残業代が出ないのは当たり前ではない! 理由と請求できる方法

2021年04月05日
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残業代が出ないのは当たり前ではない! 理由と請求できる方法

厚生労働省の岡山労働局が発表している「全産業年間労働時間の推移」によれば、岡山県で働く労働者の令和元年の所定内労働時間の平均は1621時間、総実労働時間の平均は1771時間でした。月に換算すると、岡山県で働いている方の平均残業時間は、約12.5時間です。

労働者が残業したときには、企業は原則として残業代を支払わなければいけません。しかし、岡山県を含め、今日に至るまで残業代の未払い問題は全国で断続的に起きています。

このとき、よくある企業の言い分が、「たしかに残業代支給は法律で決まっているけれど、うちは○○だから残業代が出ないのが当たり前」というものです。果たして、そのような主張は認められるのでしょうか。

本記事で、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスの弁護士が解説するので、残業代の未払いを解決したいときの参考としてください。

1、残業代はなぜ出ない

そもそも、なぜ残業代が出ないという事態が起こるのでしょうか。まずは、その背景や、未払いになりやすい職種から確認していきましょう。

  1. (1)残業代が出ない背景

    残業代が出ない背景として、企業の業績悪化によって、残業代が未払いになるというケースもあります。しかし、法律を都合のいいように利用して、残業代は出ないと主張しているケースもありがちです。

    たとえば、労働基準法第41条第2号によれば、監督もしくは管理の地位にある方、または機密の事務を取り扱う方は、通常の労働者に対する労働時間等に関する規定が適用されないため、残業代が支払われません。

    この法律を利用して、実質的には労働基準法上の管理監督者にはあたらないものの、あえて従業員の肩書を管理職にして残業代を支払わないようにする、いわゆる「名ばかり管理職」の問題が発生しています

    これ以外に、平成31年に施行された働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)も要因としてあげられます。

    この法律によって、労働者に月45時間・年360時間超の時間外労働をさせた場合、大企業・中小企業ともに刑罰が科されることになりました(一部例外を除く)

    しかし、その影響で、労働者にサービス残業をさせたり、持ち帰り残業をさせたりして、刑罰を逃れようとする企業が出てきているようです。

  2. (2)残業代未払いになりやすい職種

    残業代未払いになりやすい職種のひとつが、トラックドライバーなどの自動車にかかわる職種です。
    要因はさまざまですが、特に荷物を引き受ける際の待機時間に対して、賃金が支払われないことが慣習になっていることがあげられます。残業代未払いだけでなく、長時間拘束・長時間労働で、労働者が病気を発症したり事故が発生したりするケースもゼロではありません。

    また、保育士も、残業代の未払いが発生しやすい職種です。
    保育士は、子どもの面倒を見る以外に、事務作業や行事の打ち合わせなどの業務があります。しかし、子どもがいる間は子どもにかかりっきりにならざるを得ず、就業時間内に業務が終わらないことが多いのが現状です。
    にもかかわらず、子どもの面倒を見る時間だけを労働時間とみなす暗黙のルールがあるため、未払いが発生しやすくなっています。タイムカードがなく、出退勤時間の記録が手書きの現場が多いのも原因のひとつです。

    このほか、介護士の残業代未払いも、散見されます。
    介護士は、人手不足の中で利用者のお世話をしつつ、膨大なデスクワークをこなさなければならず、残業時間が増えがちです。こうした事情から、厚生労働省では介護報酬に関して定期的に審議を行っています。
    ところが、運営を続けるために、その介護報酬を介護士に還元しない施設があり、残業代未払いの問題につながっているようです。

2、残業代が出ないのは当たり前ではない

残業代未払いの発生には、さまざまな背景があります。しかし、だからと言って、残業代が出ないのは当たり前ではありません。

労働基準法第11条に、賃金に対する定義があります。これによれば、賃金とは、労働の対償として労働者に支払うすべてのものです。同法第24条では、労働者に賃金を全額支給するように定められています。

したがって、残業をした労働者に賃金が支払われていないときには、法律違反となる可能性があります

また、ここで言う労働者は、職場の種類を問わず、事業または事務所に使用される方で、賃金を支払われる方です(同法第9条)。残業代未払いの理由が「営業職だから」「介護士だから」という職種を利用したものであれば、違法とみなされる可能性があるでしょう(ただし、労働基準法で残業代が出ないと定められている職業も一部あります)。

加えて、同法第37条では、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働いた分に対して、労働者に割増賃金を支払うように規定されています。そのため、残業代が支払われていたとしても、法律の定める計算方法に則って算出される金額を下回っているときには、違法となる可能性があります。具体的な算出方法は、後ほど詳しく解説します。

3、残業代が出ないのが違法にならないケース

労働者は、残業をしたら基本的に残業代がもらえます。ただし、支払われないことが違法にならないケースもあります。特に注意したいのが、以下の3つです。

  1. (1)管理監督者の地位についている場合

    上述したように、管理監督者には残業代が発生しません。

    しかし、名目的には管理職であっても、業務の実態が労働基準法が定める管理監督者に該当しなければ、残業代を支払ってもらえると考えていいでしょう

    すなわち、以下のような場合です。

    • 企業全体の事業経営に関する重要事項にさほど関与していない
    • 勤務形態が労働時間に対する規定の中で十分に対応できる
    • 管理監督者にふさわしい待遇がなされていない


    これらが認められるとき、会社には残業代の支払い義務が発生します。

  2. (2)みなし労働時間制の場合

    みなし労働時間制は、あらかじめ設定した労働時間で賃金を計算する制度です。そのため、実際の労働時間が長くても短くても賃金には反映されません。

    1日の労働時間が8時間と設定されている場合、仮に実際の労働時間が12時間であっても、5時間であっても、支払われる賃金は8時間分です。

    もっとも、企業がみなし労働時間制を導入するためには、一定の要件を満たす必要があります。

    たとえば、みなし労働時間制のひとつである事業場外みなし労働時間制の場合、当該の労働者が会社からの指示が容易に受けられる通信機器を持っていない、会社から具体的な業務の指示を受けていないなどです。

    このような要件を満していない場合には、みなし労働時間制の定めは無効であり、実際の労働時間に応じた残業代が支払われなければなりません

  3. (3)自主的に持ち帰り残業をした場合

    持ち帰り残業とは、職場で終わらなかった業務を自宅で行うことを言います。このとき、職場でできるにもかかわらず「職場だと集中できないから」という理由だったり、仕事量が持ち帰り残業が必要なほど多くなかったりすると、残業代未払いが違法ではないとみなされることがあります。

    一方で、会社から明確に持ち帰り残業が指示された、指示がなくても持ち帰り残業をせざるを得ない状況だったというような場合には、残業代が支払われる蓋然性が高いでしょう

4、残業代の算出方法

もらえるはずの残業代が支払われていないのであれば、会社にきちんと請求しましょう。

その前に、いくらもらえていないのか、以下の手順で算出してみてください。

  1. (1)残業時間の内訳を確認する

    残業代を計算するときは、まず残業が法内残業と法外残業、どちらに当てはまるのか確認します。

    法内残業は、所定労働時間を超えているけれど法定労働時間内におさまっている残業時間のことです。法内残業については労働基準法の時間外労働の規定は適用されませんが、通常の労働時間1時間あたりの金額が支払われなければなりません

    法外残業は、法定労働時間を超えて働いた労働時間を指し、このときの労働を時間外労働と言います。

    法外時間をしていたら、それが深夜労働(22時~翌5時までの労働)や休日労働(法定休日の労働)に該当するか確認して、区別します。なお、時間外労働と深夜労働、時間外労働と休日労働は、場合によって重なることがあるため、それも別にするといいでしょう。

    たとえば、所定労働時間が9時~18時(うち休憩1時間)で、ある日の労働時間が9時~23時までだったとします。このとき、18時~22時の5時間が時間外労働にのみ該当する残業時間、22時~23時の1時間が時間外労働と深夜労働が重なった残業時間です。

    1日の残業時間の内訳を確認したら、1か月でそれぞれが何時間あるのか、合計して算出します。

    このとき、「時間」だけでなく「分」を加えるのがポイントです。なお、1か月の残業時間を合計したときに1時間に満たない端数がある場合には、計算が終わった後に、30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げることが許容されています

  2. (2)1時間あたりの割増賃金を計算する

    残業時間を計算したら、その時間数に1時間あたりの賃金をかければ求めることができます。ただし、法外残業は、労働基準法で割増賃金が発生すると定められているため、先に1時間あたりの割増賃金を求めるのが一般的です

    1時間あたりの割増賃金は、基礎賃金×(1+割増率)で求められます。

    基礎賃金は、基本給と諸手当の合計を1か月の所定労働時間で割ったものです。諸手当は役職手当や資格手当などは加算しなければいけませんが、個々によって支給額が変わるもの(家族手当や通勤手当など)は含まれません。

    割増率は、時間外労働は25%(1か月60時間を超えた分は50%)、深夜労働は25%、休日労働は35%です。時間外労働+深夜労働のように重なったときは、25%+25%=50%と足し算をします。

  3. (3)(1)と(2)を元に残業代を算出する

    1時間あたりの割増賃金を求めたら、残業時間に掛けて残業代を算出します

    たとえば、1か月の時間外労働が30時間、深夜労働が2時間、時間外労働と深夜労働が重なる時間が10時間で、基礎賃金が2000円だったとしましょう。

    このときの残業代は、以下のように計算します。

    1か月の時間外労働 2000円 ×(1+25%)× 30時間 = 7万5000円
    深夜労働 2000円 ×(1+25%)× 2時間 = 5000円
    時間外労働と深夜労働が重なる時間 2000円 ×(1+50%)× 10時間 = 3万円
    合計 7万5000円 + 5000円 + 3万円 = 11万円

5、残業代請求は弁護士に相談を

残業代の請求は、会社と直接話し合って支払ってもらえるのであれば、それがベストです。しかし、うまくいかない場合が往々にしてあります。

話し合いで解決しなさそうなら、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士が代わりに会社と連絡を取り合うことで解決が早まったり、労働審判や訴訟をする必要が出てきても、弁護士なら専門知識に基づいてスムーズに対応を進められるからです

労働審判とは、裁判所に任命された審判員が、労働者と企業の間に入りながら交渉の手助けをしてくれる手続きを言います。当事者間の交渉では解決に至らなかった労働に関するトラブルを解決させる方法として、最初に用いるのが一般的です。

ただ、労働審判では、残業代未払いの事実を主張し、証拠を提示しつつ違法性を指摘しなければいけません。そのため、法的な知識が求められます。これは、訴訟でも同様です。

弁護士に相談をすれば、会社との交渉、労働審判、訴訟でかかる負担を労働者が自ら抱える必要がなくなります

なお、労働問題に関するトラブルでは、労働基準監督署に相談する手もあります。ただ、労働基準監督署はあくまで企業に対して法律を遵守するよう指導し、労働環境の是正勧告をする機関であり、労働者個人の問題解決がメインではないので注意してください。

6、まとめ

繰り返しになりますが、残業代が出ないのは当たり前ではありません。会社が法律に違反している可能性が十分に考えられ、違法なら未払い分の請求が可能です。

もしお困りでしたら、ベリーベスト法律事務所 岡山オフィスに気軽にご相談ください。労働問題の実績がある弁護士が、事情を伺った上で、状況がすぐに改善するように誠実に対応いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています