危険運転で逮捕される? ご当地交通ルールや問われる刑事責任について

2020年03月27日
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危険運転で逮捕される? ご当地交通ルールや問われる刑事責任について

岡山県警は、令和元年11月21日に「あおり運転110番 鬼退治ボックス」という専用サイトを開設し、危険運転に関するドライブレコーダーの動画や情報を募り始めました。すると、ウインカーを点滅させずに突然後続車の前方に割り込むダンプカーの動画が寄せられ、この情報をもとにダンプカーの運転手を検挙したということです。

このような危険運転について、全国で取り締まりの機運が高まっています。一方で、道交法違反にあたるような、いわゆるご当地ルールと言われるものに基づく危険運転をするドライバーも依然として多いのが現状です。もし、危険運転をすると逮捕されるのでしょうか。そして逮捕された場合、どのように対処すればよいのでしょうか。岡山オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、ご当地交通ルールは危険運転?

全国各地には、その地域特有の交通ルールが点在しています。それらのルールは事故を起こしかねないとても危険なものですが、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。

  1. (1)全国のご当地交通ルール

    全国的に有名ないわゆるご当地交通ルールには、以下のようなものがあります。

    播磨道交法 右左折時に横断歩道で歩行者が横断していても通れるスペースがあればすり抜けてよい、車線変更の際に1台分のスペースがあれば割り込める など
    阿波の黄走り 信号が青から黄色に変わったときに、速度を上げて交差点に進入する
    伊予の早曲がり 信号が青に変わった瞬間、直進する対向車より先に右折する
    松本走り 対向車が直進しようとしているのに強引に右折する など
    茨城ダッシュ 交差点で青信号に変わった瞬間、直進車よりも先に右折する
    名古屋走り 前方の車が右折しようとしている時に後続の右折車が侵入して追い越しをかける、歩行者が横断しようと手を挙げても無視する
    山梨ルール 右折するときに減速せずに交差点侵入して曲がること
  2. (2)危険運転に該当するケースも

    上記の地域特有の交通ルールは、一歩間違えれば死亡事故にもつながりかねないものです。これらの運転マナーは、道路交通法違反だけでなく、危険運転と判断されるケースもあります。危険運転となると、道路交通法違反よりも刑罰が重くなる可能性があるため、車を運転する際には交通ルールを守って安全運転を心がけるようにしましょう。

2、危険運転で問われる可能性のある刑事責任

ここからは、危険運転で問われる可能性のある刑事責任についてご説明いたします。

  1. (1)暴行罪・傷害罪

    悪質なあおり運転の場合は、暴行罪が成立する場合があります。暴行罪とは、人の身体に対し不法に物理的な暴力を加えることです。「暴行」というと殴る蹴るをイメージしがちですが、あおり運転も「不法に物理的な暴力を加える」と解釈され得ます。

    暴行罪が成立し得る例としては、前方を走る車との車間距離を詰める、後続車の前で蛇行運転を繰り返したあげく急ブレーキをかける、後続車の前で急停車して追突させるなどがあげられます。あおり運転をしたうえに後続車の運転手を車から降ろして暴行を加えケガをさせ、傷害容疑で逮捕された事件もあります。

  2. (2)強要罪

    蛇行運転や無理やり車を割り込ませる、急ブレーキをかけるなどを行い、相手を無理やり停車させると、強要罪で逮捕される可能性もあります。
    強要罪の法定刑は3年以下の懲役です。罰金刑はありませんので、起訴され有罪となると重い罰を与えられることになります。
    ※令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
    >あおり運転が厳罰化! 令和2年創設の妨害運転罪について詳しく解説

3、死傷事故の場合は危険運転致死傷罪になることも

悪質なご当地交通ルールで運転をしている車が事故を起こして、ケガ人や死者が出た場合、危険運転致死傷罪に問われる可能性もあります。危険運転致死傷罪とはどのような罪なのでしょうか。

  1. (1)危険運転致死傷罪とは

    危険運転致死傷罪とは、重大な事故を起こしかねないような危険な方法で運転して死傷事故をおこしたときに成立する犯罪です。飲酒や薬物、病気、無免許などで正常な運転が難しい状況で運転していたときや、スピードを出し過ぎていたときなどに危険運転致死傷罪になる可能性があります。

  2. (2)危険運転致死傷罪ができた経緯

    平成13年に危険運転致死傷罪が規定される以前は、人を死傷させた交通事故については、業務上過失致死傷罪が適用されていました。ただ、殺人罪の刑罰が「5年以上の懲役」であるのに対し、過失致死傷罪の刑罰は、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金と、とても軽いものでした。

    しかし、平成11年11月に飲酒運転による追突事故で車両の後部座席にいた女児2人が死亡した事件や、平成12年4月飲酒・無免許運転で過度のスピードを出していた車が歩行中の大学生に衝突し死亡した事件が発生します。その後、危険運転の厳罰化を求める市民の署名活動により、危険運転致死傷罪ができました。

  3. (3)危険運転致死傷罪の6つの類型

    危険運転致死傷罪が成立しうるケースは、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法)第2条により次の6パターンが定められています。

    1. ①アルコール又は薬物の影響で正常な運転ができないのに車を運転する
    2. ②制御できないようなスピードで車を運転する
    3. ③無免許など運転を制御する能力がないのに車を運転する
    4. ④人や車の通行を妨害するために走行中の車の直前に進入したり、通行中の人や車に著しく接近し、かつ、重大な事故を起こしかねない速度で車を運転する
    5. ⑤信号が赤に変わっているのを無視し、かつ、重大な事故を起こしかねない速度で車を運転する
    6. ⑥通行が禁止されている道路を走り、かつ、重大な事故を起こしかねない速度で車を運転する
  4. (4)危険運転致死傷罪の罰

    危険運転致死傷罪が成立した場合、事故状況により法定刑が異なります。

    <自動車運転死傷行為処罰法第2条に該当する場合>
    (3)であげたような状況で人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役に処せられます。

    <自動車運転死傷行為処罰法第3条に該当する場合>
    飲酒または薬物、病気の影響により正常な運転に支障をきたすおそれがある状態で車を運転していた場合は、こちらのケースにあたります。量刑は第2条よりも軽く、人を負傷させた場合は12年以下の懲役、人を死亡させた場合は15年以下の懲役となります。

    <自動車運転死傷行為処罰法第4条に該当する場合>
    飲酒または薬物の影響により正常な運転に支障をきたすおそれがある状態で車を運転していて、それを隠すためにさらにアルコールを摂取したり、水を大量に飲むなどしてアルコール濃度を減少させようとした場合がこれにあたります。法定刑は12年以下の懲役となります。

4、危険運転致死傷罪の疑いで逮捕されたら

危険運転致死傷罪の疑いで逮捕された場合、どのように対応するべきでしょうか。ここでは、弁護士による対応方法について解説します。

  1. (1)危険運転致死傷罪でないことを主張する

    危険運転致死傷罪の疑いで逮捕された場合、警察署での取り調べのときに「歩行者が急に飛び出してきた」「薬は飲んでいたが事故を起こしたのは不注意によるものだ」などと、危険運転致死傷罪は成立しないことを主張できる場合があります。その場合には、弁護士は必要な証拠を探し、意見書でも適切に主張を述べます。

    また、被害の程度にもよりますが、被害者との間で示談が成立していれば、十分に反省した態度を示すことで危険運転致死傷罪の適用を避けられる可能性もあります。

  2. (2)不起訴処分を目指す

    逮捕後48時間以内に取り調べを受けると、その後検察庁に送致(送検)されますが、ここでは不起訴処分を目指します。しかし、平成30年時点における起訴率の平均が32.8%であるのに対し、危険運転致死傷罪の起訴率は78.6%となっているため、起訴される確率は非常に高いと言えるでしょう。

    ただ、被害の程度が軽く、被害者との間で示談が成立しているなどの場合は、反省の意を示すことで不起訴処分を獲得できる余地もあります。

  3. (3)執行猶予付き判決を目指す

    検察官が起訴を決定すると裁判になるので、ここでは執行猶予付き判決を目指すことになります。被害者との示談成立や、本人の反省の意を示すことで、有罪となっても執行猶予がつく可能性もあるでしょう。また、危険運転致死傷罪ではなく、過失致死傷罪や道路交通法違反にあたると主張することで、刑が軽くなる可能性もあります。

5、まとめ

「目的地まで早く着きたい」「急ぎの用事がある」などの理由で危険運転をすれば、事故を引き起こし、状況によっては危険運転致死傷罪が成立することもありえます。

そうなる前に安全運転を心がけることももちろん大切ですが、事故を起こしてしまった場合はベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士にご相談ください。弁護士による的確なアドバイスがあれば、早期釈放や不起訴処分となったり、執行猶予付き判決が得られる可能性もゼロではありません。刑事事件は迅速な対応が求められますので、できるだけお早めに相談されることをおすすめします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています