不動産を共有名義にするとどんな不都合がある? よくあるトラブルや対処法について
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相続の場合、不動産については、他の人に売却する予定がなければ、相続登記せずそのまま放置することが許されてきました。しかし、空き家問題や不動産の有効利用の観点から2020年以降、不動産登記の義務化が検討されています。
不動産登記が義務化されると、相続があった場合に登記名義を変更しなければならなくなります。もし、親の不動産を3人の子が相続する場合、取りあえず不動産を3分の1ずつの共有名義にするということもあると思います。しかし、共有名義にしてしまって後で問題になることはないのでしょうか。
そこで、今回は、共有名義にすることのメリットとデメリット、共有名義に関する問題が発生した場合の対処法などについてベリーベスト法律事務所・岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、共有とは
共有とは、ひとつの物を複数人が共同所有することをいいます。ひとつの土地を夫婦あるいは兄弟の名義にするなどが典型例です。共有には、法律的に「狭義の共有」の他に「総有」と「合有」という概念があるのですが、不動産の共有は、「狭義の共有」になりますので、単に「共有」という場合「狭義の共有」を前提に以下、説明していきます。
所有権は、絶対的な権利なので、単独の所有者は、目的物について自由に使用・収益・処分をすることができます。しかし共有物の場合、行為態様によって一定の制限があります。
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(1)共有物の変更
共有物を変更する場合には、共有者全員の同意が必要になります。変更の具体例としては、畑を宅地に変更するといった行為です。また、共有物を売却する行為についても共有者全員の同意が必要です。一部の共有者が勝手に不動産を処分できるとすれば、他の共有者の権利が害されるからです。ただ、共有者が自分の持分を処分するだけなら他の共有者の同意は必要ありません。
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(2)共有物の管理
共有物を管理するには、持分の過半数の同意が必要です。「頭数」ではなく、あくまでも「持分」なので、ひとりの持分が過半数を超えているような場合には、その過半数を持つ共有者が単独で管理行為はすることができます。管理の具体例としては、共有不動産の賃貸借契約を解除する場合などが挙げられます。変更や処分ほど不利益はありませんが、保存行為よりは不利益を被るおそれがあるので、過半数の同意が必要となっています。
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(3)共有物の保存
共有物に関する保存行為は、各共有者が単独で行うことができます。保存行為は、共有物の修理行為や侵害者に対してそれを排除する行為などがあります。他の共有者の利益にはなっても不利益となることはないから、他の共有者の同意を不要とし、単独でできることにしています。
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(4)共有物の使用
各共有者には持分がありますが、使用に関しては共有物の全部について使用することができます。共有者間の協議で、具体的な使用、収益の方法を定めることになります。
2、共有名義のよくあるトラブル
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(1)権利関係が複雑になる
元々共有名義の不動産を複数人が相続したような場合、共有者の数が増え、権利関係が複雑になるという問題があります。共有者が遠い親戚であるなど面識がないこともあり、共有者間で連絡が取れないといったトラブルになることがあります。
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(2)誰が管理するかでもめる
土地の場合には雑草が生えますし、建物の場合には空気の入れ替えや掃除をしないと建物が傷んでしまします。その管理を誰がやるかでもめることがあります。金銭で解決できる場合はよいのですが、そうでない場合、誰もやりたくないので責任のなすり付け合いに発展することがあります。
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(3)収入の取り分でもめる
アパートなどの収益物件が共有の場合、収益の取り分でもめることがあります。共有者のひとりが不動産を管理していて、その管理人が家賃を受け取っているような場合、自分が管理しているのだからと他の共有者に家賃を分配しないということがあります。
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(4)処分ができない
共有不動産を処分する場合、共有者全員の同意が必要になります。そのため、誰かひとりでも反対すると不動産は処分できず、固定資産税の負担だけが永遠にかかってしまうということがあります。
3、共有名義のメリット・デメリット
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(1)メリット
①公平感が強い
対象物を購入した場合には、拠出した金額に応じて共有持分が設定され、相続の場合には法定相続分で持分が決められるなど、公平に分配することができます。複数の利害関係者がいる場合、誰の名義にするかなどでトラブルに発展しやすいのですが、共有名義にする場合、全員の名義になるため公平感が強くもめることはないというメリットがあります。
②住宅ローン控除
住宅ローン控除は、個人が住宅ローンを利用して、マイホームの新築、取得又は増改築などをし、自己の居住の用に供した場合で一定の要件を満たすときにおいて、住宅ローンの年末残高の1%分を、所得税額から控除できるというものです。
住宅ローン控除は、名義人単位で実行可能なので、たとえば、夫婦共働きで双方とも収入があるような場合、不動産名義を夫婦共有とし、住宅ローンも2つに分けることで、住宅ローン控除をダブルで受けることができます。なお、兄弟姉妹の共有名義でも住宅ローン控除を受けることは可能ですが、居住が要件になっているので、同居するのでなければ、このメリットは享受できません。 -
(2)デメリット
①自由に処分できない
共有物の場合、処分をするためには、共有者全員の同意が必要であるため、ひとりでも反対されると処分できません。共有者同士が、仲がよければ問題はありませんが、仲が悪い場合、何を提案しても反対される可能性があり、事実上処分はできない財産となってしまう可能性があります。
②共有者に相続が発生すると権利関係が複雑になる
共有者が死亡した場合、その共有者の持分は相続の対象になります。相続人が複数いるような場合、共有者の数が多くなり権利関係が複雑になるということがあります。たとえば、仲の良い兄弟同士の共有であれば問題なかったものが、そのひとりが亡くなり、おいやめいが相続した場合、共有者間の意見が合わなくなり、不動産の変更や処分ができなくなるというリスクがあります。
4、共有名義に関する対処方法について
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(1)共有名義を避けるための方策
共有物には、以上のようなデメリットもあるため、共有名義にしないで済むなら共有名義にしない方が良いと言えます。そこで、共有名義を事前に避けるための方策ついて説明します。
①遺言書の作成
相続により共有名義になることが多いので、遺言で財産の分配を明確化しておくことにより共有名義になることを避けることができます。
②遺産分割協議で分配する
遺産分割協議とは、遺産をどのように分配するかを相続人全員で協議し決めることです。たとえば、不動産とその他の財産がある場合、相続人のひとりが不動産を相続し、もうひとりの相続人がその他の財産を相続すると決めるなどです。どの財産を誰が相続するかでもめる可能性はありますが、一度決まってしまえば後で問題が起こることは少ないのでその点で優れています。
③換価分割する
不動産を複数人が相続したような場合、当該不動産を売却し、その代金を相続人で分け合えば、共有名義にすることを避けることができます。
④代償分割する
不動産を複数人が相続したような場合に、その内のひとりを単独所有者として登記し、その単独所有者は他の相続人に対して、代わりに現金を支払うというものです。相続不動産を相続人の誰かが使い続ける場合にこの方法が有効です。
⑤分筆する
土地などの分割可能な財産の場合、共有名義にするのではなく、分筆し権利の分属を避けることができます。分筆とは、単一の土地を複数に分割して登記し直すことです。たとえば、100平方メートルの土地を50平方メートルの2つの土地に分割し、それぞれ50平方メートルの土地を単独所有名義とするものです。 -
(2)共有名義になっている状況での対処方法
共有名義になっている状況でも、換価分割、分筆はできます。以下では、共有名義になった後に共有状態を解消する方法について紹介します。
①持分の買い取り
共有名義を解消する方法として、持分の買い取りがあります。たとえば、3人の共有名義になっている場合、その内のひとりが他のふたりから持分を買い取り単独名義にするというものです。もっとも簡便に共有名義を解消する方法ですが、自己資金が必要になります。
②持分の放棄
持分を放棄してもらうことによっても、共有を解消することができます。持分の放棄とは、共有者が自分の持分を放棄することをいいます。放棄された持分は他の共有者に帰属することになりますので、持分の放棄により共有者がいなくなる場合には単独名義とすることができます。ただ、持分の譲り受け人には贈与税が課税される可能性があるので、その点は注意が必要です。
③共有物分割請求訴訟
共有物分割協議が調わなければ、共有物分割請求訴訟を提起することができます。共有物分割請求訴訟とは、裁判所の裁定により不動産の共有名義の解消を行う訴訟のことです。裁判所が合理的な共有名義の解消策を裁定してくれます。
5、まとめ
今回は、不動産を共有名義にすることについての問題点について解説してきました。相続は突然やってきますので、遺産分割協議をしっかりとやらずに、安易に不動産などを共有名義にしてしまうということも多いと思います。
しかし、仲のよい兄弟で、意見も一致しているうちはいいですが、後になって兄弟同士が疎遠になったり、見解の相違が生じたりすると共有物を処分できなくなるなど、共有であるがゆえの不都合が生じることがあります。
そうならないためにも事前の対策が重要です。相続が発生した場合はもちろん、相続の発生前でも遺言書の作成など事前にできることはあります。ベリーベスト法律事務所・岡山オフィスでは、相続に関する相談も受け付けていますので、お気軽にご相談ください。
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