「ブラック企業」と書き込まれたら名誉毀損に問えるか。弁護士が解説

2019年11月14日
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「ブラック企業」と書き込まれたら名誉毀損に問えるか。弁護士が解説

平成28年9月、岡山県警は、インターネットの掲示板へ同僚を誹謗中傷する書き込みをした男を、名誉毀損(きそん)容疑で逮捕したという報道がありました。

インターネット上で悪意ある書き込みをされてしまうと、個人であろうと、法人であろうと、そのダメージは非常に大きなものになりかねません。特に、人不足に頭を悩ませる企業が多い近年では、ブラック企業というレッテルを張られてしまえば、企業活動そのものに影響を及ぼす可能性すらあるでしょう。

本コラムでは、ブラック企業だという書き込みによって名誉毀損を受けた場合に取るべき対策などについて、岡山オフィスの弁護士が解説します。

1、そもそも名誉毀損罪って?どんなケースが該当する?

まずは、名誉毀損罪の内容を確認してみましょう。名誉毀損罪は刑法第230条第1項によって以下のように規定されています。

「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」

簡単にいえば、「名誉毀損をした場合は、その内容が虚偽であっても事実であっても罰する」ということです。さらに、名誉を毀損するとは「事実を公表して社会的評価をおとしめる行為」が該当することになるでしょう。

たとえば、「上司が不倫している」と名指しでインターネットに書き込みしたり、ビラを配ったりするケースは、たとえ事実であっても、事実でなくても、名誉毀損に該当する可能性があります。そのほかにも、「○○は横領している」、「○○は前科者だ」などを実名を挙げて行われた書き込み等も名誉毀損といえるでしょう。繰り返しになりますが、これらの書き込みが真実であっても名誉毀損罪が成立し得ます。

ただし、刑法では書き込み等に公共性等があると認められた場合は罰しないと規定しています。それが刑法第230条の2第1項の規定です。具体的には、書き込みが公共の利害に関する真実であり、なおかつ公共の利益のために書き込まれた場合は、名誉毀損として罰しないと定められています。

たとえば、政治家による犯罪事件があったとしましょう。刑法第230条の2第1項のとおり、事件に関する「事実」が、情報のひとつとして公開された場合は名誉毀損にはあたらないと考えられます。逆に、不正事件に関連するとして公開された情報が事実ではないときは、名誉毀損として罪に問える可能性があるといえます。

2、「ブラック企業書き込み」が名誉毀損に該当するケースとは

では、インターネットに企業が「ブラック企業」と書き込まれたケースでは、名誉毀損に該当するのでしょうか?

先述のとおり、書き込みが公共の利害に関する事実でありなおかつ公共の利益を図る目的があれば名誉毀損罪として罰せられません。つまり、名指しされた企業が本当にブラック企業であり、書き込み自体が他の求職者等に注意を喚起するものであれば、書き込みをした者が名誉毀損の罪を問われる可能性は低いと思われます。

しかし、以下の2条件に該当しないのに、「ブラック企業」だという悪評を流されてしまった場合は、名誉毀損として罪に問われる可能性があるでしょう。

•実際にブラック企業であること
•書き込みが公共の利益のためになされていること

したがって、まず、企業側が確認すべき事項は「ブラック企業と判断される要素があるかどうか」です。ブラック企業は法律で明確に定義されているものではありません。しかし、一般的には労働基準法等に違反して労働者を働かせている企業がブラック企業であると認識されています。

つまり、違法な長時間残業を強いていること、給与や残業代の未払いがあること、サービス残業を強制していること、などの事実がある場合は、ブラック企業であるとの書き込みは名誉毀損として罰せられない可能性があるということです。当然、労働基準法等に違反した働き方をさせていないのであれば、ブラック企業とは言えないため、書き込みは名誉毀損罪として罰せられる可能性があるでしょう。

次に、書き込みが公共の利益のためになされているかを確認します。特定の企業を「ブラック企業」だと名指しする書き込みを行う場合の公共の利益とは、今後その企業で働こうと考えている求職者や取引先に注意喚起することが考えられます。具体的には、残業代の未払い等の不利益を被らないようにする行為ともいえるかもしれません。

書き込みに詳細な勤務時間や、給与の支払い実績などが記載されていてそれが事実であり、その上で「ブラック企業」と記載していれば、名誉毀損として罰せられない可能性があるでしょう。しかし、逆になんの根拠もなくただ「ブラック企業」と記載してあるだけでは、公共の利益のための書き込みとは言えず、名誉毀損として罰せられる可能性があります。

3、ネットで名誉毀損を受けた場合の対処法

次に、インターネットで名誉毀損を受けた場合の具体的な対処法について解説します。名誉毀損は、刑法で定められている犯罪行為であると同時に、民事上での損害賠償請求も可能になります。インターネットで名誉毀損を受けた場合は、刑事と民事の両方で動かなければなりません。また風評被害等の拡大を防ぐため削除を求めるなどの対策も必要です。

  1. (1)証拠を確保する

    名誉毀損は、刑事告訴と損害賠償請求が可能です。まずは、当該書き込みを早急に保存してください。本人等が削除してしまうと証拠が消えてしまいます。見つけたらなるべく早くスクリーンショット等で保存しておきましょう。

  2. (2)書き込み媒体に削除を依頼する

    インターネットの書き込みは拡散が早く、放置しておくと風評被害などの二次被害が発生してしまいます。証拠を確保したらなるべく早い段階で削除依頼を行いましょう。削除依頼の方法は以下の3種類です。

    • 掲載媒体の専用フォームから行う
    • ガイドラインに沿って削除依頼を行う
    • 法的手続きによる削除依頼を行う

    どの削除方法も個人で行うことが可能です。ただし、素早く削除を求めるためには、弁護士などの専門家への依頼が得策であると考えます。

    書き込みの削除において、もっともレスポンスが早い方法は「掲載媒体の専用フォーム」による削除依頼です。削除依頼が正当であれば短期間で、当該書き込みを削除して正常な状態に戻すことが可能な場合もあります。ただし、書き込みの媒体にもよりますが、企業名や担当者名での削除依頼には、応じてもらいにくい傾向にあります。場合によってはさらなる拡散をされてしまう可能性もあるでしょう。その点、弁護士であれば、速やかに削除に応じる可能性が高くなり、より迅速な事態の収束が望めます。

    また、フォームによる削除依頼が認められなかった場合でも、弁護士であればガイドラインや法的手続きによる削除依頼にも速やかに着手できるため、企業自身の場合よりもスムーズに手続き可能です。

    インターネットの名誉毀損の書き込み対策は、「速やかに削除すること」が先決となりますので、大きな問題になる前に弁護士に相談の上削除を依頼することを強くおすすめします。

  3. (3)書き込んだ者を特定する

    削除依頼とともに行わなければならないのが、書き込みをした者の特定です。インターネットの書き込みによる名誉毀損は、刑事告訴や損害賠償請求が可能ですが、個人が特定できていなければ、どちらも不可能です。具体的な特定方法については次の項目で詳しく解説します。

  4. (4)損害賠償請求と刑事告訴を行う

    書き込みをした者が特定できたら、民事上の損害賠償請求と刑事告訴を目指します。損害賠償請求とは、書き込みによる損害や慰謝料を請求するものです。任意の交渉で支払わなければ損害賠償請求訴訟を提起することになります。

    また、刑事上でも罰したいと考えるのであれば、刑事告訴を検討します。名誉毀損罪は、「親告罪」です。被害者が告訴をしていなければ、起訴できないということです。したがって、確実に警察に動いてもらうためには、告訴する必要があります。

    ただし、告訴のためには名誉毀損罪の証拠や相手の個人情報が必要不可欠です。損害賠償請求も刑事告訴も企業自身で行うことは難しいため、弁護士に相談するとよいでしょう。

4、名誉毀損の書き込みをした者を特定する方法

刑事告訴、損害賠償請求のためには書き込みをした者を特定しなければなりません。インターネットの書き込みは、本人を特定することが難しいため「発信者情報開示請求」という手続きを経て、書き込みをした者を特定します。

発信者情報開示請求とは、プロバイダに対して、書き込んだ者の住所や氏名、電話番号等の開示を求める手続きです。この手続きは、裁判等の法的手続きをとらなくても、発信者を開示すべき正当な理由があれば、請求することができますが、あくまでも任意の要請なので協力に応じないケースがほとんどであり、訴訟等で開示請求を行わなければなりません。

5、まとめ

インターネット上に「ブラック企業」などと名誉毀損の書き込みがなされた場合、被害の拡大を防ぐべく削除依頼等の対策をとらなければなりません。名誉毀損に該当する書き込みであれば、損害賠償請求や刑事告訴も視野に入れる必要があります。

ただし、名誉毀損に該当するかどうかはケース・バイ・ケースになります。判断に迷った場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。また名誉毀損に該当する場合は、早急に対処しなければ被害が拡大してしまう可能性が考えられます。弁護士に対応を依頼しましょう。

ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスでは企業の名誉毀損対策を行っております。まずはお気軽にご連絡ください。状況を把握した上で、最適な対策をアドバイスします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています