暴言は犯罪? どのような罪に問われる可能性があるのか弁護士が解説
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令和2年11月の報道によると、岡山市内の中学・高校教諭が卓球部員の頭をたたくなどの体罰や暴言を繰り返していたとして、減給処分を受けたという事件がありました。スポーツの部活動では、このような暴言や体罰が散見され、時折、ニュースなどで報道されています。
暴言については、このような学校内だけでなく職場内でも存在しており、パワハラとして問題視されています。暴言については、民事上の責任もありますが、その内容と程度によっては、犯罪にあたることもあります。
今回は、暴言によってどのような罪に問われる可能性があるのかについて、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説します。
1、暴言の基準とは?
今まで生活をしている中で他人から暴言を受けたことはありますか。職場や学校に限らず、日常生活を送る中でも暴言を受ける可能性があります。以下では、暴言の基準と暴言が問題となる具体的な状況について説明します。
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(1)暴言とは
暴言について、法律上明確な定義があるわけではありませんが、一般的には、礼を失した乱暴な言葉のことをいうとされています。暴言とは、いわゆる言葉の暴力ですので、暴言を受けた被害者の方は、精神的に傷つきますし、内容によっては日常生活に支障がでることもあります。
暴言の内容としては、「バカ」、「死ね」などの単純なものから、「こんな簡単なこともできないのか、役立たず」、「○○しなければ、お前の家を燃やしてやる」などさまざまなものがあり、暴言の内容と程度によっては、後述する犯罪行為にあたることもあります。仮に犯罪行為にあたらなかったとしても、それによって人格が傷つけられ精神的損害を被ったということであれば、民事上の責任を追及するということも考えられます。 -
(2)暴言が問題となる具体的状況
暴言は、犯罪となるもの以外にも、日常生活を送っていく中でさまざまな場面で目にすることがあります。暴言が問題となる代表的な類型としては、以下のものがあります。
① カスハラ
カスハラとは、正式には「カスタマーハラスメント」のことをいいます。つまり、消費者や顧客からの理不尽な嫌がらせのことをいいます。
接客業に従事している方の中には、消費者から悪質なクレームを受けたという経験がある方もいるかもしれません。クレームのすべてがカスハラにあたるわけではありませんし、クレーム自体は消費者からの貴重な意見ですので、企業としてもサービス向上のヒントとなるものです。
しかし、そのクレームが行き過ぎたものになり理不尽な要求を伴うものになれば、カスハラとして、違法となる可能性もあります。
② パワハラ
パワハラとは、正式には「パワーハラスメント」のことをいいます。代表的なものは、職場におけるパワハラであり、上司からの業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、職場環境を害されるものをいいます。
上司から、「給料泥棒」、「お前は使えない人間だ」などと暴言を受けたときには、パワハラに該当する可能性があります。
③ アカハラ
アカハラとは、正式には「アカデミックハラスメント」のことをいいます。簡単にいえば、大学などの教育現場において行われるパワハラだとイメージしてもらえればよいでしょう。
たとえば、教授から「お前は気に入らないから単位を与えない」、「こんな内容の論文なら小学生でも書ける」などの暴言を受けた場合には、アカハラにあたる可能性があります。
④ モラハラ
モラハラとは、正式には「モラルハラスメント」のことをいいます。モラハラは、主に家庭内で問題となり、配偶者の言動や態度によって精神的苦痛を受けることをいいます。
モラハラもその内容や程度によっては、離婚事由になる可能性もあり、慰謝料を請求される可能性もあります。
2、暴言が犯罪となるケース
暴言があった場合、その内容や程度によっては、以下の犯罪に該当する可能性があります。
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(1)軽犯罪法
軽犯罪法1条5号は、「公共の会堂、劇場、飲食店、ダンスホールその他公共の娯楽場において、入場者に対して、または汽車、電車、乗合自動車、船舶、飛行機その他公共の乗物の中で乗客に対して著しく粗野又は乱暴な言動で迷惑をかけた者」を拘留または科料に処すると規定しています。
したがって、公共の場所における入場者や公共の乗物における乗客に対し、著しく粗野または乱暴な言動で迷惑をかけたときには、軽犯罪法違反になります。たとえば、映画館などで大声で騒いで周囲の方々に迷惑をかけたときには、軽犯罪法違反にあたる余地があります。 -
(2)名誉毀損(きそん)罪、侮辱罪
相手を誹謗中傷するために、大勢の人がいる前で悪口を言った場合には、名誉毀損(きそん)罪(刑法230条)や侮辱罪(刑法231条)が成立する場合があります。「お前は人格障害者だ」「あの人は上司と不倫している」などと事実を適示した暴言が名誉毀損(きそん)罪、単に「お前はバカだ」などと事実を適示しない暴言が侮辱罪となり得ます。
名誉毀損(きそん)罪の法定刑は、「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」、侮辱罪の法定刑は、「拘留または科料」と規定されています。 -
(3)威力業務妨害罪
被害者の自由意思を制圧するような暴言を吐き、業務を妨害したときには、威力業務妨害罪が成立し得ます(刑法234条)。たとえば、お店に対して、何回も悪質なクレーム電話をする行為についても威力業務妨害罪が成立する可能性があります。
威力業務妨害罪の法定刑は、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」と規定されています。
3、暴言で逮捕されることはある?
暴言が犯罪行為にあたることがあるとしても、暴言で逮捕されることはあるのでしょうか。以下では、公務員に対して暴言を吐いた場合に、公務執行妨害罪で逮捕されるケースについて説明します。
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(1)公務執行妨害罪とは
公務執行妨害罪とは、職務を行う公務員に対し、暴行または脅迫をすると成立する犯罪です(刑法95条)。公務執行妨害罪の法定刑は、「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」と規定されています。
職務質問をしてきた警察官に対して、「殺すぞ」などと暴言を吐き、職務質問を拒否する行為や市役所の窓口の職員に対して、「お前の人生を終わらせてやる」などの暴言を吐き、窓口業務を妨害するなどの行為をしたときには、公務執行妨害罪に該当する可能性があります。 -
(2)公務執行妨害罪で逮捕されることはあるのか
公務員に対して暴言を吐いたときには、その内容によっては公務執行妨害罪が成立し得ます。そして、公務執行妨害罪に該当する行為をしたときには、逮捕される可能性があります。
たとえば、埼玉県内の市役所では、特別定額給付金の支給について、「支給が遅い」、「ガソリンをかぶって火をつける」などと暴言を吐き、市役所職員の職務を妨害した事例で、被疑者の男性は、公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕されました。
このように、暴言を吐くことで逮捕される事例もありますので、暴言だけなら大丈夫と甘く考えないようにしましょう。
4、暴言を受けた場合の対処
誰かから暴言を受けたときには、その内容や程度によっては民事上や刑事上の責任を追及することができます。被害者個人ができる具体的な対処法としては、以下のようなものがあります。
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(1)民事上の対処法
暴言を受けたのが、映画館などの公共の場所であり、見ず知らずの相手からだった場合には、その内容や程度にもよりますが、基本的には無視して受け流すのがよいでしょう。おそらく、そのような行為をする方は、面識のない方であることが多いと思いますので、今後かかわりを持つこともないでしょう。
他方、古くからの友人からひどい暴言を受けたなどのケースでは、当事者間で話し合いをしたうえで、それでも解決をしないのであれば、弁護士を間に挟んで交渉をするなどの方法があります。交渉が決裂し、さらにその暴言によって何らかの被害を被ったようなケースであれば、場合によっては慰謝料請求を行うことも考えられるでしょう。 -
(2)刑事上の対処法
加害者から受けた暴言の内容や程度によっては、すでに説明した犯罪行為にあたる可能性もあります。
加害者に対して刑事処罰を望む場合には、捜査機関に対して刑事告訴をするとよいでしょう。刑事告訴は、捜査機関に対して、口頭でも行うことができますが、早期に告訴を受理してもらうためには、告訴状といった書面を提出することが重要です。要点を押さえた告訴状の作成には専門的知識と経験が不可欠となりますので、専門家である弁護士に依頼して行うとよいでしょう。
5、まとめ
暴言を受けた方は、それによって多大な精神的苦痛を被ることになります。暴言で受けた被害を回復する手段としては、民事上の損害賠償請求があります。また、加害者の処罰を望むのであれば刑事処分を求めるということもできます。
暴言によって被害を受けた方は、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスまでお気軽にご相談ください。
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