残業代請求するにはどうすればいい!?
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働き方改革が叫ばれる今日において、労働者の労働問題が注目を集めています。なかでも、残業問題については様々な問題が提起されています。
今回は、そんな残業問題から、“残業代請求”についてご説明いたします。「時は金なり。」という言葉がありますが、労働者が時間を犠牲にして労働を行っている以上、残業代の請求は労働者の当然の権利です。サービス残業の名のもとでブラック企業から残業代を支払ってもらえず、悔しい思いをしている労働者に向けて、残業代請求の大枠についてご説明いたします。
1、そもそも残業代とは?
残業代とは、所定労働時間や法定労働時間を超える労働に対する賃金のことをいいます。ここで、“所定労働時間”と“法定労働時間”という言葉が出てきましたので、意味を確認しておきます。
所定労働時間とは、会社との契約で定められている労働時間をいい、法定労働時間とは、法律で定められている上限の労働時間をいいます。所定労働時間は、会社が就業規則等で定めている始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間になります。例えば、始業時刻が9時、終業時刻が17時、休憩時間が1時間の会社の場合は、所定労働時間は7時間ということになります。
法定労働時間は、原則として1週間が40時間(業種によっては週44時間)以内で、かつ、1日が8時間以内と定められています。
したがって、残業代は、会社との契約で定められている労働時間を超えて労働した場合や、週40時間または1日8時間を超えて労働した場合に支払われることになります。そして、週40時間または1日8時間を超えて労働した場合には、法律で通常の賃金よりも割増で支払われる決まりになっています。
会社に賃金の割増を課すことによって、過度の残業を抑制しようとしているのですね(そもそも、会社は労働者に法定労働時間を超えて労働させる場合には、36(サブロク)協定という届出を労働基準監督署に提出しなければなりません。これが提出されていない場合には、労働基準法違反ということになります。)。
ちなみに、所定労働時間を超えているけれど、法定労働時間を超えていない残業代については、法律上は割増にする必要はありません。もっとも、会社が、割増することを契約で定めている場合には、当然割増して支払ってもらえることになります。
残業代の大枠がつかめたところで、続いては具体的な計算方法について見ていくことにしましょう。
2、残業代の計算方法
①基礎時給×②時間外労働時間×③割増率
残業代は、このように計算されます。順番に見ていきましょう。
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(1)①基礎時給
1か月の給与÷1か月の平均所定労働時間数
基礎時給とは、残業代を計算するときの基礎となる賃金のことをいいます。そして、基礎時給は、上の計算式によって求められます。給与は、月給制、日給制、時給制など様々な形態によって支払われることがありますが、残業時間は時間単位で算出することになりますので、どんな給与形態でもひとまず時給を求めることになります。例えば、一般的なサラリーマンの方に多い月給制の場合には、基礎時給は、[1か月の給与]÷[1か月の平均所定労働時間数]で求めることになります。ここで、1か月の平均の所定労働時間数を求める必要があるのは、会社の休日日数が、正月休み、お盆休み、祝日など、月によって異なることが理由です。
それでは、1か月の給与は、どのようにして求めるのでしょうか。 一般的によくある月給制の場合は、基本給のほか、様々な手当が支払われていることが多いと思います。ですが、このうち“1か月分の給与”に含めてはならない手当があります。それは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当などの手当です。これらの手当は、あくまでも個人的な事情に基づいて支給されているものですので、労働者の労働そのものに対する対価ではありません。ですので、基礎となる賃金には含まれないとされています。
また、会社から支払われている固定残業代も“1か月分の給与”に含めてはいけません。固定残業代は、あくまでも時間外労働に対する対価として支払われていますので、これを残業代計算の際の基礎となる賃金に含めるのはおかしいということですね。
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(2)②時間外労働時間
時間外労働時間とは、所定労働時間や法定労働時間を超えた労働時間をいいます。例えば、分かりやすく1日の例で考えてみると、始業時刻が9時、終業時刻が17時、休憩1時間の会社で、3時間の残業をした場合、所定労働時間を超える時間外労働時間数は3時間、法定労働時間を超える時間外労働時間数は、2時間となります。これは1日の例でしたが、法律では週40時間以内という定めもあるので、これを超える労働も法定労働時間を超える時間外労働ということになります。
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(3)③割増率
法定労働時間を超えて労働した場合の賃金は、通常の賃金から25%上乗せして支払われることになります。所定労働時間を超えて労働した場合の賃金は、会社との契約で定められている割増率に従うことになります。通常は、特に何も定められていないと思いますので、その場合は割増率は0ということになります。
ほかにも、深夜労働と休日労働に対する賃金には割増率が定められています。
深夜労働は、午後10時から午前5時までの間における労働をいい、その間の賃金は25%割増されます。ですので、法定労働時間を超えて、かつ、深夜労働ということになれば、法定時間外労働の25%と深夜労働の25%が割増されることになり、合計50%割増されます。また、休日労働というのは、法律上の休日に労働することをいいます。法律では、週1回又は月4回以上の休日を取得することが定められていますので、これを超えて労働した場合には休日労働ということになり、その日の賃金は、35%の割増となります。
3、どんなものが証拠になる?
残業代の請求において重要なことは、実労働時間を証明することです。実労働時間というのは、労働者が会社の指揮命令下で実際に労働した時間のことをいいます。つまり、実際に何時から何時まで働き、このうち休憩をどれぐらい取っていたか、ということを労働者が証明する必要があります。
そして、この証明は、できる限り客観証拠、つまり、“人の供述”などではなく、“物”によって行うことが望ましいです。人よりも物の方が信用性があると考えられるためです。
具体例を挙げると、タイムカード、給与明細書、日報、シフト表、パソコンのログイン・ログアウト時間の履歴、入退館の記録、電子メールの送信記録、通勤の際のICカードの記録、タコグラフの記録などが証拠になります。もちろん、この中でも客観性の度合いは異なりますので、当然証拠としての信用性も異なってきます。
上に挙げた物以外でも、会社で労働していたことを証明できるような物は何でも証拠になり得ますので、そのような物は大切に保管しておく必要があります。もっとも、このような物は、通常会社の側が保管していることが多いため、残業代請求を行おう考えている労働者は、これらの証拠を意識的に取得しておく必要があります。
4、残業代に時効はある?
残業代請求権の消滅時効は“2年”と法律で定められています。これは、給与の支給日から2年ということです。ですので、給与支給日から2年が経過してしまった分の残業代については、基本的には請求することができなくなってしまいます。
もっとも、“時効の中断”といって、2年を経過する前であれば、裁判上の請求などにより残業代を請求する意思を会社に対して示すことによって、時効期間のカウントをいったん振り出しに戻すことができます。例えば、1年11か月が経過していても、裁判上の請求を行うと再びゼロからカウントされることになります。また、すぐに裁判上の請求ができない場合でも、ひとまず会社に対して残業代を請求する意思を示して、それから6か月以内に裁判上の請求を行えば、時効を中断させるということもできます。このときの、会社に対する請求の意思表示は、内容証明郵便によって行うことが一般的です。会社に対する請求の意思を証拠に残すためにこのような手段を使います。
5、残業代を請求する方法
残業代を請求する方法には、大きく分けて3つの方法があります。①交渉②労働審判の申立て③訴訟提起の3つです。このうち、②と③は裁判上の手続になります。順番に見ていきましょう。
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(1)①交渉
一般的には、会社に対して残業代の請求額とその計算の根拠となる資料を送付して交渉を行います。会社側と労働者側にどちらも弁護士が就く場合には、双方の言い分を主張したうえで、妥当な額で交渉が成立することもあります。
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(2)②労働審判、③訴訟
②労働審判と③訴訟は、どちらも裁判所での手続という点は共通していますが、様々な違いもあります。ひとことで言うと、②労働審判は、“スピード重視のざっくり手続”。③訴訟は、“証拠重視のかっちり手続”ということになります。
②労働審判は、とにかくスピード重視です。期日は最大3回までと決まっていて、事件があまりに複雑ですと労働審判では処理できないという理由で終了させられることもあります。手続の内容は、基本的には会社側と労働者側の話し合いがベースになります。裁判官1名と労働審判員2名が、会社側と労働者側の言い分をそれぞれから聞き、妥当な結論を探っていきます。ですので、労働審判では、会社の側と労働者の側が和解をして終わることも多いです。
もっとも、和解ができなければ、最終的には裁判官が審判という形で、何らかの結論を出すことになります。この審判に不服がある場合には、異議を出すことができ、その場合には、後述する訴訟手続に移行することになります。ちなみに、労働審判員は、使用者側の出身の人と労働者側の出身の人が1名ずついます。法律の専門家という訳ではなく、一般の方です。また、労働審判が行われる場所は、裁判所の1室のラウンドテーブルが一般的で、まさに話し合いベースという感になります。
③訴訟は、テレビなどから一般的にイメージされる法廷での裁判のことです。労働者の側は、給与額や実労働時間など、残業代請求の根拠となる事実について、全て証拠により証明していくことになります。ですので、労働審判よりも時間がかかってしまうのが一般的です。
また、証拠が乏しい場合には、最終的に請求額に全く満たない額の判決が出てしまうリスクもあります。訴訟を提起する場合には、その辺のリスクも検討する必要があります。訴訟は、労働審判に比べると、専門的な話になってきますので、弁護士に依頼して行うことが一般的です。
6、支払われた場合の税金は?
残業代が支払われた場合、それに対して税金はかかるでしょうか。
残業代は、給与所得にあたります。支払われた残業代は、本来支払われるべきだったはずの年の給与所得となり源泉徴収されることになりますので、年末調整をやり直す必要が生じます。
また、残業代を、“解決金”という名目で支払われて和解が成立する場合もありますが、この場合でも実質的には残業代の支払であると一般的には考えられますので、同様に源泉徴収される可能性があります。
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