勤務間インターバル制度とは? その仕組みや助成金などを弁護士が解説

2021年12月06日
  • 一般企業法務
  • 勤務間インターバル
勤務間インターバル制度とは? その仕組みや助成金などを弁護士が解説

厚生労働省・岡山労働局では、労働基準監督署が監督指導した岡山の事業場数を、毎年度公表しています。令和2年度の公表結果によれば、違法な時間外労働があった事業場の数は169に上りました。

現在、岡山県にある企業を含め、すべての企業は、働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)によって、残業時間が規制されています。特別な事情がないかぎり、原則月45時間・年360時間を超えて働かせることはできません。

こうした長時間労働を抑制する流れに伴い、企業の努力義務とされたのが、勤務間インターバル制度の導入です。勤務間インターバル制度の特徴や意義、助成金、仕組みなど、基本的なポイントをベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。

1、勤務間インターバル制度とは

勤務間インターバル制度は、終業から翌日の始業までの間に、一定以上の休息時間(生活時間や睡眠時間)を労働者に取らせる制度です

令和2年10月現在、勤務間インターバル制度の導入は、企業の努力義務とされています。これは、平成31年4月1日から働き方改革関連法施行に伴い、改正された労働時間等設定改善法(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法)に基づきます。

  1. (1)勤務間インターバル制度の特徴

    勤務間インターバル制度では、事前に決めた休息時間を取らせるために、残業をして終業時間が遅くなったとき、翌日の始業時間をずらして対処するのが特徴です。

    たとえば所定労働時間が9時~18時、休息時間が11時間だったとしましょう。このとき23時まで労働したとすると、休息時間を確保するために、翌日の始業時間を10時にしなくてはなりません。

    なお、始業時間をずらしたとき、その日の終業時間をどうするかで以下の2つのパターンに分かれます。

    • 終業時間はそのままのパターン
      上記の例でいえば、10時出社でも、18時に退社してもらいます。このとき、9時~10時を働いたとみなすこともあります。
    • 始業時間をずらした分だけ、終業時間もずらすパターン
      始業時間が9時から10時にずれたら、終業時間も18時ではなく19時にずれます。
  2. (2)勤務間インターバル制度導入の意義

    勤務間インターバル制度導入の意義のひとつは、労働者の健康の維持・向上を図れることです。健康面がよくなることで労働者が仕事に集中しやすくなり、生産性が向上するメリットもあります。

    また、労働者に対して魅力的な職場であると感じてもらいやすくなり、従業員の定着、人材の確保も期待できます。

2、勤務間インターバル制度は助成金の対象

厚生労働省では、勤務間インターバル制度を導入する中小企業事業主に対して、助成金を支給しています。この助成金は、働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)と呼ばれています。ここで、令和3年度分の内容をご紹介しましょう。

  1. (1)助成金が支給される条件

    ● 事業主に関する条件
    助成金は、労災保険(労働者災害補償保険)の適用事業主でなければ受け取ることができません。かつ、勤務間インターバル制度を導入していない事業場、すでに導入しているなら規定の条件をクリアしている事業場を有しているのが条件です。

    さらに、対象となる事業場すべてが36協定の締結・届出をしていること、年次有給休暇取得に関するルールが法律に基づいて整備されていることなどが条件となります

    また、令和3年度からは過去2年間において、月45時間を超える時間外労働の実態があること、支給申請時に、タイムカードなどの休息時間の状況を確認できる書類を提出することなどが条件に追加されました。

    ● 取り組みに関する条件
    助成金は、勤務間インターバル制度導入に対して支給されるものですが、具体的に「これに使うように」と使い道が決められています。申請時には、どの取り組みをするのか決めておかなければいけません。

    具体的には、労務管理担当者に対する研修、外部専門家によるコンサルティング、労務管理用ソフトウェアの導入や更新などです。通勤時間をなくせば、その分だけ休息時間の確保につながることから、テレワーク用通信機器の導入や更新も対象となり得ます。

  2. (2)事業主に対して求める成果目標

    助成金を申請した事業主には、成果目標が与えられます。助成金は、この目標の達成状況に応じて支払われます。事前にもらえるわけではありません。

    令和3年度分では、新しく事業場に対して導入するときは、事業場に所属している労働者の50%超を対象とすること、9時間以上の勤務間インターバルを設けることを就業規則などに盛り込むことが目標とされています。

  3. (3)助成金を受け取ると別の助成金申請ができる

    助成金を受け取った事業主は、厚生労働省が用意している人材確保等支援助成金(働き方改革支援コース)の対象にもなります。こちらは、働き方改革に取り組む上で、人材確保が必要になった事業主を支援する助成金です。

    申請時に提出した雇用管理改善計画に基づいて一定の要件を満たせば計画達成助成金、それを受けた上で別の要件を満たせば目標達成助成金が支給されます。

3、勤務間インターバル制度の導入方法

勤務間インターバル制度は、従業員間できちんと運用されるように、労働者の勤務実態に即したものでなければいけません。そのために、制度導入時に、一定の手順を踏むことが重要です。以下、具体的な方法を解説します。

  1. (1)現在の勤務実態を把握する

    まずは、従業員の勤務実態を把握するために、実労働時間や通勤時間、休息時間などの各時間数のほか、時間外労働や休日労働の発生要因などを調査します。その上で、就業規則や従業員のニーズと照らし合わせ、現在自社が抱えている課題を整理します。

  2. (2)制度の設計

    課題を整理したら、制度設計に移ります。労使間で話し合いながら検討しなければいけない主な事項は、次の3つです。

    ● 従業員の適用範囲に関する事項
    制度設計では、最初に、勤務間インターバル制度の対象となる従業員の範囲を決定します。従業員全員にするのが基本ですが、職階や雇用区分、所属部門などで区別することも可能です。ただし、その際は、なぜ区別するのか従業員に説明し、理解を得なければいけません。

    ● 休息時間に関する事項
    休息時間は、勤務実態の調査で明らかになった従業員の労働時間や通勤時間に、睡眠時間や生活時間などを加味しながら設定します。原則は、すべての従業員に対して一律です。ただし、「最低限確保してほしい時間は○時間、望ましいのは○時間」のように、複数の時間数を設けることもできます。

    ● イレギュラーに関する事項
    どんな制度でもそうですが、イレギュラーの発生はつきものです。

    たとえば、勤務間インターバル制度を導入したら、休息時間を確保するために翌日の始業時間に食い込むケースが必ず出てきます。また、クレームや設備トラブルへの対処などで、どうしても休息時間が確保できない事態が発生することもあります。

    制度設計では、こうしたイレギュラーが起きたときにどう対処するのか、事前に定めるのが大切です。

  3. (3)試運転して評価・検証をする

    円滑な制度運用のためには、一度、試運転するのがいいとされています。一部の従業員に取り組んでもらい、試運転の期間が終わったら意見を聞いてみましょう。このとき、従業員の上長や同僚などからの意見を集めると、より客観的な評価、検証ができます。

  4. (4)就業規則の変更

    試運転を通して制度設計の内容が確定したら、社内制度として確立させるために就業規則を変更します。変更は、労働基準法第90条に則り、労使間で話し合った上で実行しなければいけません。制度設計のときに話し合っていても必要なので注意しましょう。

    また、変更後は、会社の所在地を管轄する労働基準監督署(所轄労働基準監督)への届出が不可欠です。岡山の労働基準監督署は、岡山市、倉敷市、津山市、笠岡市、和気郡、新見市の6か所にあります。

  5. (5)従業員への周知

    就業規則の変更まで終えたら、イントラネットや社内報に掲載したり、説明会を開催したりして従業員へ周知します。制度を円滑に運用するには、従業員の不安を取り除き、協力してもらうことが不可欠だからです。このとき、制度の内容だけでなく、運用するための工夫や留意点もあわせて説明すると理解が得やすくなります。

    ところで、労働基準法第15条では、使用者は労働契約の締結時に労働条件を明示すること、労働契約法第4条では、労働条件や労働契約の内容について労働者の理解を深めるようにすることが定められています。そのため、勤務間インターバル制度も、制度導入時に説明をして終わりではなく、継続的に労働者に周知することが求められます。

  6. (6)導入したあとは?

    制度の運用が始まったら、折を見て、運用状況を確認します。アンケート調査やヒアリング調査で従業員の声を集め、休息時間は取れているのか、休息時間確保のための管理方法は現場に即しているのかを調査しましょう。

    もちろん、イレギュラーが発生しているときは原因を探ります。また、それが起きないようにするためにはどうしたらいいのか、運用方法を積極的に見直すことも大切です。

4、会社の労務管理や就業規則の変更は弁護士へ相談

勤務間インターバル制度は、労働者が納得のできる内容にすることがポイントです。そのためには、法律に基づいた客観的な説明ができるようにしなければいけません。

また、上述したように、制度を運用するためには就業規則の変更が必要です。このとき、内容に不備があると、あとになってトラブルが起きる可能性があるでしょう。

もしスムーズに導入したい、法的なリスクを避けたいと考えているのであれば、弁護士への相談をおすすめします。弁護士なら、労使間での話し合いを円滑に進めるためには、どんな準備をすればいいかアドバイスができます。万が一、トラブルが起きたときにも、会社が一方的に不利な立場に追い込まれないように、サポートすることが可能です。

5、まとめ

勤務間インターバル制度は、従業員のプライベートに大きく関わる制度です。労働者のモチベーションを落とさないようにするためにも、労使間での話し合いでは、労働者への思いやりを忘れないようにしましょう。

しかし、労働者の要望ばかりに応えてしまうと、結局うまく運用できないおそれもありますので、お悩みの場合はベリーベスト法律事務所 岡山オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています