作成するのが一般的です。
●一定の場合には撤回するには相手の同意が必要
死因贈与の一部もしくは全部を撤回したい場合、上述した負担付死因贈与の場合のように、一定の場合には、受贈者の同意が必要となります。
2、死因贈与と遺贈との違い
死因贈与を検討する際、注意したいのが遺贈との違いです。これらはよく似ているため、しばしば混同されますが、特徴や適しているケースが異なるので注意しましょう。
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(1)遺贈とは
遺贈とは、遺言者が作成した遺言書に従い、相続財産の分配を行う手続きをいいます。死因贈与と同じく、法定相続人以外の人も指名できるのが特徴です。遺贈によって財産を贈与する人を遺贈者、財産を受け取る人を受遺者と呼びます。
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2種類があります。
●包括遺贈
包括遺贈とは、財産のすべて、もしくは一定の割合で指定する方法です。遺言書には「全財産のうち、2分の1を●●に渡す」のように記載し、具体的な財産の指定はしません。自分の相続財産を把握しきれていない場合に適していますが、債務があればそれも一緒に引き継がせてしまうなど、受遺者に負担をかける可能性があります。
●特定遺贈
特定遺贈とは、誰にどんな財産を渡すのか具体的に指定する方法です。包括遺贈と違って財産内容を柔軟に変更できませんが、受遺者同士が遺産分割協議(遺産をどう分けるかを決める話し合い)をする必要がなく、比較的円満に手続きを終えることができます。 -
(2)死因贈与と遺贈の異なる点
遺贈は、財産を保有している人が亡くなったことをきっかけに行われるため、死因贈与に近い手続きといえるでしょう。民法第554条においても、死因贈与は遺贈に関する規定を準用するとされています。
ただ、死因贈与と遺贈には、財産を受け取る人の了承を得ているかどうか、という大きな違いがあります。
死因贈与は、当事者間で贈与の約束を取り交わすもののため、基本的に受贈者は財産の受け取りを拒否できません。その点、遺贈は、遺贈者が一方的に決めたことなので、受遺者が受け取りを拒否することが可能です。
ほかにも、死因贈与は登録免許税が2.0%、不動産取得税3.0~4.0%かかるのに対して、遺贈は登録免許税が0.4%、不動産取得税が非課税になっているという違い(※)があります。
(※)受遺者が法定相続人の場合に限ります。法定相続人以外の場合は、登録免許税2.0%、不動産取得税3.0~4.0%です。
3、その他、遺産の残し方
死因贈与は、その特徴から、指定した人に財産を確実に贈与したいときや、自分の面倒をみてもらいたいときに適している方法です。対して遺贈は、遺産相続の内容を秘密にしたい人に向いている方法といえます。
ただ、人によっては、どちらの方法もしっくりこない場合もあるでしょう。以下に、別の方法をご紹介しますので、比較してみてください。
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(1)生前贈与
生前贈与とは、贈与者が生きているうちから、受贈者に財産を贈与する行為をいいます。贈与税の基礎控除枠(年間110万円)等を利用することで、節税効果を得られるのが利点です。
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(2)家族信託
家族信託とは、簡単にいいますと、家族に財産管理を託す手続きですが、遺産相続に関連して用いられることもあります。メリットとしては、以下のようなものが挙げられるでしょう。
- 被相続人の意思能力がはっきりしているうちから実行できる
- 遺言書だと実行が難しい内容も柔軟に決められる
4、死因贈与を行う方法
最後に、死因贈与を実際に行う方法についてご紹介します。
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(1)契約書を作成する
まずは死因贈与の約束をしたことと、その具体的な内容を記載した契約書を作成しましょう。法定のフォーマットはありませんが、少なくとも、死因贈与契約を交わした日付、贈与者および受贈者の名前、財産の種類や配分などは必要です。
●財産の配分における注意点
財産の配分を決めるときは、遺留分に気をつけてください。遺留分とは、法定相続人となる人(兄弟姉妹を除く)に最低でもこのくらいは分配するように、と民法によって定められた割合です。
遺留分は、法定相続人の立場によって変動しますが、被相続人の配偶者や子どもの場合は、基本的に、法定相続分に2分の1を乗じた割合を遺留分として請求できます。
たとえば、妻と子ども2人が法定相続人である場合を考えてみましょう。
法定相続分は、妻が全財産の2分の子どもは2人で全財産の2分の1を分け、子ども1人当たり全財産の4分のとなります。
しかし、「全財産をいとこに渡す」と遺言書で指定していた場合、遺留分として、妻は全財産の4分の子どもは1人当たり8分の1を遺留分として請求できることになるのです。
このように、遺留分を侵害された法定相続人は、遺留分を侵害する方に対して金銭の支払いを求めることができます。トラブルを避けるために、遺産の配分を指定する場合は遺留分を侵害しないようにしましょう。
●死因贈与の執行者について
死因贈与の執行者を決めた場合は、その人の住所と名前も記載しましょう。執行者は、契約内容を滞りなく進められる権限を持つ人のことです。
実際の相続手続きにおいて、相続人全員の協力を得る必要がなくなり、受贈者と執行者のみで手続きできるようになるため、執行人を選定するのが一般的となっています。 -
(2)公証役場に行く
契約書が完成したら、岡山の公証役場に当事者全員で行きましょう。
公証役場には法務大臣に任命された公証人がおり、証明力の高い契約書や遺言書などを作成(公正証書の作成)したり、会社の定款や個人間で取り交わした契約書を認証したりしています。公的機関が関与することで、契約書がより信用できるものとなり、トラブルを未然に防ぐことができます。
5、まとめ
死因贈与は、遺贈と異なり、贈与したい人と事前に約束をする必要があります。ただそのために、お互いの要望がかみ合わず、契約が難航する場合もなくはありません。また死因贈与が行われるときに親族同士が争わないように注意を払っても、思わぬ形でトラブルが起きてしまう可能性はあります。
少しでも気になることがあれば、ぜひベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士にご相談ください。ご希望から、死因贈与が適しているかどうかも含めて適切に判断し、スムーズな遺産相続の実現に向けて支援いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています