借用書がないと無効? 口約束だけで貸したお金の回収方法とは

2021年01月18日
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借用書がないと無効? 口約束だけで貸したお金の回収方法とは

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、収入が激減してしまったという方も多いかと思います。岡山県では、令和2年12月末まで、休業や失業などにより生活資金を必要としている人を対象として、生活福祉資金の特例貸付を実施しています。

このような岡山県の貸付制度ではなく、個人間でお金のやり取りをしている方もいるかもしれません。親族、知人、友人に対しお金を貸している方の中には、借用書をとらずに、口約束だけでお金を貸している方はいませんか? 借用書がないからといって、お金の回収をあきらめる必要はありません。

今回は、口約束だけで貸したお金の回収方法について、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。

1、お金の貸し借りに借用書は必要?

親族、知人、友人との間で、金銭貸借をする場合、相手との関係性を悪くしたくないという思いから借用書を要求できない場合も多いかと思います。借用書がない場合であっても契約は有効に成立しているのでしょうか?

  1. (1)お金の貸し借りに借用書は不要

    お金の貸し借りの契約のことを、民法では、金銭消費貸借契約と呼びます。金銭消費貸借契約については、民法587条に規定があります。

    (消費貸借)
    第五百八十七条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。


    このように、民法では、当事者同士でお金の貸し借りに関する合意をして、お金を受け取るだけで契約は成立し、借用書は要求されていないのです。

    借用書がなければ返済できないと誤解されている方もいますが、借用書がなくても契約自体は有効に成立し、借主には債務者としての返済義務が生じます。

  2. (2)契約が無効・取り消しになる場合

    借用書がなくても金銭消費貸借契約は有効に成立しますが、契約にあたって以下のような事情がある場合には、契約自体が無効になったり、取り消したりできる場合があるため注意が必要です。

    ①制限行為能力者との契約
    制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人)については、判断能力が不十分な本人を保護するために、必要な同意を得ずにお金の貸し借りをした場合等には、契約が取り消される場合があります。

    たとえば、未成年者が借金をする場合には、親権者による同意が必要になり、親権者の同意なく、お金を借りた場合には、後日親権者によって契約が取り消されることがあります。

    ②公序良俗違反の契約
    民法90条では、公序良俗に反する契約は無効になるという規定があります。

    たとえば、犯罪行為を目的としてお金の貸し借りをした場合や、返済のために違法な資金調達行為を要求する契約については、無効になる場合があります。

    ③錯誤による契約
    勘違いをしてお金の貸し借りをした場合には、民法95条1項の「錯誤」として契約を取り消すことができる場合があります。

    たとえば、10万円を借りるつもりであったのに、借用書に100万円と間違って記載してしまった場合には、契約を取り消すことができる場合があります(ただし、表意者の重過失は別途問題になる場合があります)。

    ④詐欺または強迫による契約
    借主から騙されてお金を貸した場合や、強迫を受けてお金を貸した場合には、民法96条1項により契約を取り消すことができる場合があります。

  3. (3)借用書の内容

    借用書を作成することになった場合には、後日争いにならないように、以下のことに注意して作成しましょう。

    ①借用書の項目
    特に法律上の決まりがあるわけではありませんが、借用書には、少なくとも以下の項目を盛り込むとよいでしょう。

    • 表題(「借用書」など)
    • 借用書作成日付
    • 契約金額
    • 利息の取り決め
    • 返済期日
    • 返済方法
    • 「金銭を受領した」ということの明記
    • 金銭の受領日付
    • 借主の住所、氏名、押印
    • 貸主の住所、氏名、押印


    ②自署での署名と押印
    借用書はすべてパソコンで作成することもできますが、後日、お金の貸し借りが争いになった場合には、そのような借用書では、証明に問題が生じることがあります。そのため、借用書をパソコンで作成する場合でも、借主と貸主の氏名は、自署で署名するようにし、可能であれば実印で押印するようにしましょう。

    ③収入印紙の貼り忘れに注意
    契約金額が1万円以上となる場合には、契約金額に応じた収入印紙を借用書に貼る必要があります。収入印紙を貼り忘れたとしても、契約が無効になるということはありませんが、印紙税法違反となりますので注意しましょう。

2、借用書の代わりとなる貸し借りの証拠は?

借用書があればそれ自体でお金の貸し借りがあったことを証明することが可能です。他方、借用書がなかったとしても、お金の貸し借りがあったことを証明する手段はあります。

借用書がない場合には、以下のものを証拠として残しておくようにしましょう。

  1. (1)メールやLINEなどのメッセージ

    「開業資金としてお金を貸してほしい」、「手持ちの現金がないから100万円貸してくれ」などのメッセージは、借主にお金を借りる動機があったことを推認できる証拠となります。また、貸主からの「返済はいつになるの?」といったメッセージや、借主からの「○月○日までに必ず返済します」といったメッセージは、お金の貸し借りがあったということを推認できる証拠となるでしょう。

    このように、メールやLINEでメッセージのやり取りをし、その中にお金の貸し借りに関するやり取りがあった場合には、借用書に代わる証拠となる場合があります。

    メールやLINEについては、前後のメッセージのやり取りも重要となりますので、該当する部分だけでなく、すべてのメッセージを保存しておくようにしてください。突然データが消えてしまうこともあり得ますので、データのバックアップや印刷などの手段を取っておくことをおすすめします。

  2. (2)振込明細書や預貯金の取引明細書

    金銭消費貸借契約が成立するためには、お金の受け渡しがあったということを証明しなければなりません。現金での受け渡しでは、証拠を残すことは難しいですが、金融機関からの振り込みによりお金を貸したのであれば、そのときの振込明細書や預貯金通帳の写しが証拠となります。

    また、借主からの返済が振り込みでなされていた場合にも、同様に振り込みのあった預貯金口座の通帳の写しが証拠となります。

    借用書がない場合には、それ以外の証拠を残すという意味でも、意識的に金融機関を通じた貸し借りや返済を求めるとよいでしょう。

  3. (3)会話の録音

    お金の貸し借りをした際の会話を録音したものも証拠となります。お金の貸し借りをする場面だけでなく、返済を催促した場面や、借主がいろいろ理由をつけて「返済を延ばしてほしい」と言った場面などを録音しておくとよいでしょう。

3、お金の貸し借りでの注意点

借用書がある場合と異なり、借用書がない場合の貸し借りには、注意点があります。また、借用書があったとしても、消滅時効が問題となることもあるため、確認しておきましょう。

  1. (1)借用書がないと立証が困難となる場合が多い

    口頭でも有効に契約は成立しますので、借用書がなかったとしても、貸主は借主に対してお金の返済を求めることが可能です。このことは、借主が借りたことを認めているのであればよいのですが、借主が借りたことを否定した場合には、その証明が問題となります。

    法律上、お金の貸し借りがあったということは、貸主の側で証明しなければなりません。しかし、借用書がなく、借主もお金の貸し借りの事実を否定している事案では、お金の貸し借りのあったことを証明することが難しい場合も多いのです。

    メールやLINEなどは直接的な貸し借りの証拠ではないため、いくつかの証拠を積み重ねて証明していかなければなりません。

    そのため、借用書がない事案では、立証が困難となる場合が多いということに注意してください。

  2. (2)消滅時効に注意

    個人間のお金の貸し借りについては、消滅時効についても意識しておく必要があります。
    なお、令和2年4月1日に改正民法が施行されたため、施行日前後で消滅時効の期間が異なります。

    ①令和2年3月31日以前の契約
    令和2年3月31日以前の契約については、旧民法が適用されます。その結果、権利を行使することができるときから10年で時効となります。

    旧民法
    (債権等の消滅時効)
    第百六十七条 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。



    ②令和2年4月1日以降の契約
    令和2年4月1日以降の契約については、改正民法が適用されます。その結果、権利を行使することができることを知ったときから5年または権利を行使することができるときから10年で時効となります。お金の貸し借りについては、貸主は、当然返済期日を知っていますので、5年で時効です。

    令和2年4月1日前後の契約で、消滅時効の期間が大幅に変わってきますので、注意をしてください。

    改正民法
    (債権等の消滅時効)
    第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
    一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
    二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

4、個人間で貸したお金を返済してもらう方法

個人間で貸したお金を返済してもらうためには、以下のように段階的に請求をしていくことになります。

  1. (1)口頭やメールでの請求

    まずは、口頭やメールでお金を返済するように求めます。返済を催促したという証拠を残すためにも、口頭ではなく、メールやLINEなどで返済を求めるとよいでしょう。

  2. (2)内容証明郵便の送付

    口頭やメールで返済を求めても応じてくれない場合には、内容証明郵便を送付してみましょう。

    内容証明郵便は、その内容と受領した事実を証明することができる郵便ですので、それ自体には返済を求める強制力があるわけではありません。しかし、内容証明郵便が届いたということは、相手に精神的なプレッシャーを与えることになりますので、貸主が本気で返済を求めているということを伝えることができます。

    さらに、弁護士に依頼をして弁護士名で内容証明郵便を送付してもらうことで、この効果をより一層高めることも期待できますので、検討してみるとよいでしょう。

  3. (3)訴訟の提起

    上記のような任意の催促では応じてもらえない場合には、最終段階として訴訟の提起をすることになります。

    訴訟提起の手段としては、金額などに応じて、支払督促、少額訴訟、通常訴訟が考えられます。支払督促とは、金銭の請求について、裁判所が簡易な書類審査だけで、支払いの命令を出してくれる制度です。また、少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを目的とする訴訟で利用できます。

    いずれも、通常訴訟と比較して簡易迅速な手続きですが、相手(被告)から異議が出た場合には、通常訴訟に移行することになります。そのため、異議が出ることが予想される場合には、最初から通常訴訟で進めた方が結果として早く解決できる場合もあるため、状況に応じて手段を選ぶことが大切です。

    特に、借用書がないお金の貸し借りの事案については、相手も争ってくることが予想できますので、通常訴訟が適している事案が多いといえるでしょう。

  4. (4)強制執行

    裁判で判決が出たにもかかわらず、相手が任意に支払わない場合には、強制執行の手続きをとります。強制執行は、相手の財産を差し押さえて、そこから強制的に回収をする手段です。

    差し押さえる財産としては、不動産、給与、預貯金などが考えられますが、差し押さえをする側で財産を特定して行わなければなりません。

    そのため、財産の特定ができなかったり、相手に資力がないような場合には、強制執行ができない場合もあります。

5、まとめ

借用書がなくても貸したお金の返済を求めることはできます。しかし、借用書がない場合には、お金の貸し借りがあったことを立証することに困難が生じることが多くあります。借用書以外にどのような証拠で立証するかについては、高度な専門知識と経験が必要になりますので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。

借用書がないお金の貸し借りでお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています