残業代の付加金とは? 未払残業代を請求するときに知っておきたいポイント
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厚生労働省岡山労働局が公表している全産業年間労働時間の推移によると、令和元年度における岡山県内の労働者の所定内労働時間は、1621時間で、総実労働時間は、1771時間でした。全国の所定内労働時間、総労働時間と比較するといずれも岡山県の数値が上回っていますので、全国の労働者と比較しても労働時間が多いことがわかります。
時間外労働、深夜労働、休日労働をした場合には、労働者は、会社に対して通常の賃金とは別に割増賃金という形で残業代の支払いを請求することができます。そして、労働者が裁判手続きで割増賃金を請求する場合には、裁判所が“付加金”という制裁金の支払いを会社に命じることができます。付加金の支払いが認められた場合には、労働者としては、本来の割増賃金に上乗せしてお金をもらうことができるため、付加金がどのような場合に認められるのかが気になるところです。
今回は、割増賃金請求における付加金と未払い残業代を請求するときのポイントについてベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、未払残業代の付加金とは
未払残業代の付加金とはどのような制度なのでしょうか。以下では、付加金制度の基礎知識について説明します。
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(1)付加金とは
付加金とは、使用者に割増賃金の支払義務違反がある場合に、裁判所が制裁として支払いを命じる金銭のことをいいます。
労働者が法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働をした場合には、使用者にはいわゆる残業代として、所定の割増率によって計算した割増賃金の支払義務があります(労働基準法37条)。使用者がこの割増賃金の支払義務に違反した場合には、裁判所は、労働者の請求によって、使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほかに、これと同一額の付加金の支払いを命じることができるとされています(労働基準法114条)。
このような付加金制度は、使用者に対して一定の経済的な不利益を課すことによって、割増賃金の支払いを促すとともに、労働者に生じた不利益を補填することを目的としたものです。 -
(2)付加金を請求するには訴訟提起が必要
労働基準法では、付加金の支払いを命じる主体は、「裁判所」であると規定されているため、訴訟提起前の会社との交渉では、付加金の支払いを請求することはできません。また、労働審判委員会が行う労働審判や訴訟提起後の裁判上の和解についても付加金の支払いは認められません。
あくまでも、裁判所が判決によって命じる場合に限り付加金が認められることになります。 -
(3)付加金の支払いは必ず命じられるものではない
付加金の支払義務は、裁判所の裁判によって発生するものであり、実際の運用では、使用者による労働基準法違反の態様、労働者の受けた不利益の程度などの諸般の事情を考慮して付加金の支払義務の存否および金額が決められています。
したがって、使用者に割増賃金の支払義務違反があったからといって、すべてのケースで付加金の支払いが命じられるわけではありません。
2、企業側が付加金を支払わないことはありえるのか
第1審の裁判所の判決によって、企業側に付加金の支払いが命じられた場合に、企業側が付加金を支払わないことはありえるのでしょうか。
結論から言うと、企業側が付加金を支払わないことも可能です。企業側が、第1審の判決に不服がある場合には、控訴をすることができます。控訴がされた場合には、第1審の判決内容は未確定な状態となり、仮執行宣言が付されている判決を除いて効力を失うことになります。
また、控訴審でも割増賃金の支払いや付加金の支払いが命じられることが濃厚だと判断した場合には、会社は、未払いとなっていた割増賃金相当額を労働者に対して支払うことによって、付加金の支払義務を免れることが可能です。
控訴審において裁判所が付加金の支払いを命じるためには、控訴審の口頭弁論終結時点において、使用者に割増賃金の支払義務違反が存在することが必要となります。しかし、控訴審の口頭弁論終結前に使用者から未払いの割増賃金に相当する金額が支払われた場合には、すでに使用者の義務違反の状態は解消されているため、裁判所は、制裁としての制裁金を命じることができなくなるからです。
付加金の支払いを免れたいと考える企業としては、控訴することによって簡単に付加金の支払を回避することができるのが、付加金の支払いが限定的だといわれる要因のひとつです。
3、未払い残業代を請求する流れ
それでは、そもそも未払い残業代を請求する場合、一般的どのような流れで進んでいくのか、確認していきましょう。
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(1)未払い残業代の計算
残業代を請求する前提として、未払いとなっている残業代の金額を計算しなければなりません。計算にあたっては、就業規則、賃金規定、タイムカード、労働契約書などの証拠が必要になってきますので、事前に確保するようにしましょう。
会社が証拠となる書類を提出してくれないという場合には、弁護士に依頼をして交渉する、証拠保全の手続きを利用する、ということも有効な手段となります。 -
(2)会社との交渉
未払いの残業代の計算ができた段階で会社に対して未払い残業代の請求を行います。いきなり労働審判や訴訟提起をすることも可能ですが、交渉によって未払いの残業代が支払われれば、早期の解決が可能になりますので、まずは、会社との交渉を試みます。
ただ、未払いの残業代については、時効の問題がありますので、口頭ではなく内容証明郵便で請求することによって時効の更新をするようにしましょう。未払い残業代の時効については、民法改正に伴い、労働基準法が改正されましたので、令和2年4月1日以降に支払われる賃金については、3年間で時効になります。
会社との交渉によって、未払い残業代の支払いについて合意ができた場合には、その内容を合意書などの書面にまとめておくとよいでしょう。 -
(3)労働審判
労働審判とは、労働者と使用者間の労働問題について、裁判官1名と労働審判員2名で組織される労働審判委員会が審理し、原則として3回以内の期日で解決することを目指す紛争解決手続きです。話し合いによる解決を行いますので、事案に即した柔軟な解決が可能であるという特徴や、訴訟と比較して迅速な解決が期待できるという特徴があります。
会社との交渉によって解決することができなければ、訴訟提起前に労働審判を利用してみるとよいでしょう。
なお、労働審判に対して適法な意義の申し立てがなされた場合や労働審判委員会が事案の性質に照らして労働審判事件を終了させた場合には、労働審判手続申立てのときに訴えの提起があったものと擬制されます。労働審判では、付加金の支払いは認められませんが、付加金の請求にも3年という期間制限がありますので、労働審判手続きの申立書において付加金を請求しておき、3年間の除斥期間の経過を防止するとよいでしょう。 -
(4)訴訟
会社との交渉や労働審判によっても未払い残業代の問題が解決しない場合には、最終的には訴訟を提起して解決を図ることになります。
訴訟は、交渉や労働審判のように話し合いの手続きではありませんので、労働者の側で証拠に基づき未払いの残業代の存在と金額を主張立証していかなければなりません。適切に主張立証を行うことができなければ、時間外労働をしていたとしても、裁判所に認めてもらうことはできません。そのため、訴訟手続きに関しては、専門家である弁護士に任せて進めるのが安心でしょう。
訴訟を提起することによって、裁判所に付加金の支払いを命じてもらえる可能性があることが訴訟提起のメリットといえます。
4、未払い残業代がある場合は弁護士へ相談
未払いの残業代がある場合には、まずは弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)複雑な残業代計算も正確にできる
残業代を計算するにあたっては、労働基準法などの関係法令の正確な理解と知識が不可欠になります。また、残業代を請求するためには、その前提として計算の基礎となる資料の収集が不可欠となります。
弁護士であれば、複雑な残業代計算であっても正確に行うことができますので、残業代を計算する際の労力を軽減することができるでしょう。残業代請求に必要な証拠に関しても証拠保全などの適切な手続きを行うことによって、会社側に隠匿または処分される前に収集することが可能になります。 -
(2)会社との交渉や訴訟手続を一任できる
残業代を請求するためには、会社と直接交渉を行わなければなりません。労働者は、会社と比べると交渉力や立場が劣っていますので、労働者個人から未払いの残業代を請求されたとしても会社側がまともに取り合ってくれないこともあります。
しかし、弁護士に依頼をすることによって弁護士が労働者の代理人として会社と交渉をすることが可能になります。弁護士から証拠に基づき説得的な内容で交渉をすることによって、会社側が支払いに応じてくれる可能性が高まります。仮に、交渉で応じてくれなかったとしても、労働審判や訴訟手続まで行ってくれますので、解決するまで安心して任せることができるといえます。
5、まとめ
未払残業代を訴訟手続で請求する際には、併せて付加金請求をすることによって、労働者側には大きなメリットが生じることになります。会社側に対して、未払いの残業代の支払いを履行する動機付けにもなりますので、忘れずに請求するようにしましょう。
残業代請求などの労働問題は、労働問題に詳しい弁護士に依頼することが重要です。労働問題でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスまでお気軽にご相談ください。
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