企業担当者なら知っておきたい、出向を拒否する従業員への対応方法
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企業担当者は、ときとして社員の意にそぐわない命令を下さなくてはいけない場面に遭遇します。
希望しない出向を命じたところ、何らかの理由をつけて拒否されることもあるでしょう。
会社としての判断に異を唱える社員に対しては強制力をもって対処したいところですが、労働力の確保という観点や法律の規制などが気になるところです。
出向を拒否する社員に対して強制することは違法にならないのでしょうか?また、命令に従わない場合には処分を下すことも許されるのでしょうか?
本コラムでは、岡山オフィスの弁護士が「出向の拒否」をテーマに詳しく解説します。
1、「命令は絶対だ」は通用する? 出向命令の条件
会社に勤めている以上、望む・望まないにかかわらず人事異動は避けてとおれません。
必要な人材を必要な場所に必要な人数で配置しなくてはいけないので、たとえ多少の問題があったとしても争うことなく受け入れる従業員が大半でしょう。
ただし、「出向」となると通常の配置転換とは大きく違った負担が生じるため、しばしば出向命令に従うか否かという問題が発生します。
会社としては「会社の命令は絶対だ」「業務命令だから従うのは当然」と考えるでしょう。
しかし、条件次第では出向命令が認められないと判断されることもあります。
ここでは出向命令の条件について見ていきましょう。
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(1)「出向」とは?
出向とは、現在の勤務先の従業員として地位を保持したままで、ほかの企業で労務に従事することをいいます。
具体的には、次のようなケースが挙げられます。- 親会社の従業員としての地位を残したまま、小会社や関連会社で労務に従事する
- 同種の業界内で人材交流・育成を目的に社員を交換する
- 他業種間でキャリアアップを目指して資格を生かした会社に受け入れてもらった
出向が単なる配置転換と異なるのは、指揮命令権が出向先になるという点です。
出向元の従業員としての立場を維持しながらも、直接命令を下すのは出向先になります。
また、出向期間は最低でも6か月から1年程度、長ければ数年単位での契約になることが多いという点では、派遣とも異なる性格を持ちます。 -
(2)出向を命令できる条件
会社が従業員に出向を命令できる条件は、次の4点がポイントになります。
- 出向命令権が存在している
- 法令に違反していない
- 労働協約や就業規則に違反していない
- 権利濫用にあたらない
出向は労務を提供する相手が変わるという点で一般的な配置転換とは異なっています。
そのため、就業規則に「出向を命じることがある」という趣旨の規定があり、採用時にはこれに同意しているなどの状況がないと、出向命令権があるとは認められません。
また、出向が各種法令に違反していないことも重要な条件となります。
たとえば、組合活動の妨害や報復を目的にした出向は労働組合法で禁止されている不当労働行為にあたるほか、思想信条による差別を理由とした出向も労働基準法違反にあたるので認められません。
さらに、法令に違反していないとしても、労働協約などにおける人事協議条項や就業規則に違反している場合も、適正な出向とは認められないでしょう。
そして、非常に重要なのが、権利の濫用にあたらないことです。
労働契約法では、権利の濫用にあたる出向命令を無効とする旨が規定されています。【労働契約法 第14条】
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
2、社員は出向命令を拒否できるのか?
出向命令について、次の3点があれば拒否も認められ得ると考えられます。
- 出向の必要性がない
- 出向の相当性がない
- 出向の動機・目的が不当
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(1)出向命令の拒否が認められたケース
「いかなる場合も業務命令は絶対だ」というわけではありません。
過去に出向拒否の適法性が争われたケースでは、従業員が重度の障害を抱えた親をひとりで面倒をみており、出向によって介護が困難になるといった状況において、出向拒否が認められています。
家庭事情などを総合的に判断して出向が著しく酷なケースでは、出向命令が人事権の濫用にあたるおそれがあります。
また、出向先での賃金が著しく低下する、従来の業務と経験を生かしていないなど、合理性がない出向は拒否が認められやすくなるでしょう。 -
(2)出向命令の拒否が認められなかったケース
家族の介護や病気療養などを理由にした出向拒否は適法とされる例がありながらも、一律に拒否が認められるわけでもありません。
たとえば、子どもの下肢が不自由で夫婦共働きであったり、両親が高血圧の治療中といった理由で出向を拒否したケースでは、出向命令が有効とされた裁判例もあります。
また、一部の業務を社外に委託したことを契機に、担当者に委託先への出向を命じた事例では、労働協約・就業規則による定めが明らかで、出向手当てや昇格・昇給といった査定にも配慮が尽くされていたため、出向命令は有効と判断されました。
出向命令の拒否が許されないと判断されるケースは、就業規則における定めや労働者の同意が担保されており、出向を命じられた労働者に著しい不利益が生じないような配慮が尽くされているようなケースということになります。
3、出向命令を拒否した従業員への懲戒処分は可能か?
適切な業務命令として出向を命令しているにもかかわらず、個人的な都合で出向を拒否しているのであれば、懲戒処分を検討することもあるでしょう。
出向命令を拒否した従業員への懲戒処分は適法と認められるのでしょうか?
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(1)懲戒処分の対象になり得る
労働契約を結ぶ時点で出向があり得ることを周知しており、労働者がこれに同意している場合で、労働者に著しい不利益が生じないよう配慮された出向命令は適法です。
そして、適法になされた出向命令を拒否した従業員は、業務命令違反として重大な債務不履行を行ったといえます。
出向を拒否した従業員に対して業務命令違反を理由に懲戒処分を行うことも可能なので、必要な範囲内で処分を下し、社内の規律保持に努めることも検討しましょう。 -
(2)懲戒解雇は最終手段と考えるべき
出向命令を拒否した従業員に対して懲戒処分を行う場合は、過重な処分にならないよう注意しなければいけません。
一般的に懲戒処分は5段階に分けられます。- 戒告
- 減給
- 出勤停止
- 降格
- 懲戒解雇
まずは懲戒処分を行う可能性があることを前提に、指導と警告を加えるのが賢明です。
この段階で出向命令に応じる姿勢が認められれば、懲戒処分を行う必要はありません。
さらに出向命令に応じない場合は、戒告や減給といった指導的な内容の懲戒処分によって是正を求めることもあり得ますが、命令を拒めば解雇を検討することもあるかもしれません。
ただし「強情に拒否するなら懲戒解雇」とするのは不適切です。
懲戒解雇は労働者にとって不利益が強い解雇であり、適法性の争いにも発展しやすいというリスクがあります。どうしても解雇が必要と考えられるのであれば,普通解雇を目指すほうが賢明でしょう。
懲戒解雇は最終手段なのです。
4、まとめ
会社の経営方針や業務の方向性などによっては、従業員に出向を命じる機会が生じることもやむを得ません。出向命令が適法になされたものであれば、業務命令としてこれに従うよう従業員を説得するべきです。合理的な理由もなく出向を拒否する従業員には、懲戒処分を行ってでも規律を正す必要がある場合もあるでしょう。
ただし、出向命令の拒否が直ちに業務命令違反と認められるわけではありません。根拠がなく、合理性もない出向命令は適法性が否定されるおそれがあるため、懲戒処分を行うには慎重な判断を要します。
出向命令や、出向命令の拒否に対する懲戒処分の適法性を判断したいとお悩みの場合は一度、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスまでご相談ください。企業法務のトラブル解決実績が豊富な弁護士がアドバイスを含めてサポートいたします。
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