刑事裁判の判決後の流れ|刑罰の種類や服役中の生活について解説
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新聞やテレビニュースでは毎日のように事件・事故の発生や容疑者の逮捕が報じられていますが、特に注目度の高いものは、刑事裁判の行方も報じられることがあります。
たとえば、令和4年6月には、総社市で発生した幼稚園児ら4人が車にはねられた事故について、運転手に禁錮3年の実刑判決が言い渡されたと報じられました。一方で、同年9月には、岡山市内の住宅メーカーに多額の損害を与えた容疑で、同社の元部長に懲役2年・執行猶予4年の判決が下されたと報じられています。
刑事裁判の判決には、有罪・無罪だけでなく、さらに実刑や執行猶予といったものがあるので、どのような判決を受けると、その後はどうなるのか、わかりにくいはずです。もし、ご自身やご家族が刑事裁判を目前に控えていたり、刑事事件を起こしてしまって刑事裁判が開かれるおそれがあったりする状況の場合、判決に不服がある場合はどんな対応を取ればよいのかも気がかりになるでしょう。
本コラムでは、刑事裁判の基本的な流れに触れながら、判決後の流れや判決に不服がある場合の対応、刑務所に収監されてしまった場合の生活などを解説していきます。
1、「刑事裁判」とは? 意味や基本的な流れ
刑事事件を起こしてしまうと、最初に関わるのは警察官や検察官といった捜査機関です。
ここでは、取り調べや自宅の捜索のほか、実況見分や検証といった捜査が進められますが、捜査の結果次第では検察官に起訴されて「刑事裁判」が開かれることになります。
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(1)刑事裁判の意味
「刑事裁判」とは、刑事事件を起こした人を「被告人」として、本当に被告人が罪を犯したのか、罪を犯したのが事実であればどのような刑罰が相当なのかを審理する手続きです。
刑事裁判と同じく裁判所に訴えを起こして判断を仰ぐ手続きに「民事裁判」がありますが、これは主に個人間の紛争を解決するための裁判で、刑事裁判とは異なった目的をもっています。
民事裁判は、権利侵害や損害を受けた人なら個人でも訴えを起こせますが、刑事裁判を起こすことができるのは、国を代表する検察官だけです。
警察や被害者からは刑事裁判を提起できません。 -
(2)刑事裁判の基本的な流れ
刑事裁判は、3つのパートに分かれて進行します。
- 冒頭手続
- 証拠調べ手続
- 弁論手続
最初におこなわれるのが冒頭手続です。
被告人の氏名などを確認する人定質問、検察官による起訴状の朗読、黙秘権の告知、被告人・弁護人からの言い分を聞き取る被告事件に対する陳述がおこなわれます。
続いて証拠調べ手続に移行します。
検察官が証拠によって証明しようとする事実を述べる冒頭陳述、検察側からの証拠の取調べ請求、弁護人からの証拠の取調べ請求、被告人質問という流れです。
最後に、弁論手続がおこなわれます。
検察官が事実関係や法的な問題について意見を述べたうえで被告人に科すべき刑について意見を述べる論告・求刑、弁護人が事実関係や法的問題の意見を述べる弁論、被告人が意見を述べる最終陳述という流れを経て、審理が終了します。
ここで紹介したのは、公開の法廷でおこなわれる「公判手続」の流れです。
ほかにも非公開で書面のみの審理がおこなわれる「略式手続」もありますが、一般的な「裁判」のイメージに沿うのは公判手続でしょう。
2、刑事裁判が終わるとどうなる?判決後の流れ
裁判官による審理が終わると結審となり、次回期日には判決の宣告がおこなわれます。
有罪判決を受けた場合は、刑法第9条が定める死刑・懲役・禁錮・罰金・拘留・科料のうち、各犯罪に定められた法定刑及び個別の事情に沿って刑罰が科せられます。
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(1)無罪が言い渡された場合
証拠の取調べや被告人・証人の陳述などを経ても、裁判官が「被告人が罪を犯したとは確信できない、若しくは被告人に刑を科すべきでない事情がある」と判断した場合は、無罪が言い渡されます。
裁判官が「刑を科すべきでない」と判断したことになるので、刑罰は科せられません。
なお、いわれのない疑いをかけられて身柄を拘束されていた、証拠の改ざんや違法捜査などによって不当な扱いを受けたという状況があれば、国に対してその損害を賠償するよう求めることが可能です。
逮捕・勾留による身柄拘束を受けていた期間は、刑事補償請求によって1日あたり1000~1万2500円が支払われます。
また、警察や検察官の捜査に違法があった場合は国家賠償請求を起こすことで、刑事補償請求では補填しきれない損害を埋められる可能性があります。 -
(2)執行猶予つきの判決が言い渡された場合
刑に「執行猶予」がついた場合は、その刑の執行が一定期間に限って猶予されます。
懲役・禁錮の執行が猶予されるので、釈放されて社会生活を送りながら更生を目指すことが許されるうえに、新たな罪を犯さず猶予された期間を無事に過ごせば言い渡された刑の効力が消滅します。
執行猶予の期間中は、監視を受けたり、定期報告を求められたりはしません。引っ越しも自由です。
ただし、あくまでも「刑の執行が猶予されている」状態なので、期間中にほかの罪を犯してしまえば執行猶予が取り消される危険があります。
執行猶予つきの判決を受けた場合は、再犯に及ばないだけでなく、個人的なトラブルや交通事故など、思いがけず犯罪になってしまう事態も回避するよう注意を払った生活を送らなくてはなりません。
なお、罰金の場合も法律上は執行猶予が可能とされていますが、罰金に執行猶予がつくのは極めてまれです。また、拘留・科料は執行猶予の対象外です。 -
(3)実刑判決が言い渡された場合
懲役・禁錮の実刑判決が言い渡されると、直ちに刑が執行されて刑務所へと収監されます。
通常、罰金は期日までの納付が原則であり延長は認められず、拘留・科料にはそもそも執行猶予の対象外ですが、これらを実刑とは呼びません。
3、判決に不服がある場合の制度や対応
いわれのない疑いをかけられて有罪判決を言い渡されてしまったり、有罪であることは仕方がないとしても刑罰が厳しすぎたりといった場合は、判決に対する不服申し立てが可能です。
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(1)制度上は3回まで裁判を受けられる
わが国の刑事裁判では「三審制」が採用されています。
三審制とは、ひとつの事件について、当事者が望む場合は3回まで審理を受けられる制度です。
判決に不服がある場合は、さらに上級の裁判所に「上訴」して正しい判決が下されたのかの審理を求められます。
刑事裁判の第一審は地方裁判所または簡易裁判所で開かれますが、ここで下された判決に不服がある場合は高等裁判所への上訴が可能です。この手続きを「控訴」といいます。
高等裁判所で開かれる第二審を控訴審といいますが、ここで下された判決にも不服があれば最高裁判所への「上告」が可能です。第三審となる上告審でも判決が覆らなければ、判決が確定します。 -
(2)上訴への対応は個人では難しい
三審制は「3回まで裁判を受けられる」という制度ですが、控訴審・上告審は「審理をやり直す」ものではありません。
控訴審は、第一審の判決に訴訟手続きの法令違反や法令適用の誤り、量刑不当や事実誤認があった場合です。
これらの条件に合致しないと、控訴審は開かれません。
上告も、第二審までの判決に憲法違反や判例違反があった場合に認められるもので、やはり条件に合致しない場合は棄却されます。
控訴・上告には、なぜ上訴が認められるべきなのかを「控訴趣意書」や「上告趣意書」によって法的な角度から示す必要があるので、個人での対応は困難です。上訴の対応は、すべて弁護士に任せるべきでしょう。
4、刑務所に収監されるとどうなる?服役中の生活
実刑判決を受けて刑務所に収監されると、その後はどうなるのでしょうか?
服役中の生活にも目を向けてみましょう。
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(1)懲役の場合
懲役で服役すると、規則正しい生活のなかで「刑務作業」という強制労働に従事することになります。
作業内容は木工・印刷・洋裁・金属加工・革加工などで、強制労働といっても厳しい肉体労働を課すようなものではなく、軽作業が主体です。
また、刑務作業には出所後の生活資金の扶助として作業報奨金が支払われます。原則は釈放の際に支給されますが、服役中の物品購入や家族への生計援助などへの使用も可能です。
なお、服役中でも、家族や親族などとの面会や、手紙のやり取りは許されています。
面会の時間や回数、手紙の発受には一定の制限が設けられているので自由に面会・連絡できるわけではありませんが、厳しい生活を送るうえで受刑者の心の拠り所となるのは間違いありません。 -
(2)禁錮の場合
禁錮で服役した場合も、規則正しい生活を送るのは同じですが、懲役とは異なり刑務作業への従事は課せられません。
ただし、決められた運動の時間に身体を動かせるだけで、部屋の中にいても自由にくつろぐこともできないので、多くの受刑者がみずから願い出て刑務作業に従事しているのが実情です。
もちろん、懲役の場合と同じく、面会や手紙の発受は認められています。 -
(3)死刑の場合
死刑判決を受けると、刑務所ではなく拘置所に収容されます。死刑は「生命を絶つ」刑罰なので、執行を待つ間も刑務作業は課せられません。
多くの死刑囚は、読書、ビデオ鑑賞、俳句や書道などの学習で時間を過ごすことになりますが、本人が希望すれば内職への従事も可能です。
面会や手紙の発受は認められていますが、原則として親族のみに限られています。 -
(4)新たに創設される「拘禁刑」の場合
令和4年6月、刑法等の一部を改正する法律が成立し、懲役・禁錮を廃止して新たに創設する「拘禁刑」に統一することが決定しました。
拘禁刑が導入されると、受刑者の改善更生のために必要な作業や指導を柔軟に課すことが可能になります。
改正法の施行は令和7年になる見込みで、施行前に起きた犯罪については従前どおり懲役・禁錮が科せられます。
5、刑務所に服役しても刑期終了前に釈放される可能性がある
「懲役〇年」や「禁錮〇年」の実刑判決を受けて刑務所に服役することになると、刑期が満了するまで釈放されません。
ただし「仮釈放」が認められた場合は、刑期が終わる前でも社会復帰が実現します。
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(1)刑期終了前の「仮釈放」とは?
「仮釈放」とは、刑務所内の生活を通じて更生の傾向が見られた受刑者について、刑期終了前に条件つきで釈放する制度です。
有期刑なら刑期全体の3分の1を、無期刑なら10年を経過している受刑者で、改悛の状がみられる場合は仮釈放の対象になります。
あくまでも「仮」の釈放なので、完全に自由の身となるわけではありません。
新たに罪を犯したり、定期的な保護司との面談などのルールを守らなかったりすると、仮釈放が取り消されて残りの刑期を刑務所で過ごすことになります。 -
(2)仮釈放を得るために欠かせないのは「家族の面会」
仮釈放を得るには、法律上の条件を満たすだけでは足りません。実際に仮釈放を申請するには、必ず身元引受人が必要です。
しかも、誰でも身元引受人になれるわけではなく、本人の更生や社会復帰に向けて適切な人物でなければ認められません。
通常、特に事情がなければ家族が身元引受人になります。
ところが、本人が刑務所に提出する申請書類に家族を身元引受人としたい旨を記載しても、まったく面会に訪れていないようだと「家族が身元引受人として適任であるのかわからない」という事態になりかねません。
家族がたびたび面会に訪ねていれば、仮釈放後の環境も整っているという評価が得やすくなり、円滑に許可を得られる可能性が高まるでしょう。
6、まとめ
刑事裁判で有罪判決を受けると、法律の定めに従って刑罰が科せられます。
判決に不服があるときはさらに上級の裁判所に上訴することが可能ですが、法律上の条件や手続が難しいので、個人での対応は難しいでしょう。
いわれのない疑いをかけられてしまったり、不当に重すぎる刑罰が科せられてしまったりして判決に不服がある場合は、直ちに弁護士に相談して上訴に向けたサポートを受けましょう。
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