歩行者が飛び出してバイク転倒! 歩行者は罪に問われるの?

2022年01月11日
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歩行者が飛び出してバイク転倒! 歩行者は罪に問われるの?

日本自動車連盟「JAF」が実施した令和3年の全国調査によると、信号機のない横断歩道で車が歩行者を優先して一時停止する割合は、岡山県で10.3%にとどまることがわかりました。この数字は、全国47都道府県でワースト1位です。これまでの調査でも全国下位にランキングされていたなかで、ついにワーストへと転落し、岡山県内を走るドライバーのモラルが問われています。

しかし、ドライバーのモラルだけを問うのも間違いです。全国の事例にも目を向けると、令和3年9月、信号無視で横断歩道を渡った男性と信号に従って直進していたバイクが接触、バイクの運転手が骨折する事故が発生しています。この事例で送検されたのは歩行者のほうでした。このような事例をみると、歩行者にも交通ルールを守る義務があり、場合によっては交通事故の責任を問われる立場になることがわかるでしょう。

本コラムでは、飛び出しなど歩行者の交通違反が原因で交通事故が起きた場合に問われる責任について、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。

1、歩行者とバイクの接触事故、どちらが罪に問われる?

歩行者とバイクが接触などの事故を起こしたとき、罪を問われて責任を負うのはどちらなのでしょうか?

  1. (1)基本的に罪を問われるのはバイク

    「交通弱者」と呼ばれるように、歩行者はバイクなどの車両と比べると事故によって負う損害が大きくなりやすくい立場です。道路交通法においても、車両に対してはさまざまな規制が設けられているのに対して、歩行者が守るべきルールは限られています。

    交通事故では、どちらに重大な違反があったのかによって加害者・被害者を区別するため、守るべきルールが少ない歩行者のほうが被害者となりやすく、守るべきルールが多い車両のほうが加害者として罪を問われやすくなるのです。

  2. (2)場合によっては歩行者も罪に問われる

    「バイクとの事故で歩行者が死傷した」と聞けば、多くの方が「バイクのほうが悪い」と決めつけてしまうでしょう。たしかに、バイクのほうが守るべきルールが多いので「被害者=歩行者」「加害者=バイク」という図式が成り立つのが一般的です。

    ただし、事故の状況次第では歩行者が罪に問われ、事故の責任を負うケースも存在します。たとえ交通弱者といわれる立場でも、無制限で常に保護されるわけではありません。

2、歩行者に対する道路交通法上のルール

歩行者が守るべき道路交通法上のルールのうち、違反すると交通事故につながる危険のあるものには次のような規制があります。

  • 信号機の表示する信号または警察官の手信号に従う(第7条)
  • 通行禁止(第8条1項)
  • 路側帯と車道の区別のない道路における右側通行(第10条1項)
  • 歩道がある道路における歩道通行(第10条2項)
  • 歩道通行の際に自転車通行帯を避けて通行する(第10条3項)
  • 付近に横断歩道がある場合は横断歩行を横断する(第12条1項)
  • 斜め横断の禁止(第12条2項)
  • 車両の直前・直後における横断禁止(第13条1項)
  • 横断禁止場所における横断禁止(第13条2項)
  • 酒に酔い交通の妨害となるような程度でふらつく行為の禁止(第76条4項1号)
  • 交通の妨害となる方法で寝そべり・座り・しゃがみ・立ち止まる行為の禁止(第76条4項2号)
  • 交通の頻繁な道路における球戯・ローラースケートなどの禁止(第76条4項3号)


歩行者にこれらのルール違反があると、交通事故における歩行者の「過失」が問われることになります。

過失の程度は、慰謝料など賠償に関する場面で問題になるケースが多いです。ただし、過失によって人が死傷する重大な結果を引き起こせば、歩行者であっても賠償問題とは別に罪を問われることがあるのだと心得ておきましょう。

3、歩行者が問われうる罪

歩行者が道路交通法によって定められているルールに違反した場合はどのような罪を問われるのでしょうか?

  1. (1)道路交通法違反

    道路交通法には、それぞれの禁止行為に対して罰則が設けられています。

    たとえば、信号無視・通行禁止に対する罰則は、道路交通法第121条1項の規定により2万円以下の罰金または科料です。

    バイクを含めて自動車による違反であれば交通反則通告制度にもとづいた切符処理を受けることになりますが、歩行者はこの制度の適用を受けないため、刑事事件として処理されます

    つまり、窃盗や暴行・傷害といった事件と同じ扱いを受けることになるため、たとえ軽微なルール違反だとしても軽視するのは危険です。もっとも、軽微なルール違反を犯したところを現場の警察官に現認された程度では、刑事事件としては扱われず、厳重注意を受けるだけで済まされることも考えられます。

    問題となるのは、軽微なルール違反であっても人身事故などの重大な結果を引き起こした場合です。

  2. (2)相手を死傷させれば「過失致死傷罪」や「重過失致死傷罪」

    たとえ軽微なルール違反であっても、歩行者の過失が相手に死傷の結果を与えた場合は、刑法第209条の「過失傷害罪」または同第210条の「過失致死罪」が成立します
    過失によって人を負傷させれば過失傷害罪、人を死亡させれば過失致死罪です。

    ここでいう「過失」とは、単なる不注意を意味するにとどまらず、必要な注意を払わず、結果の発生を回避する義務を怠った状態をいいます。

    すると、信号無視や通行禁止、禁止された方法による横断などには積極的な違反行為があり、結果の発生も容易に予見できる場合は、単純な過失では済まされません。この場合は「重過失」にあたると考えられます。

    重過失にあたる場合は刑法第211条後段の「重過失致死傷罪」が適用され、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金という厳しい刑罰が科せられます。

    冒頭で紹介した、信号無視で横断歩道を渡った男性と信号に従って直進していたバイクが接触してバイクの運転手が怪我を負った事故でも、歩行者は重過失傷害の疑いで送検されています。

    とはいえ、歩行者とバイクの接触事故について、歩行者が重過失致死傷罪に問われるケースはまれです。このような事例があったからといって、必ず歩行者に重過失が認められるとはいえません。

    ただし、危険な「あおり運転」を規制するための妨害運転罪の新設や自転車に対する法規制の強化などに照らすと、歩行者であることだけで「交通弱者」として保護される風潮が弱まっているのはたしかです。

    たとえ歩行者であっても、ルール違反や重大な過失があれば罪を問われる危険があると考えておきましょう。

4、事件・事故の容疑をかけられたら弁護士に相談を

思いがけず交通事故の加害者として重過失致死傷罪に問われたなど、事件・事故の容疑をかけられてしまった場合は、直ちに弁護士に相談しましょう。

  1. (1)犯罪になるのかの判断が可能

    道路に飛び出したところ通りがかったバイクと接触してしまったといったケースでは、歩行者側にも過失が認められるものの、重過失致死傷罪などが適用されるケースはまれです。容疑をかけられてしまった場合は、事実関係を整理する必要があります。

    弁護士に相談して状況を説明すれば、実際に犯罪にあたるのかの正確な判断が可能です。

    どのような点が犯罪にあたるのか、なぜ罪を問われる事態になっているのかを整理できれば、解決策も見えてくるでしょう。

  2. (2)厳しい処分の回避が期待できる

    重過失致死傷罪は最長で5年の懲役・禁錮を受けるおそれもある重罪です。事故相手が死亡した、重症を負ったなどの重大な結果が生じたケースでは、厳しい刑罰を受けるおそれがあります。

    相手方との示談交渉による解決や不起訴処分・執行猶予つき判決といった有利な処分を期待するなら、弁護士のサポートは欠かせません

    特に、事故相手との直接交渉はお互いの感情が衝突しがちで、本人同士が話し合っても解決に至らないケースが多いので、弁護士を代理人として交渉を進めたほうが安全です。

  3. (3)事実を争う際のサポートが可能

    交通事故でどちらか一方に100%の過失が認められる状況は多くありません。過失の割合には差があるものの、多少なりともお互いに過失が認められるケースが多数です。

    ところが、交通事故では保身のためにどちらか一方が虚偽の供述をすることもあり、事実に争いが生じる事態も予想されます。
    事実を争う際は、周囲を走っていた車両のドライブレコーダーの記録やほかのドライバーの証言など、明白な証拠の収集が必須です

    刑事手続きの進行にはタイムリミットがあります。スピード感をもった証拠収集を個人で尽くすのは難しいので、弁護士にサポートを求めましょう。

5、まとめ

たとえ歩行者であっても、重大なルール違反を犯して交通事故を引き起こせば加害者として罪を問われてしまうおそれがあります。厳しい刑罰が科せられる事態も想定されるので、容疑をかけられてしまったら早期に弁護士による法的なサポートを受けるのが賢明です。

飛び出しなどが原因で起きた交通事故で加害者として容疑をかけられている場合は、交通事故・刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 岡山オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています