残業45時間以上は年6回まで! 例外ケースや違法になるパターン
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岡山県が公表している労働時間に関する統計資料によると、令和6年2月の総実労働時間は142.0時間でした。そのうち所定内労働時間は124.5時間、所定外労働時間は10.1時間でした。
毎月残業をしている労働者の中には、「残業が続いているが法的に問題がないのだろうか」といった疑問を抱く方もいるかもしれません。長時間の残業は、肉体的・精神的疲労によってさまざまな悪影響を及ぼすおそれがあることから、法律によって、残業時間に関する規制が行われています。
なお令和6年4月より、一部の事業・業種について、時間外労働の上限規制の適用が始まっております。
本コラムでお伝えすることは、以下の3つです。
・36協定など、残業時間に関する法規制
・36協定の適用が猶予されている事業、業務
・残業時間が多すぎる場合の問題点
長時間労働で悩まれている方や、残業時間の上限規制について知りたい方に向けて、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、36協定の残業規制
使用者は労働者の労働時間について、いわゆる「36協定」を締結し、届出をすることによって、残業を命じることができます。36協定では時間外労働についてどのような上限が定められているのでしょう。以下では、労働時間の原則と36協定による残業規制について説明します。
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(1)労働時間の原則
労働基準法では、1日8時間、1週40時間という法定労働時間を定めています(労働基準法32条)。使用者は、法定労働時間を超えて労働者を働かせることは原則としてできません。
このような法定労働時間の原則に違反した場合には、使用者は、6か月以下の懲役か30万円以下の罰金が科されます(労働基準法119条1号)。 -
(2)36協定の締結・届出による例外
使用者は労働基準法36条の労使協定、いわゆる「36協定」を締結して、所轄の労働基準監督署長に届出をすることによって、例外的に法定労働時間を超えて労働者を働かせることが可能となります。ただし、36協定を締結・届出すれば上限なく時間外労働を行わせることができるというわけではなく、一定の制限が存在します。
36協定で定める時間外労働については、法律上、月45時間、年360時間以内にしなければなりません(労働基準法36条4項)。
以前は、厚生労働大臣の告示によって同様の時間外労働の規制が行われていましたが、罰則を伴わない規制であったことから、労働基準法の改正によって、罰則付きの時間外労働規制となりました。
このような時間外労働規制に違反した場合には、使用者は、労働基準法119条1号より6か月以下の懲役か30万円以下の罰金が科されます。
2、月45時間以上の残業は年6回。制限を超えることはありえる?
36協定の締結・届出による残業規制には、さらに例外があります。
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(1)特別な事情による残業時間の例外
36協定の締結・届出によって行う時間外労働は、労働基準法が定める法定労働時間の例外となりますが、36協定の締結・届出による時間外労働規制については、労働基準法36条5項よりさらに例外が存在しています。具体的には、臨時的な特別の事情がある場合は、36協定において特別条項を定めることにより、月45時間、年360時間という時間外労働の上限規制を超えて労働者を働かせることができます。
これまでは、特別条項を定めることにより、36協定の上限規制を超えて、労働者に残業を命じることが可能となっていました。しかし、長時間労働による過労死が深刻な社会問題となっていることを受けて、特別条項を定めていたとしても超えることができない残業時間の規制を法律で設けることになりました。
なお、特別な事情により残業をする場合の時間外労働の上限規制としては、以下の内容になります。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働との合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均がすべて1月あたり80時間以内
- 時間外労働が45時間を超えることが可能な月数は年6か月が限度
上記の時間外労働の規制に違反して労働者を働かせた場合には、使用者は6か月以下の懲役か30万円以下の罰金が科されます。
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(2)特別な事情とは?
36協定による残業時間の上限規制(月45時間、年360時間)を超えて時間外労働を行わせることができるのは、通常予見することができない業務量の大幅な増加など臨時的な特別の事情がある場合に限られます。
このような事情がある場合としては、具体的には、以下のような場合です。
- 予算、決算業務
- ボーナス商戦に伴う業務の繁忙
- 納期のひっ迫
- 大規模なクレームへの対応
- 機械のトラブルへの対応
なお、特別な事情については、できる限り具体的に定めなければならないとされていますので、「業務上やむを得ない場合」、「業務の都合上必要な場合」など臨時的なものでない、恒常的な長時間労働を招くおそれのあるものについては認められません。
3、適用が猶予されている事業・業務
時間外労働については、上記のような上限規制がありますが、特定の事業や業務については、上限規制の適用が猶予または除外されることがあります。
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(1)上限規制の適用猶予
以下の事業や業務については、残業時間の上限規制の適用が5年間猶予されます。
① 建設事業
建設事業は、令和6年3月31日まで、残業時間の上限規制の適用が猶予されます。令和6年4月1日以降は、災害の復旧および復興の事業を除いて、通常と同様に残業時間の上限規制がすべて適用されます。
なお、災害の復旧および復興事業については、以下の規制は適用除外となっています。
- 時間外労働と休日労働との合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均がすべて1月あたり80時間以内
② 自動車運転の業務
自動車運転の業務は、令和6年3月31日まで、残業時間の上限規制の適用が猶予されます。令和6年4月1日以降は、残業時間の上限規制が適用されますが、特別条項付き36協定を締結する場合は、年間960時間が残業時間の上限となります。
なお、以下の上限規制は適用除外となっています。
- 時間外労働と休日労働との合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働との合計について、2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均がすべて1月あたり80時間以内
- 時間外労働が45時間を超えることが可能なのは年6回が限度
③ 医師
医師は、令和6年3月31日まで、残業時間の上限規制の適用が猶予されます。令和6年4月1日以降の具体的な取り扱いについては、今後、省令で定めることとされています。
④ 鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業
鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業では、令和6年3月31日まで以下の残業時間の上限規制の適用が猶予されます。
- 時間外労働と休日労働との合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均がすべて1月あたり80時間以内
しかし、令和6年4月1日以降は、通常と同様に残業時間の上限規制がすべて適用されます。
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(2)上限規制の適用除外
新技術・新商品等の研究開発業務は、残業時間の上限規制の適用が除外されています。ただし、労働安全衛生法の改正により、新技術・新商品等の研究開発業務については、1週間あたり40時間を超えて働いた時間が月100時間を超えた場合には、医師の面接指導などが罰則付きで義務付けられています。
4、残業時間が多すぎる…違法ではないの?
残業時間が多すぎるという場合には、どのような問題点があるのでしょうか。
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(1)上限規制に違反した場合には罰則の適用がある
残業時間の上限規制に違反して労働者を働かせた場合には、労働基準法違反となり、使用者に対しては、6か月以下の懲役か30万円以下の罰金が科されます。
長時間の残業を命じられているという場合には、労働基準法に違反する状態である可能性がありますので、職場環境の改善を行うためにも労働基準監督署などに相談をしてみるとよいでしょう。 -
(2)長時間労働は過労死のリスクがある
過労死とは、過労死等防止対策推進法2条によって、以下のように定義されています。
- 業務における過重な負荷による脳血管・心臓疾患を原因とする死亡
- 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
- 脳血管疾患、心臓疾患、精神障害
また、厚生労働省では、病気や死亡に至るリスクが高まる残業時間、いわゆる「過労死ライン」を定めています。一般的に、残業時間が以下のような状態になっている状態で疾病が生じた場合には、当該疾病と業務との関連性は強いものとして評価されることになります。
- 発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働があった
- 発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働があった
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(3)適正な残業代をもらえていない可能性がある
労働時間が長時間になればなるほど残業代計算は、複雑になってきますので、そのような会社で働く労働者に対しては、適正な残業代が支払われていない可能性があります。また、高額な残業代の支払いを回避するために、会社がサービス残業を命じている場合もありますが、サービス残業に対しても残業代の支払いは必要となります。
このように、長時間の残業を強いられている場合には、適正な残業代が支払われていない可能性がありますので、早めに弁護士に相談をすることが大切です。
5、まとめ
残業時間に関しては、法律上上限が定められており、それを超えて働かせることは原則として違法となります。長時間労働は、過労死などのリスクが高まりますので、重篤な疾患が生じる前に改善を図ることが大切です。
長時間の残業でお悩みの方や会社に対して残業代請求をご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています